目次
- 空虚真(Vacuous Truth)とは?
- 空虚真の論理的定義
- 直感的な例と応用
- 歴史的背景と発展
- 空虚真の意義と議論
- 参考文献
空虚真(Vacuous Truth)とは、命題が形式的に真とされるが、その真理が内容的に無意味または自明である場合を指す論理学や数学の概念である。主に「含意(( A \rightarrow B ))」の命題で、前件が偽であるときに命題全体が真になる 現象を指す。
この性質は論理的には正当なものであり、特に数学的証明や集合論において重要な役割を果たす。直感的には不自然に感じられることもあるが、論理体系の一貫性を保つための定義として広く受け入れられている。
命題 ( A \rightarrow B )(「もしAならばB」)の真理値表は以下のようになる。
A | B | A → B |
---|---|---|
T | T | T |
T | F | F |
F | T | T |
F | F | T |
前件(A)が偽(F)である場合、後件(B)が真でも偽でも命題全体は真(T)となる。このときの真が 空虚真(Vacuous Truth) である。
数学的には、含意 ( A \rightarrow B ) は ( \neg A \lor B )(「Aでない」または「B」)と同値であり、Aが偽ならば ( \neg A ) が真となるため、命題全体が必ず真となる。
- 命題:「もし私が火星の王ならば、今日は雨が降る。」
- 前件「私が火星の王」は偽。
- よって命題全体は空虚真。
- 空集合に対する命題:「空集合のすべての要素は偶数である。」
- 空集合には要素がないため、反証する要素もない。
- よって命題は空虚に真。
- 集合の包含関係:( A \subseteq B ) を証明するには「すべての ( x \in A ) が ( B ) に属する」ことを示す。
- もし ( A = \emptyset ) なら、反例が存在しないため命題は空虚に真。
アリストテレスら古代ギリシャの論理学者は、条件文の取り扱いについて自然言語的な解釈を行っていたが、明確な「空虚真」の概念はなかった。
19世紀から20世紀にかけて、フレーゲやヒルベルトらによって命題論理が確立され、「( A \rightarrow B ) は ( \neg A \lor B ) と同値」という形式が定義されたことで、空虚真の概念が明文化された。
古典論理では空虚真は一般的に受け入れられているが、直観主義論理や一部の非古典論理では、この解釈が必ずしも適用されない場合もある。
- 論理体系の整合性維持:含意の真理値を単純で一貫したものにする。
- 量化の自然な拡張:空集合や境界ケースを特別扱いせず、一般的な命題処理が可能。
- 証明の簡潔化:余計な例外処理が不要になり、論証が明確になる。
自然言語における「もし〜ならば〜」の意味と、形式論理における含意の定義との間には直観的なズレがある。このため、哲学者や論理学者の間でその適用範囲について議論が続いている。
- G.E. Hughes & M.J. Cresswell, A New Introduction to Modal Logic, Routledge, 1996.
- Alfred Tarski, Introduction to Logic and to the Methodology of Deductive Sciences, Oxford University Press, 1941.
- Bertrand Russell, The Principles of Mathematics, Cambridge University Press, 1903.
- Stephen Cole Kleene, Introduction to Metamathematics, North-Holland, 1952.