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@takatama
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{
"year": "2020",
"month": "03",
"ranking": [
{
"book_id": "773",
"access": 5113,
"title": "こころ",
"authors": [
"夏目 漱石"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"わたくし\">私</sub>はその人を常に先生と呼んでいた。だからここでもただ先生と書くだけで本名は打ち明けない。これは世間を<sub alias=\"はば\">憚</sub>かる遠慮というよりも、その方が私にとって自然だからである。私はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ「先生」といいたくなる。筆を<sub alias=\"と\">執</sub>っても心持は同じ事である。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/card773.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/17/Natsume_Soseki_photo.jpg/234px-Natsume_Soseki_photo.jpg",
"summary": "『こゝろ』(新仮名: こころ)は、夏目漱石の長編小説。漱石の代表作の一つ。1914年(大正3年)4月20日から8月11日まで、『朝日新聞』で「心 先生の遺書」として連載され、同年9月に岩波書店より漱石自身の装丁で刊行された。なお、自費出版という形式ではあるが、この作品が岩波書店にとって出版社として発刊した最初の小説となった。『彼岸過迄』『行人』に続く、後期3部作の最後の作品である。\n連載開始からちょうど100年たった2014年4月20日に、『朝日新聞』上で再度連載が開始された。\n新潮文庫版は、2016年時点で発行部数718万部を記録しており、同文庫の中でもっとも売れている。作品としても「日本で一番に売れている」本である。"
},
{
"book_id": "301",
"access": 4646,
"title": "人間失格",
"authors": [
"太宰 治"
],
"first_sentence": "私は、その男の写真を三葉、見たことがある。\n一葉は、その男の、幼年時代、とでも言うべきであろうか、十歳前後かと推定される頃の写真であって、その子供が大勢の女のひとに取りかこまれ、(それは、その子供の姉たち、妹たち、それから、<sub alias=\"いとこ\">従姉妹</sub>たちかと想像される)庭園の池のほとりに、荒い縞の<sub alias=\"はかま\">袴</sub>をはいて立ち、首を三十度ほど左に傾け、醜く笑っている写真である。醜く? けれども、鈍い人たち(つまり、美醜などに関心を持たぬ人たち)は、面白くも何とも無いような顔をして、\n「可愛い坊ちゃんですね」\nといい加減なお世辞を言っても、まんざら<sub alias=\"から\">空</sub>お世辞に聞えないくらいの、<sub alias=\"い\">謂</sub>わば通俗の「可愛らしさ」みたいな影もその子供の笑顔に無いわけではないのだが、しかし、いささかでも、美醜に就いての訓練を経て来たひとなら、ひとめ見てすぐ、\n「なんて、いやな子供だ」\nと<sub alias=\"すこぶ\">頗</sub>る不快そうに<sub alias=\"つぶや\">呟</sub>き、毛虫でも払いのける時のような手つきで、その写真をほうり投げるかも知れない。\nまったく、その子供の笑顔は、よく見れば見るほど、何とも知れず、イヤな薄気味悪いものが感ぜられて来る。どだい、それは、笑顔でない。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/card301.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/77/Osamu_Dazai.jpg/214px-Osamu_Dazai.jpg",
"summary": "『人間失格』(にんげんしっかく)は、小説家・太宰治による中編小説。『ヴィヨンの妻』『走れメロス』『斜陽』に並ぶ太宰の代表作の1つである。\n1948年(昭和23年)3月より書き始め、5月12日に脱稿した。太宰は、その1か月後の6月13日に山崎富栄とともに玉川上水で入水自殺した。\n同年、雑誌『展望』6月号から8月号まで3回にわたって掲載された本作品は、著者死亡の翌月の7月25日、筑摩書房より短編「グッド・バイ」と併せて刊行された。定価は130円。\n他人の前では面白おかしくおどけてみせるばかりで、本当の自分を誰にもさらけ出すことのできない男の人生(幼少期から青年期まで)をその男の視点で描く。この主人公の名前は、太宰の初期の小説『道化の華』に一度だけ登場している。\n戦後の売り上げは新潮文庫版だけでも累計発行部数670万部を突破しており、夏目漱石の『こころ』と何十年にもわたり累計部数を争っている。\n\n"
