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文字禍・しあわせの理由・エピローグ / asa1984 Advent Calendar 2024 3日目

文字禍・しあわせの理由・エピローグ

「asa1984 Advent Calendar 2024」の3日目の記事です。

技術系のアドベントカレンダーだと思っていましたか?残念だったな!

今日は小説の話をします。


中学生から高校生1にかけて読んだ本は、当人の人間性や思想に大きな影響を与えると言われがちだが、筆者にとってのそれは

  • 中島敦『文字禍』
  • グレッグ・イーガン『しあわせの理由』
  • 円城塔『エピローグ』

の3冊である。

いや、『星を継ぐもの』『幼年期の終わり』『一九八四年』『三体』などの小説や、有川浩、星新一、安部公房といった作家など、他にも影響を受けたものはたくさんあるのだが、その中でも前述の3冊は私の自己認識を大きく変更した大変革命的な小説だったので、本稿ではそれらの説明・解釈・感想を述べようと思う。

『文字禍』

『山月記』でお馴染み中島敦の短編小説。青空文庫で読める。

『文字禍』は、アリッシヤという国のナブ・アヘ・エリバというすごい名前の博士が「文字の精霊」について研究する内に、病や災い、その他あらゆる害悪は全て文字のせいだと考えるようになり、最後は

夥しい書籍が――数百枚の重い粘土板が、文字共の凄まじい呪いの声と共にこの讒謗者の上に落ちかかり、彼は無慙にも圧死した。

という物語だ。

当然、文字の精霊などいるはずがなく、それらが災いの原因なわけでもない。ただし、それらを認識して言語化し、文字に記すことはできる。つまり、名を知っているからこそ己の不幸を具体的なものとして知るというような話で、博士が文字の精霊の災いだと考えたのは、単なる識字能力のある人間の認識能力の問題だったわけだ。

こう説明してしまうととても陳腐に聞こえるが、当時の私は、文字によって世界が規定されるみたいな考え方をかなり面白く感じた。ちょうど『虐殺器官』を読んでいたのもあり、虐殺の文法ってこういう考え方の延長にあるのかな、と思ったりもした。

そこから色々考えている内に、私は風呂に浸かりながら脳内で記号と意味の分離というアイデアを再発明し、後にWebフロントエンドやコンパイラを学ぶにあたって、シンタックスとセマンティクスという概念の理解に大いに役立つことになる。

『しあわせの理由』

「SF小説 おすすめ 海外」でググっていたところ、どの記事にも「グレッグ・イーガンは難しい」と書かれていたので本屋で手に取った。中学生が本を読むテンションはこんなものである。

これは短編集なのだが、印象深いのは表題作と『移相夢』だ。

表題作『しあわせの理由』は、少年の頃に脳の病気で幸福を感じられなくなった主人公が、適切な化学物質の供給を行う装置をインプラントする、という物語だ。

最強のハードSF作家が届ける緻密な描写は実際に読んでもらうとして、この主人公は最終的にどう考えても幸福とは言えなさそうな環境に暮らすことになり、そこを訪れた彼の父親に幸せか?と問われて、ここが気に入ってるんだと答えて終わる。

グレッグ・イーガンの十八番ともいうべきテーマなのだが、この話を読んだとき、自分の情動って結局電気信号のパターンと化学物質のバランスにすぎないんだ、という絶望感が薄っすらとあった。が、その後色々知識をつけていく上で、これは疑問を挟む余地などなく、そもそも当たり前でありふれた事実なのではないか?という考えに変わっていった。

グレッグ・イーガンの小説は、科学の進歩によってアイデンティティが揺さぶられる人々をテーマにしていることが多い。イーガン小説には、科学的な事実を否定するような過激派カルトがよく登場するので、読者からたまにネタにされていたりするが、例えば昨今のAIに対する世間の態度を見ていると、寧ろリアリティを感じてくる。

私の場合は、一種の虚無感を覚えるような諸々の事実を当たり前のものとして受け入れて、そこからどう主観的に楽しく、快楽的に生きていくかみたいな意識にシフトした。これに関してはKuruzgesagtの『楽観的虚無主義』を見ると面白いかも。

コンピューター好きには『移相夢』をおすすめする。これは人間の意識と計算の副作用の話で、ラストはちょっとホラー感がある。あの恐ろしく奇妙な読後感は是非実際に読んで味わってほしい。

『エピローグ』

「SF小説 おすすめ 日本」で調べると、大抵「円城塔は難しい」と書かれている。なので、当然本を手にとる。

この小説に限ってはあらすじをそのまま引用する。

オーバー・チューリング・クリーチャ(OTC)が現実宇宙の解像度を上げ、人類がこちら側へ退転してしばらく。特化採掘大隊の朝戸連と相棒の支援ロボット・アラクネは、OTCの構成物質を入手すべく、現実宇宙へ向かう。いっぽう、ふたつの宇宙で起こった関連性のない連続殺人事件の謎に直面した刑事クラビトは、背景に実存そのものを商品とする多宇宙間企業イグジステンス社の影を見る。宇宙と物語に何が起こっているのか?

意味がわからないが、内容はもっと意味がわからない。

正直、世のコンピューターオタクたちがこの小説を話題にしていないのが理解できない。コンピューター、数学、哲学の面白要素を大量に投入した非常に楽しい小説であると同時に、理解するのが非常に難しい物語である。それなのに文章が詩的で軽快なのですらすら読めてしまう不思議な小説。

マルチスレッドで動く人格とか、名前に自由変数が入っている料理研究家とか、ライフゲームのグライダーに侵攻されて滅亡したASCII文字たちの宇宙とか、虚数軸の時間軸を持つ宇宙とか、やりたい放題である。

この本には「エージェント」というAIの発展型みたいなものが登場するのだが、コイツらはチューリング・テストを突破するため人間と区別できない。普通ならこれを主題に物語が進行するのだが、『エピローグ』では「で、何か問題でも?」という感覚でほいほい進行する。一応言っておくと、これは2015年に出た小説なのでLLMなど存在しない。それでいてこんな物語を展開できるのかと結構驚く。

普通なら1つの小説のテーマになるレベルのものがハイペースで大量投入され、その都度作中世界がめちゃくちゃにされるので、読者の自己認識は急速に解体される。

まだ咀嚼しきれていないので、本稿の読者諸氏には是非この小説を読んでもらい、感想を共有してほしい。

Footnotes

  1. 筆者の場合、高専1~3年生

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