少し前の話になりますがLeSS版スクラムガイドである Scrum Guide (LeSS version) が公開されました。以前から気にはなっていたのですが時間が取れずしっかり読んでなかったのですが、ちょうど2020年版を改めて眺めていた時に思い出し比較してみることにしました。
この記事ではLeSS版スクラムガイドと2020年版を比較して私が気になったところをピックアップたものをまとめております。
私個人の解釈が入ったコメントが多々ありますが、あくまで私の個人的な感想になりますのでその前提で呼んで頂けますと幸いです。
Scrum Guide(2020年版)は日本語訳されているこちらのPDFをScrum Guide(LeSS Version)については公式サイトのものを機械翻訳したものを使用しております。そのため引用のテキストに違和感がある場合もあるかと思いますがご了承くださいませ。
最後の「Summary of updates in LeSS version(LeSS バージョンの更新内容の要約)」に記載がある変更項目ですが全般的にスクラムチームという表現がチームと変更されていました。
個人的な考察ですが、これはスクラムではなくLeSSであるため複数のチームの中のそれぞれのワンチームに向けた内容であるためなのかなと勝手の想像しています。
こちらも最後の「Summary of updates in LeSS version(LeSS バージョンの更新内容の要約)」に記載がある変更項目ですが全般的にプロダクトゴールという表現がプロダクトビジョンという記載に変更されていました。
個人的な理解ですがゴールは目標の到達点という具体的な表現になり、ビジョンは将来の見通しや未来像など抽象的な概念になるのかなと思っています。プロダクトゴールは2020年版から登場した概念ですがスプリントゴール以上の(一か月以上)先のプロダクトの未来の形を表すものだとするとゴールよりもビジョンという表現の方が自然な気もしますね。
ちなみに2020年版ではプロダクトゴールについて上記のような表現がなされています。
プロダクトゴールは、プロダクトの将来の状態を表している。
LeSS(Large-Scale Scrum)は、スクラムを複数チームによる製品開発に適用した結果として発展した組織システムです。LeSSはLeSSルールによって定義されます。LeSSルールは、チーム内のスクラム構造と製品全体レベルのスクラム概念(本ガイドで定義されている)を想定しています。
2020年版では「成⻑を続ける複雑な世界において、スクラムの利⽤は増加しており、我々はそれを⾒守っている。」という記載があり製品開発を前提としていなかったが、LeSSは製品開発に特化していると主張している印象を受けました。
スクラムは経験主義に基づいています。経験主義とは、知識は経験から得られ、観察された事実に基づいて意思決定を行うという考え方です。スクラムは反復的かつ漸進的なアプローチを採用し、適応力を最適化するとともに、リスクを早期に発見します。
2020年版はスクラムは「経験主義」と「リーン思考」に基づいているとなっていたけどリーン思考がなくなっていました。リーン思考のところがなくなっているのは驚きでした。
スクラムにおける役割
見出しのところですが「スクラムチーム」から「スクラムにおける役割」に見出しから変わっていました。
スクラムは、スクラムマスター、プロダクトオーナー、そしてプロダクトビジョンに焦点を当てたチームで構成されます。
2020年版では 複数の開発者 となっているがプロダクトビジョンに焦点を当てたチームと表現されている。
「ここがワンチームではないLeSSならでの部分だな」と感じました。
チームは、スプリントごとに使用可能なプロダクトインクリメントのあらゆる側面を作成することに専念する人々で構成されます。
スクラムチームと開発者の表現という表現が無くなり「プロダクトインクリメントのあらゆる側面を作成することに専念する人々」と表現されています。これは2020年版でいうところのPOやSMを含むスクラムチームと単純に置き換えられただけの意味ではなく、プロダクトの価値をだしていくつまりインクリメントを作成していくすべての役割、例えばデザイナさん、データ分析を行うデータサイエンティストさんなどもも含む表現なのかと個人的には解釈しています。
チームは次のような特徴を持っています。
- チームは自己管理型であり、誰が何をいつどのように行うかを内部で決定します。また、プロセスと進捗状況を監視・管理することもチームの責任です
- チームは部門横断的であり、チームメンバーは製品インクリメントの作成に必要なスキルをすべて有しているか、または習得することができます
- チームは、テスト、アーキテクチャ、運用、UX、ビジネス分析などのトピックに関連するサブチームを持っていません
- チームメンバーは専門スキルや専門分野を持つ場合もありますが、責任はチーム全体にあります。
- チームは、チームメンバーに対して責任を限定する肩書きや役割を一切認めない
この部分は2020年版よりも具体的に定義されている印象を持ちました。これはやはりLeSSがスケールされたスクラムであり、それゆえに一つのチームの心構えが大事になり、一つのチームの乱れる事がLeSSで構成されたチーム全体に影響を及ぼすことを意味するのだと感じる部分でした。
チームメンバーに求められる具体的なスキルは、業務領域によって異なる場合が多く、多岐にわたります。しかし、チームメンバーは常に以下の責任を負います。
- スプリント計画、スプリントバックログの作成
- 完成の定義を順守することで品質を浸透させること