},
{
"book_id": "127",
"access": 4383,
"title": "羅生門",
"authors": [
"芥川 竜之介"
],
"first_sentence": "ある日の暮方の事である。一人の<sub alias=\"げにん\">下人</sub>が、<sub alias=\"らしょうもん\">羅生門</sub>の下で雨やみを待っていた。\n広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々<sub alias=\"にぬり\">丹塗</sub>の<sub alias=\"は\">剥</sub>げた、大きな<sub alias=\"まるばしら\">円柱</sub>に、<sub alias=\"きりぎりす\">蟋蟀</sub>が一匹とまっている。羅生門が、<sub alias=\"すざくおおじ\">朱雀大路</sub>にある以上は、この男のほかにも、雨やみをする<sub alias=\"いちめがさ\">市女笠</sub>や<sub alias=\"もみえぼし\">揉烏帽子</sub>が、もう二三人はありそうなものである。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card127.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/34/Akutagawa.ryunosuke.jpg/320px-Akutagawa.ryunosuke.jpg",
"summary": "『羅生門』(らしょうもん)は、芥川龍之介の小説。『今昔物語集』の本朝世俗部巻二十九「羅城門登上層見死人盗人語第十八」を基に、巻三十一「太刀帯陣売魚姫語第三十一」の内容を一部に交える形で書かれたものである。生きるための悪という人間のエゴイズムを克明に描き出した。"
},
{
"book_id": "789",
"access": 3682,
"title": "吾輩は猫である",
"authors": [
"夏目 漱石"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"わがはい\">吾輩</sub>は猫である。名前はまだ無い。\nどこで生れたかとんと<sub alias=\"けんとう\">見当</sub>がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めて人間というものを見た。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/card789.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/17/Natsume_Soseki_photo.jpg/234px-Natsume_Soseki_photo.jpg",
"summary": "『吾輩は猫である』(わがはいはねこである)は、夏目漱石の長編小説であり、処女小説である。1905年(明治38年)1月、『ホトトギス』に発表され、好評を博したため、翌1906年(明治39年)8月まで継続した。\n「吾輩は猫である。名前はまだ無い。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。」という書き出しで始まり、中学校の英語教師である珍野苦沙弥の家に飼われている猫である「吾輩」の視点から、珍野一家や、そこに集う彼の友人や門下の書生たち、「太平の逸民」(第二話、第三話)の人間模様が風刺的・戯作的に描かれている。\n着想は、E.T.A.ホフマンの長編小説『牡猫ムルの人生観』と考えられている。\nまた『吾輩は猫である』の構成は、『トリストラム・シャンディ』の影響とも考えられている。"
},
{
"book_id": "456",
"access": 3306,
"title": "銀河鉄道の夜",
"authors": [
"宮沢 賢治"
],
"first_sentence": "「ではみなさんは、そういうふうに川だと<sub alias=\"い\">云</sub>われたり、乳の流れたあとだと云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」先生は、黒板に<sub alias=\"つる\">吊</sub>した大きな黒い星座の図の、上から下へ白くけぶった銀河帯のようなところを<sub alias=\"さ\">指</sub>しながら、みんなに<sub alias=\"とい\">問</sub>をかけました。\nカムパネルラが手をあげました。それから四五人手をあげました。ジョバンニも手をあげようとして、急いでそのままやめました。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/card456.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/4d/Miyazawa_Kenji.jpg/225px-Miyazawa_Kenji.jpg",
