2020-05-13 追記
- 継続して観測していて、対応が行われたアカウントの記録などを残している https://twitter.com/bulkneets/status/1259419102851903490
- FAQとして「機械が人間の都合に合わせろ」に対する反論を取り急ぎ置いておく
- 走り書きで書いた https://twitter.com/bulkneets/status/1260524434256879617
- https://twitter.com/voqn/status/1259515760986095617
- 記事下部に、フィードバックなどを追記した。
- この文章は mala (twitter: @bulkneets) が書いている。文責や見解は個人のものです。
- 所属している組織とは基本的に関係がないが、無関係というわけでもない。
- 特定の組織や個人をバカにしたい気持ちが無いといえば嘘になるけれど、諸事情があり、そういったことが出来なくなってしまったため、抑制的な表現が使われている。目安としては3割ぐらいに薄めて書いている。
表題の件、4月の前半ぐらいから、Twitterのユーザー名や説明文にスペースを挟んでいるユーザーをちらほら見かけるようになった。最初は、どういう意図でやっているのか分からず、検索避けでもしているのかと思っていたら、どうやら新型コロナウイルスの感染拡大防止に関連して、文字の間を空けることで「ソーシャルディスタンス」を表現しているということらしかった。
参考: スペースを挟んで検索しないとヒットしない状態になっている公式アカウントの図
- 単語の間にスペースが挟まることで、検索、音声読み上げ、翻訳などに支障が出る
どの程度、支障が生じるかは、空白が挟まる文字種や音声読み上げエンジン、翻訳エンジンにもよる。典型的にはアルファベットの間にスペースが挟まると、単語としては認識されない。日本語や漢字の単語の場合には、空白を無視して読み上げてくれることもあるようだった(文章全体で一旦形態素解析されるからだろう)。
参考文献いくつか
- https://waic.jp/docs/WCAG-TECHS/F32
- https://note.com/a11ytips_note/n/nbad91f60c5c1
- https://www.smbc.co.jp/accessibility/guidelines/guideline_34.html
自分がこれを把握したのは4月の半ばで、そもそもこれが「ソーシャルディスタンス」を表現するためにやっているということを理解するまでに少し時間を要した。そして理解すると同時に、形容しがたい嫌悪感を覚えることになった。「ああ、知性の欠落した野蛮人によってインターネットが破壊、蹂躙されているな」と感じ、本来であれば、(心の赴くままに)二言三言バカにして、いくつか問題を指摘する意見をRTしたりするところで、もしそうしていたならば4月半ばの時点で、この悪い連鎖を断ち切ることも簡単だっただろう。しかし、所属している組織の運用する公式アカウントがこれを「やらかした」ので、過度にDISることが出来なくなってしまった。
それから「障害者が困るからやめよう」というのは簡単だけれど、誰かから直接苦情を聞いたわけではない。音声読み上げなんかに関して言えば、視覚障害者はどのみち超高速で聞くので、多少スペースが入ってたりおかしく読み上げられても脳内補完して実のところ大して影響ないんじゃないかとも思ったりもする。自分がこの行為について嫌悪感を覚えているのは「誰かの代わり」に怒っているわけではない、ということを明確にしておきたい。検索であれば健常者にとっても影響があるから「直接困っている」と主張出来るかもしれないが、それも微妙に違う。自分が怒っているのは「単語にスペースを挟み込むこと」によって「情報を欠損させている」ということに対して、無自覚な人間に対する嫌悪によるものだ。
自分はデザインとかUIとかにはついては、それなりに造詣が深く、あれこれ言及することもあるけれど「アクセシビリティ」について、表立って語ってこなかったと思う。JavaScriptが無効だと動かないサイトもたくさん作ってきたし、今更にアクセシビリティとかバリアフリーだとかを掲げて怒り出すのはおこがましく、恥ずかしく、資格がないんじゃないかと思っている。今書いているこの段落も、共感を得るのが難しいのではないかと不安で仕方がない。
「アクセシビリティ」に対する自分のスタンスは、少しばかり、その界隈のセオリーから外れている可能性がある。データやプロトコルがオープンで、各々好きな方法で情報にアクセス可能であることこそが、自分の考える「アクセシビリティ」のための最重要事項だ。
検索や音声読み上げや翻訳などの「特定のソフトウェア」の機能に支障が生じるというのは、そのとおりなのだけれど、それは結果に過ぎないことであり、つまるところ自分の主張は「人間が困るからやめろ」ではなく「機械が困るからやめろ」ということだ。人間向けの可読性の調整が、逆に機械にとっては扱いにくくなることもある。(エクセルでセル結合したりオープンデータといってPDFを出したり)
「人間が困るからやめよう」「障害者が困るからやめよう」ではない。人間が、画面上に映し出された文字として読む分には、スペースが入っていても可読性は損なわれないかもしれない。印刷物であれば、読みやすさのためにスペースを入れて調整するようなこともあるだろう。でも、インターネット上に、ウェブ上に載せる文章やデータは、人間ではなくまずは機械が読むものだ。だから、人間のための可読性よりも、機械のための可読性の方が遥かに重要であり、機械から見た可読性が損なわれると、それにより検索や翻訳や音声読み上げなど、機械を通じた人間向けの変換結果全てに悪影響を及ぼす。
- 誰か他の人が言及するのを待っていたが、数えるほどしか見つからなかった。
- デマとかフェイクニュースとか絶対RTしないような、むしろ率先して止めるような人ですら、真似してるのを見かけてしまった。
自分がやらなくとも直接的な害があったり「アクセシビリティ」について代表して啓蒙するような立場の誰かが、そのうち書くだろうと思って放置してしまった。これを悪いことだと啓発したり、注意したりするのは自分の役割ではないなと考えてしまった。できれば freeeのエンジニアとかにやってほしかった。観測範囲でせいぜい2,3件だったので、放っておけば、そのうち自主的に気付いたり飽きたりして、自然に収まるだろうとも思っていた。(実際に問題に気付いてやめたアカウントもあった)