- スプリントゴールに向けて、毎日計画を調整すること
- プロフェッショナルとして互いに責任を持つこと
ここは2020年版の開発者の責任の部分と同じになりますが、チームとなっていました。
スクラムマスターは、チームとプロダクトオーナーが円滑に機能すること、そして組織がスクラムを理解し、価値の創出と適応性の向上のためにスクラムを活用することに対して責任を負います。スクラムマスターは、改善を支援することでこれを実現します。
この部分は2020年版に比べてより具体的になった印象があります。
プロダクトビジョンを達成するために必要なすべての作業(スプリントプランニング、デイリースクラム、スプリントレビュー、スプリントレトロスペクティブ、プロダクトバックログリファイメント)はスプリントの中で実施されます。
プロダクトバックログリファイメントが入っているのはこの先のスクラムイベントの項目で解説があるため「スクラムイベントとして扱われたのだろう」と当初は考えていたのですが、最後の「Summary of updates in LeSS version(LeSS バージョンの更新内容の要約)」に以下のようにありました。
スクラムのイベントにプロダクトバックログの精緻化を追加したが、これはイベントではなくアクティビティとして実施できると明記した。
これを踏まて「スクラムイベントの説明ではなくスプリントに必要な作業という表現だから」と最終的に理解をしました。
スプリントプランニング
どのようにプロダクトビジョンを達成するのに役立つかを伝えるスプリントゴールを定義
スプリントゴールがプロダクトビジョンの達成をより意識したものである必要性を強調しているように感じました。
今スプリントでできること
この部分は2020版にあった後半の
「スプリント内でどれくらい完了できるかを選択するのは難しいかもしれない。しかしながら、開発者が過去の⾃分たちのパフォーマンス、今回のキャパシティ、および完成の定義の理解を深めていけば、スプリントの予測に⾃信が持てるようになる」
の表現が完全に削除されていました。
このスプリントで何が出来るかの予想は言わずともプランニング時点ではスプリントバックログにつまれているPBIだという意味なのかなと理解しました。
選択された作業はどうやって完了させるか? —
2020年版の後半には「プロダクトバックログアイテムを価値のインクリメントに変換する⽅法は誰も教えてくれない。」と言う表現がありましたが無くなっていました。
後半の「プロダクトオーナーまたはスクラムマスターがスプリントバックログのアイテムに積極的に取り組んでいる場合は、開発者として参加する。」という部分が削除されていました。
スプリントレトロスペクティブの目的は、品質、効果、楽しさを向上させる方法を計画することです。
楽しさ という言葉が追加されていました。なんだかちょっとおかしかったですw
プロダクトバックログの精緻化には、通常スプリントの10%以下の時間がかかります。
必要な時間が具体的に表現されていました。
※その他については上記で述べたとおりです。
「各作成物には、透明性と集中を⾼める情報を提供する「確約(コミットメント)」が含まれている。これにより進捗を測定できる。」という表現が削除されている。
これは成果物は確約されるものではなく実行した結果物という意味をこめたのかと勝手に妄想しています。
プロダクトバックログとは、プロダクトバックログアイテムの緊急かつ順序付けられたリストであり、プロダクトを進化させるために必要なあらゆるものを記述したものです。
特に違っていたのは「プロダクトを改善するために」が「プロダクトを進化させるために」と変わっているところ。
改善ではなく進化という表現を使っているところが興味深い。
改善は悪いところを良くしていく事を意味するが進化は優れたものに発展するという意味。悪いところの改善をしてさらに発展すると考えると進化が良いのかもしれない。
「すべてのインクリメントが連携して機能することを保証するために」
の表現がなくなっている。これはあえて書く必要はないっという理由でなくなったと勝手に解釈しています。
インクリメントの「確約(コミットメント):完成の定義」として扱われていたが独立して扱われている。
最後の「Summary of updates in LeSS version(LeSS バージョンの更新内容の要約)」には
完成の定義を導入。これはコミットメントではなく合意事項として扱われる。
と書かれてしました。
確約とはしっかりとした約束、合意とは一見が一致すること。個人的にはLeSSではよりチームの連帯感を意識した表現に変えたのではないかと理解しています。
この Scrum Guide の更新は、Scrum Guide 2020 をベースにしていますが、一部は Scrum Guide 2017 から引用しています。
2017年版との比較まではやっていないのですが、どこが引用されたかなどはちょっと時間がある時にでも見てみたいな思いましました。
その他の更新内容のところで気になったところはここまでで触れているので割愛いたします。
スクラムガイドはとても行間を読む必要があるドキュメントであると個人的に思っています。
それ故に読むたびに発見があり、私自身の捉え方も変わってくるので時々は読むようにしています。
今回のLeSSバージョンもどのような考えで書かれているのか、また2020年版があるにも関わらずどうして別で作られたかなど考えを巡らせながら読んだことで、私自身の中でまたスクラムについて深く考えるきっかけになったと思っています。
また定期的にこちらも読み直しをしてみようと思います。
それでは