"summary": "『銀河鉄道の夜』(ぎんがてつどうのよる)は、宮沢賢治の童話作品。孤独な少年ジョバンニが、友人カムパネルラと銀河鉄道の旅をする物語で、宮沢賢治童話の代表作のひとつとされている。\n作者の死により未定稿のまま遺されたこと、多くの造語が使われていることなどもあって、研究家の間でも様々な解釈が行われている。この作品から生まれた派生作品は数多く、これまで数度にわたり映画化やアニメーション化、演劇化された他、プラネタリウム番組が作られている。\n\n"
},
{
"book_id": "2093",
"access": 2377,
"title": "ドグラ・マグラ",
"authors": [
"夢野 久作"
],
"first_sentence": "…………ブウウ——————ンンン——————ンンンン………………。\n私がウスウスと眼を覚ました時、こうした<sub alias=\"みつばち\">蜜蜂</sub>の<sub alias=\"うな\">唸</sub>るような音は、まだ、その弾力の深い余韻を、私の耳の穴の中にハッキリと引き残していた。\nそれをジッと聞いているうちに……今は真夜中だな……と直覚した。そうしてどこか近くでボンボン時計が鳴っているんだな……と思い思い、又もウトウトしているうちに、その蜜蜂のうなりのような余韻は、いつとなく次々に消え薄れて行って、そこいら中がヒッソリと静まり返ってしまった。\n私はフッと眼を開いた。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000096/card2093.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/6/6d/Kyusaku_Yumeno.jpg/206px-Kyusaku_Yumeno.jpg",
"summary": "『ドグラ・マグラ』は、探偵小説家夢野久作の代表作とされる小説で、構想・執筆に10年以上の歳月をかけて、1935年に刊行された。小栗虫太郎『黒死館殺人事件』、中井英夫『虚無への供物』と並んで、日本探偵小説三大奇書に数えられている。\n「ドグラ・マグラ」の原義は、作中では切支丹バテレンの呪術を指す長崎地方の方言とされたり、「戸惑う、面食らう」や「堂廻り、目くらみ」がなまったものとも説明されているが、詳しくは明らかになってはいない。"
},
{
"book_id": "752",
"access": 2243,
"title": "坊っちゃん",
"authors": [
"夏目 漱石"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"おやゆず\">親譲</sub>りの<sub alias=\"むてっぽう\">無鉄砲</sub>で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど<sub alias=\"こし\">腰</sub>を<sub alias=\"ぬ\">抜</sub>かした事がある。なぜそんな<sub alias=\"むやみ\">無闇</sub>をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が<sub alias=\"じょうだん\">冗談</sub>に、いくら<sub alias=\"いば\">威張</sub>っても、そこから飛び降りる事は出来まい。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/card752.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/17/Natsume_Soseki_photo.jpg/234px-Natsume_Soseki_photo.jpg",
"summary": "『坊つちやん』(ぼっちゃん)は、夏目漱石による日本の中編小説。現代表記では、『坊っちゃん』となる。\n1906年(明治39年)、『ホトトギス』第九巻第七号(4月1日発行)の「附録」(別冊ではない)として発表。1907年(明治40年)1月1日発行の『鶉籠(ウズラカゴ)』(春陽堂刊)に収録された。その後は単独で単行本化されているものも多い。\n主人公は東京の物理学校(現在の東京理科大学の前身)を卒業したばかりの江戸っ子気質で血気盛んで無鉄砲な新任教師。登場する人物の描写が滑稽で、わんぱく坊主のいたずらあり、悪口雑言あり、暴力沙汰あり、痴情のもつれあり、義理人情ありと、他の漱石作品と比べて大衆的であり、漱石の小説の中で最も多くの人に愛読されている作品である。\n漱石自身が高等師範学校(後の東京高等師範学校、旧東京教育大学、現在の筑波大学の前身)英語嘱託となって赴任を命ぜられ、愛媛県尋常中学校(松山東高校の前身)で1895年(明治28年)4月から教鞭をとり、1896年(明治29年)4月に熊本の第五高等学校へ赴任するまでの体験を下敷きにして、後年書いた小説である。"
