マクロ経済学が「雇用の安定には成長が必要」と説くのは、生産性向上と人口増を吸収するために需要を拡大するという経験則に基づきます。ところが 成長が即‐大量消費・大量廃棄を伴う必然性はない、ということも近年の実証研究と政策事例から分かってきました。ポイントは 「デカップリング(分離)」—GDP を伸ばしつつ環境負荷を下げることが可能か という問いです。
指標 | 代表例 | 実績 |
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CO₂排出量/GDP | 英国 | 1990–2023 に GDP+82 %/温室効果ガス‑50 % (thetimes.co.uk) |
デンマーク | 1990–2019 に GDP 増を伴いつつ排出削減を継続 (oecd.org) | |
エネルギー強度(一次エネルギー/GDP) | 世界 | 2000–24 年平均で年‑1.9 %、24 年は‑2.2 %と加速 (iea.org) |
米国経済と排出 | 米国 | 2024 年に成長と温室ガス小幅減少を同時達成 (vox.com) |
こうした “絶対デカップリング”(排出量を減らしながら GDP を増やす)は、気候面では複数の先進国で成立しつつあります。学術レビューも「貿易調整済み CO₂ で見ても一部の国は既に成功している」と結論づけています。(thelancet.com)
- 素材フットプリントは依然右肩上がり OECD の長期シナリオでは、現行政策のままだと 2060 年に資源消費量は 2017 年比で 1.7 倍に膨張します。(oecd.org)
- グローバル再輸出効果 先進国で生産過程の排出が減っても、消費財を輸入すれば “隠れ排出” が海外に移転する――との批判があります。(resilience.org)
- デカップリングの速度不足 IEA は 2050 年ネットゼロ達成には エネルギー強度を年‑4 %改善させる必要があると試算。現在のペースでは約半分です。(iea.org)
- リバウンド効果 省エネで浮いたコストが他の消費を刺激すると、最終エネルギー使用が再び増える恐れがある(例:効率的車ほど走行距離が伸びる)。
ルート | 具体策・根拠 |
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① エネルギー効率の加速 | ・最低基準の強化、需要側レスポンス、市場設計(例:EU 電力市場改革) ・IEA は効率改善が 2030 年までに排出削減量の 45 %を担うと試算 (iea.org) |
② 再エネ+電化 | ・コスト低下で 2024 年には世界新規電源の 80 %が再エネ ・送配電網投資と蓄電池拡大で変動性を吸収(同年世界で 680 GWh のグリッド蓄電池容量) (vox.com) |
③ 循環経済 | ・日本:**プラスチック資源循環法(2022)**で「設計→回収→再資源化」の義務を産業横断で導入 (env.go.jp) ・経産省の CEREP 原則は、企業財務開示に循環指標を組込むことで投資資金を誘導 (meti.go.jp) |
④ 価格シグナル | ・炭素税(例:デンマーク1992〜)や排出量取引により「汚すほどコスト高」にすることで技術選択を誘導 (one.oecd.org) |
⑤ サービス化・働き方改革 | ・モノからサービスへ、稼働率を高めるビジネスモデル(MaaS, “product‑as‑a‑service”) ・英国 4 日労働制試験では 売上+1.4 %で労働時間‑20 %、雇用維持を実証 (businessinsider.com) |
- グリーン雇用の波:2024 年、米国ではクリーンエネルギー分野だけで +15 万件の新規雇用が生まれ、全体雇用増を上回りました。(vox.com)
- 労働時間配分の見直し:生産性向上を労働時間短縮で還元すれば、追加成長なしに完全雇用へ近づける可能性が示されています(4 日週やジョブ・ギャランティーの実証研究)。(levyinstitute.org)
- 分配と公共投資:需要不足時は、財政主導で雇用を維持しつつ環境インフラに投資することで「成長の質」を高められるという MMT/ケインズ系のシミュレーションもあります。(levyinstitute.org)
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気候ガスについては “絶対デカップリング” がすでに観測されており、技術・制度の組合せで拡大可能。
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ただし資源使用(特に一次材料)では十分なデカップリングは達成されていない。循環経済設計と価格付けなしには「成長=資源消費拡大」の構図が残る。
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雇用安定を成長一本に依存する必要はない。労働時間の再配分や公共雇用、サービス経済化などで“仕事の量”を確保しつつ環境負荷を抑えられる。
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したがって「成長か地球か」の二者択一ではなく、
- ① 排出と資源の価格付け
- ② 循環を前提にした製品設計とビジネスモデル
- ③ グリーン投資を促す金融・財政枠組
- ④ 労働時間短縮や所得再分配で需要ギャップを埋める …という包括的政策パッケージが鍵となります。
自動的に浪費が生まれるわけではありません。「どのような成長を選ぶか」が、地球環境と私たちの暮らし方を決定づけるというのが現在得られるマクロ経済学と環境経済学のコンセンサスです。
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