Created
September 21, 2012 15:38
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メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐のRISCを除かなければならぬと決意した。 | |
メロスには論理回路がわからぬ。メロスは理論数学の村人である。mapを作り、集合論と遊んで暮してきた。 | |
けれども直交性に対しては、人一倍に敏感であった。 | |
きょう未明メロスは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此のDECの市にやって来た。 | |
メロスにはMIPSも、SPARCも無い。Alphaも無い。十一の、内気なPDPと二人暮しだ。 | |
このPDPは、村の或る律気な一Unixを、近々、OSとして迎える事になっていた。 | |
インストールも間近かなのである。メロスは、それゆえ、PDP-11のフロントパネルやらプログラムのカードやらを買いに、 | |
はるばる市にやって来たのだ。 | |
先ず、その品々を買い集め、それから都のプログラムリストをぐだぐだ眺めた。 | |
メロスには竹馬の友があった。 | |
TOPS-20である。今は此のDECの市で、AI設計をしている。その友を、これから立ち上げてみるつもりなのだ。 | |
久しく使わなかったのだから、立ち上げてみるのが楽しみである。眺めているうちにメロスは、リストの様子を怪しく思った。 | |
ひっそりしている。もう既にOSも落ちて、システムの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、システムダウンのせいばかりでは無く、 | |
市全体が、やけに寂しい。のんきなメロスも、だんだん不安になって来た。リストで逢った若いバグをつかまえて、何かあったのか、 | |
二年まえに此のリストを読んだときは、NOPでも皆が欄外に詩を詠み、リストは賑やかであったはずだが、と質問した。 | |
若いバグは、首を振って答えなかった。しばらく歩いて古いバグに逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。古いバグは答えなかった。 | |
メロスは両手で古いバグのからだをゆすぶって質問を重ねた。古いバグは、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。 | |
「RISCは、命令を殺します。」 | |
「なぜ殺すのだ。」 | |
「クロックダウンを招いている、というのですが、誰もそんな、低速パスを持っては居りませぬ。」 | |
「たくさんの命令を殺したのか。」 | |
「はい、はじめはメモリ間の加算さまを。それから、バイト列のコピーさまを。 | |
それから、bit clearさまを。それから、bit間のswapさまを。 | |
それから、ローテート姉妹さまを。それから、賢臣のpush/pop様を。」 | |
「おどろいた。RISCは乱心か。」 | |
「いいえ、乱心ではございませぬ。設計を、信ずる事が出来ぬ、というのです。 | |
このごろは、臣下のニモニックをも、お疑いになり、少しく派手な演算をしている者には、 | |
エラッタをひとりずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めばマイクロコードに変換されて、殺されます。 | |
きょうは、六人殺されました。」 | |
聞いて、メロスは激怒した。「呆れた計算機だ。生かして置けぬ。」 |
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