},
{
"book_id": "1565",
"access": 2188,
"title": "斜陽",
"authors": [
"太宰 治"
],
"first_sentence": "朝、食堂でスウプを一さじ、すっと吸ってお母さまが、\n「あ」\nと<sub alias=\"かす\">幽</sub>かな叫び声をお挙げになった。\n「髪の毛?」\nスウプに何か、イヤなものでも入っていたのかしら、と思った。\n「いいえ」\nお母さまは、何事も無かったように、またひらりと一さじ、スウプをお口に流し込み、すましてお顔を横に向け、お勝手の窓の、満開の山桜に視線を送り、そうしてお顔を横に向けたまま、またひらりと一さじ、スウプを小さなお唇のあいだに滑り込ませた。ヒラリ、という形容は、お母さまの場合、決して誇張では無い。婦人雑誌などに出ているお食事のいただき方などとは、てんでまるで、違っていらっしゃる。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/card1565.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/77/Osamu_Dazai.jpg/214px-Osamu_Dazai.jpg",
"summary": "『斜陽』(しゃよう)は、太宰治の中編小説。\n『新潮』1947年7月号から10月号まで4回にわたって連載された。同年12月15日、新潮社より刊行された。定価は70円だった。初版発行部数は1万部。すぐさま2版5,000部、3版5,000部、4版1万部と版を重ねベストセラーとなった。\n没落していく人々を描いた太宰治の代表作で、没落していく上流階級の人々を指す「斜陽族」という意味の言葉を生みだした。斜陽という言葉にも、国語辞典に「没落」という意味が加えられるほどの影響力があった。太宰治の生家である記念館は、本書の名をとって「斜陽館」と名付けられた。"
},
{
"book_id": "1465",
"access": 2041,
"title": "蟹工船",
"authors": [
"小林 多喜二"
],
"first_sentence": "「おい地獄さ<sub alias=\"え\">行</sub>ぐんだで!」\n二人はデッキの手すりに寄りかかって、<sub alias=\"かたつむり\">蝸牛</sub>が背のびをしたように延びて、海を<sub alias=\"かか\">抱</sub>え込んでいる<sub alias=\"はこだて\">函館</sub>の街を見ていた。——漁夫は指元まで吸いつくした<sub alias=\"たばこ\">煙草</sub>を<sub alias=\"つば\">唾</sub>と一緒に捨てた。巻煙草はおどけたように、色々にひっくりかえって、高い<sub alias=\"サイド\">船腹</sub>をすれずれに落ちて行った。彼は<sub alias=\"からだ\">身体</sub>一杯酒臭かった。\n赤い太鼓腹を<sub alias=\"はば\">巾</sub>広く浮かばしている汽船や、積荷最中らしく海の中から<sub alias=\"かたそで\">片袖</sub>をグイと引張られてでもいるように、思いッ切り片側に傾いているのや、黄色い、太い煙突、大きな鈴のようなヴイ、<sub alias=\"ナンキンむし\">南京虫</sub>のように船と船の間をせわしく縫っているランチ、寒々とざわめいている油煙やパン<sub alias=\"くず\">屑</sub>や腐った果物の浮いている何か特別な織物のような波……。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000156/card1465.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/72/Takiji_Kobayashi.JPG/192px-Takiji_Kobayashi.JPG",
"summary": "蟹工船(かにこうせん)\n\nカニを漁獲し、船上で缶詰に加工する工場施設を備えた漁船(工船)。\n小林多喜二の小説。1.が作中の舞台となっている。本項で詳述する。『蟹工船』(かにこうせん)は、文芸誌『戦旗』で1929年(昭和4年)に発表された小林多喜二の小説である。いわゆるプロレタリア文学の代表作とされ、国際的評価も高く、いくつかの言語に翻訳されて出版されている。\n1929年3月30日に完成し、『戦旗』5月号・6月号に発表。「昭和4(1929)年上半期の最高傑作」と評された。『蟹工船』の初出となった『戦旗』では検閲に配慮し、全体に伏字があった。6月号の編が新聞紙法に抵触したかどで発売頒布禁止処分。1930年7月、小林は『蟹工船』で不敬罪の追起訴となる。作中、献上品のカニ缶詰めに対する「石ころでも入れておけ! かまうもんか!」という記述が対象であった。戦後1968年、ほぼ完全な内容を収めた『定本 小林多喜二全集』(新日本出版社)が刊行された。\nこの小説には特定の主人公がおらず、蟹工船にて酷使される貧しい労働者達が群像として描かれている点が特徴的である。蟹工船「博光丸」のモデルになった船は実際に北洋工船蟹漁に従事していた博愛丸(元病院船)である。そしてこれは本。"