そうこうしているうちに、企業だけでなく政治家のような公人から、新聞社の公式アカウントなども次々に真似をし始めてしまった。それに対して批判する言及もいくつかあり、バリアフリー、アクセシビリティ、音声読み上げの問題に言及しているものもあったが、声は届いていないか、無視されている。真似をする人の増加は止まらない。
自覚して継続しているアカウントもあるのかもしれない。アクセシビリティが損なわれても「距離を取ろう」のメッセージを発信する方が社会的な意義があると考えているのかもしれない。おそらくはこの一連の流れは、企業ロゴを使った呼びかけなどから派生したものだと推測しているのだけれど、
- 感染リスク低減へ「距離をとって」、企業各社がロゴで呼びかけ https://www.cnn.co.jp/business/35151495.html
「良かれと思って」真似する人たちは、何かしらのメッセージを発信したい、賛同したい、のだと思う。しかし、ロゴを加工して新しいメッセージを発信することと違って、ユーザー名や説明文にスペースを挟み込む行為は、あまりにも手抜きであり、単に情報を欠損させ、情報へのアクセスに支障があるユーザーに対する加害であり、視覚のハンディキャップを持っていたり日本語を読むのに翻訳が必要なユーザーに対して「あなたたちの存在は重要ではない」という空気を醸成する行為だ。
何か優れたアイデア、クリエイティブな才能が無いのであれば、普段どおりにしていればそれでいいんじゃあないだろうか。他人のマネで、何か良いことをしていると思って、メッセージを発信しているというつもりになって、(強い言葉だとは自覚しつつも敢えて言うけれど) 加害行為に加担する無自覚で野蛮な人たちに、これ以上インターネットの価値を毀損してほしくない。
- この文章書くにあたって、実態調査のために2020年5月9日から、一晩かけて雑に130万件ほどのTwitterユーザーのプロフィールを収集した。
- 企業や公人の認証済みアカウントの中で、収集した範囲だと、1%程度に広まっていた。(7374件中、約72件)
- やじうまWatch https://internet.watch.impress.co.jp/docs/yajiuma/1251552.html
- スラド https://it.srad.jp/story/20/05/11/1456216/
マーケティングや広報に関わる人
- https://rem-rem.hatenablog.com/entry/2020/05/10/222124
- https://twitter.com/Kai_MSYK/status/1259626024498692097
「スラックティビズム」ではという反応
- https://twitter.com/Shot_And/status/1259513549207945216
- https://twitter.com/Dominion525/status/1259794909298491394
- 4/22 時点でもあった https://twitter.com/haghag1203/status/1252826228626604034
https://twitter.com/yuyaroid/status/1259630668172029952
個人的にも、特に公式に情報を発信してるようなアカウントではやめたほうが良いと思います。スクリーンリーダーでの読み上げの問題含めデメリットばかりで、これを行うメリットが思いつかないので。
https://twitter.com/toratorax/status/1259635821780451328
いろんな要素があると思うんですが最近変だなあと思っていたんです。iphoneのvoiceoverの読み上げ自体も悪くなっているのでそちらのせいだと思っていました。
https://www.u-works.co.jp/column/new014/
お願いです。スペースの挿入はほどほどにしておいてください。
私たちのような視覚障害者は、音声ブラウザでテキストを読み上げて情報を得ています。単語の間にスペースがありますと、単語として認識されないことがあり、正しく文章を読むことができなくなります。
アピールの気持ち、ユーモアの表現、私は結構好きです。殺伐としてどうする?といつも思っています。けれど、害があってはよくありません。そこのところをよろしくお願いしたく、緊急の提言となりました。
gistへのコメントより
音声読み上げなんかに関して言えば、視覚障害者はどのみち超高速で聞くので、多少スペースが入ってたりおかしく読み上げられても脳内補完して実のところ大して影響ないんじゃないかとも思ったりもする。
いえ、けっこうつらいです。 おかしく読み上げされた場合は、カーソルを戻して、1文字1文字たどって「ああ、そういうことか」と理解します。 (脳内補完できるのは頻繁に現れるパターンのときだけです)
個人的には、視覚的な表現方法の一つとして一定の理解はするけど、たいした意味もなくしょっちゅうやられたらたまったものではない、ということです。
I know that there are some expression style which can make effect visually, but just wonder if people notice there are some users who is using text-to-speech and how they feel when they faced such expression style and it force them to take unnecessary effort to read articles with such expression style which normal people don't need to take.
It would be up to the writer what expression style they use to transfer their thought efficiently including visual effect after they knew there is above circumstance, then they need to know it could limit and reduce their reader, subscriber and market.
And I don't think such discussion is limited to internet, it can be applied to any expressive activities.