Optimus Alphaの作例
消費税の実務を行う中で、次のような疑問や不満の声をよく耳にします。
- 「自社で輸出を行えば消費税還付を受けられるのに、中間業者の場合は、最終的に商品が海外で消費されても還付を受けられないのは不公平ではないか?」
- 「昔の物品税は還付制度がなかったのに、なぜ今は消費税還付があるのか?」
- 「アメリカでは還付がないのに、日本ではなぜ還付が必要なのか?」
こうした疑問が生じる理由には、消費税制度の仕組みや、日本と海外の税制の違いが分かりづらいことなどがあります。
ここで例として、日本を代表する自動車メーカー・トヨタ自動車の輸出の流れを用いてご説明します。
- 部品メーカーA社が、国内の部品下請会社B社から部品を購入する
- トヨタ自動車がA社から部品を購入し、自動車を組み立てる
- トヨタ自動車が日本国内の販売会社へ自動車を販売する
- トヨタ自動車がアメリカのディーラーへ輸出販売を行う
※ 各取引で消費税10%を想定
- 部品B社 → A社(仕入時に消費税支払)
- A社 → トヨタ(売上時に消費税預かり、仕入消費税を控除して納付)
- トヨタ → 国内ディーラー(売上時に消費税を預かって納付)
- 最終的に、消費税を負担するのは国内の自動車購入者(消費者)です。
- B社 → A社 → トヨタまでは国内取引なので消費税が発生
- トヨタ → アメリカのディーラーへの自動車輸出分(輸出取引)は「輸出免税」となり、消費税は課されません
- しかし、トヨタはA社やその他から部品を買う際に消費税を支払っています
このままでは、トヨタは仕入れ時に払った消費税分だけ損をしてしまいます。そこで、「日本国内で最終的に消費されなかった」分については、国がトヨタに消費税を還付(返還)する仕組みになっています。これが「消費税還付」です。
たとえばA社(部品メーカー)は、トヨタに納品した時点では「この自動車が国内販売になるか輸出されるか」は不明です。もしA社が還付を受けたうえで、さらにトヨタも還付を受ければ、「二重還付」となり、不正や脱税のリスクが生じます。そのため、実際に輸出が行われ、証拠書類で確認できる最終輸出者(ここではトヨタ)が還付申請できる仕組みになっています。
かつての物品税は特定の商品だけに課税され、中間取引で税が発生しなかったため、還付の必要性もなかったという背景があります。消費税・付加価値税(VAT)は商流のすべての段階で課税と控除を行う「多段階課税」が特徴で、全く別の設計思想です。
アメリカの売上税は、最終小売販売の場面でのみ課税され、企業間取引には税がかかりません。仕入れ時に消費税を負担しない制度であるため「還付」という考え方自体が発生しません。
一方、日本やEU等の付加価値税(消費税)は、商流の各段階で課税・控除を行うため、輸出免税・還付が国際標準となっています。
「中間業者に還付がないのは不公平だ」という気持ちは理解できます。
しかし、
- 各事業者は、仕入時に支払った消費税と売上時に受け取った消費税の差額のみを納税(または還付申請)すれば良い制度であり、自社の付加価値部分のみ税負担が残る設計になっています。
- 輸出免税・還付は、「最終的に国外で消費される」が証名できる最終輸出者だけが対象となることで、全体の公正性・不正防止が保たれています。
つまり、中間業者が一方的に損をする設計ではなく、世界標準の付加価値税制度と整合しています。
- トヨタのような輸出企業は、仕入れ時に払った消費税について、国内で消費されなかった部分に限り「国から還付」されます。これは国際標準の仕組みです。
- 中間業者も、仕入控除方式により正当な税負担しか発生しておらず、不公平ではありません。
- 昔の物品税やアメリカ型売上税とは、制度の仕組みや目的が異なるため、直接比較はできません。
- 輸出還付は、日本を含めた多くの国の付加価値税制(消費税)の中で、制度の公正と合理性を保つための必要な仕組みです。