},
{
"book_id": "92",
"access": 1908,
"title": "蜘蛛の糸",
"authors": [
"芥川 竜之介"
],
"first_sentence": "ある日の事でございます。<sub alias=\"おしゃかさま\">御釈迦様</sub>は極楽の<sub alias=\"はすいけ\">蓮池</sub>のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている<sub alias=\"はす\">蓮</sub>の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある<sub alias=\"きんいろ\">金色</sub>の<sub alias=\"ずい\">蕊</sub>からは、何とも云えない<sub alias=\"よ\">好</sub>い<sub alias=\"におい\">匂</sub>が、<sub alias=\"たえま\">絶間</sub>なくあたりへ<sub alias=\"あふ\">溢</sub>れて居ります。極楽は丁度朝なのでございましょう。\nやがて御釈迦様はその池のふちに<sub alias=\"おたたず\">御佇</sub>みになって、水の<sub alias=\"おもて\">面</sub>を<sub alias=\"おお\">蔽</sub>っている蓮の葉の間から、ふと下の<sub alias=\"ようす\">容子</sub>を御覧になりました。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card92.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/34/Akutagawa.ryunosuke.jpg/320px-Akutagawa.ryunosuke.jpg",
"summary": "「蜘蛛の糸」(くものいと)は、芥川龍之介の児童向け短編小説(掌編小説)。芥川龍之介のはじめての児童文学作品で、1918年に発表された。アメリカ作家で宗教研究者のポール・ケーラスの『カルマ』の鈴木大拙による日本語訳『因果の小車』の中の一編が材源とされる。映画『蜘蛛の糸』についても説明する。\n内容は、地獄に落ちたカンダタという名の泥棒の男が、蜘蛛を助けたことがあったことから、釈迦がこの男に手を差し伸べるものである。\n\n"
},
{
"book_id": "424",
"access": 1896,
"title": "檸檬",
"authors": [
"梶井 基次郎"
],
"first_sentence": "えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終<sub alias=\"おさ\">圧</sub>えつけていた。<sub alias=\"しょうそう\">焦躁</sub>と言おうか、嫌悪と言おうか——酒を飲んだあとに<sub alias=\"ふつかよい\">宿酔</sub>があるように、酒を毎日飲んでいると宿酔に相当した時期がやって来る。それが来たのだ。これはちょっといけなかった。結果した<sub alias=\"はいせん\">肺尖</sub>カタルや神経衰弱がいけないのではない。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000074/card424.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/ja/thumb/a/aa/Motojiro_kazii.jpg/240px-Motojiro_kazii.jpg",
"summary": "『檸檬』(れもん)は、梶井基次郎の短編小説。梶井の代表的作品である。得体の知れない憂鬱な心情や、ふと抱いたいたずらな感情を、色彩豊かな事物や心象と共に詩的に描いた作品。三高時代の梶井が京都に下宿していた時の鬱屈した心理を背景に、一個のレモンと出会ったときの感動や、それを洋書店の書棚の前に置き、鮮やかなレモンの爆弾を仕掛けたつもりで逃走するという空想が描かれている。"
},
{
"book_id": "57228",
"access": 1860,
"title": "怪人二十面相",
"authors": [
"江戸川 乱歩"
],
"first_sentence": "そのころ、東京中の町という町、家という家では、ふたり以上の人が顔をあわせさえすれば、まるでお天気のあいさつでもするように、怪人「二十面相」のうわさをしていました。\n「二十面相」というのは、毎日毎日、新聞記事をにぎわしている、ふしぎな<sub alias=\"とうぞく\">盗賊</sub>のあだ名です。その賊は二十のまったくちがった顔を持っているといわれていました。つまり、<sub alias=\"へんそう\">変装</sub>がとびきりじょうずなのです。\nどんなに明るい場所で、どんなに近よってながめても、少しも変装とはわからない、まるでちがった人に見えるのだそうです。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001779/card57228.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/33/Rampo_Edogawa_02.jpg/250px-Rampo_Edogawa_02.jpg",
