兄貴分の長庵に頼まれ、女を殺す。
これは三次をして生まれて初めての人殺し。
真夜中の枯田んぼに、女を誘い出し、背後から手拭いで絞める。
ようやくにして、女は縊死ぬ。
体中に吹き出した汗が一気に冷たくなってゆくのを感じながら、しかし 手拭いを握りしめ、裏田んぼを後にする。
手拭いは、足がつかないよう、忘れずに持ち去れ。
竪川の見送り橋を渡る時に、その手拭いを川に投げ捨てれば、それで終いだ。
これは長庵の指示。
念仏のようにこれを唱えて、急ぎ足。見送り橋に辿り着く。
と、額から流れた汗が目に入り、思わず
手にした手拭いで目元の汗をぬぐう。
まぶたの上を、何かヌルっとしたものが這いずったような悪寒を感じ、
「ひっ」
と、三次は、慌てて手拭いを川に投げ捨てる。
ゆっくりと流れながら沈んでいく手拭いを見届け、長庵の棲家の暗がりへ走りだす。