"summary": "怪人二十面相(かいじんにじゅうめんそう)は、江戸川乱歩の創作した架空の大怪盗。\n1936年(昭和11年)に『怪人二十面相』で初登場し、乱歩作品では1962年(昭和37年)まで、おもに少年少女向け探偵小説『少年探偵シリーズ』に登場した。またの名を「怪人四十面相」。日本人で、本名は遠藤平吉(えんどう へいきち)。\n\n"
},
{
"book_id": "794",
"access": 1803,
"title": "三四郎",
"authors": [
"夏目 漱石"
],
"first_sentence": "うとうととして目がさめると女はいつのまにか、隣のじいさんと話を始めている。このじいさんはたしかに前の前の駅から乗ったいなか者である。発車まぎわに<sub alias=\"とんきょう\">頓狂</sub>な声を出して駆け込んで来て、いきなり<sub alias=\"はだ\">肌</sub>をぬいだと思ったら背中にお<sub alias=\"きゅう\">灸</sub>のあとがいっぱいあったので、<sub alias=\"さんしろう\">三四郎</sub>の記憶に残っている。じいさんが汗をふいて、肌を入れて、女の隣に腰をかけたまでよく注意して見ていたくらいである。\n女とは京都からの相乗りである。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/card794.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/17/Natsume_Soseki_photo.jpg/234px-Natsume_Soseki_photo.jpg",
"summary": "『三四郎』(さんしろう)は、夏目漱石の長編小説である。1908年(明治41年)、「朝日新聞」に9月1日から12月29日にかけて連載。翌年5月に春陽堂から刊行された。『それから』『門』へと続く前期三部作の一つ。全13章。\n九州の田舎(福岡県の旧豊前側)から出てきた小川三四郎が、都会の様々な人との交流から得るさまざまな経験、恋愛模様が描かれている。三四郎や周囲の人々を通じて、当時の日本が批評される側面もある。三人称小説であるが、視点は三四郎に寄り添い、時に三四郎の内面に入っている。「stray sheep」という随所に出てくる言葉が印象的な作品である。"
},
{
"book_id": "1567",
"access": 1667,
"title": "走れメロス",
"authors": [
"太宰 治"
],
"first_sentence": "メロスは激怒した。必ず、かの<sub alias=\"じゃちぼうぎゃく\">邪智暴虐</sub>の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/card1567.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/77/Osamu_Dazai.jpg/214px-Osamu_Dazai.jpg",
"summary": "『走れメロス』(はしれメロス)は、太宰治の短編小説。処刑されるのを承知の上で友情を守ったメロスが、人の心を信じられない王に信頼することの尊さを悟らせる物語。"
},
{
"book_id": "49866",
"access": 1628,
"title": "変身",
"authors": [
"カフカ フランツ"
],
"first_sentence": "ある朝、グレゴール・ザムザが気がかりな夢から目ざめたとき、自分がベッドの上で一匹の巨大な毒虫に変ってしまっているのに気づいた。彼は甲殻のように固い背中を下にして横たわり、頭を少し上げると、何本もの弓形のすじにわかれてこんもりと盛り上がっている自分の茶色の腹が見えた。腹の盛り上がりの上には、かけぶとんがすっかりずり落ちそうになって、まだやっともちこたえていた。ふだんの大きさに比べると情けないくらいかぼそいたくさんの足が自分の眼の前にしょんぼりと光っていた。\n「おれはどうしたのだろう?」と、彼は思った。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001235/card49866.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/b4/Kafka.jpg/240px-Kafka.jpg",
"summary": "『変身』(へんしん、Die Verwandlung)は、フランツ・カフカの中編小説。カフカの代表作であり実存主義文学の一つとして知られ、また、アルベール・カミュの「ペスト」とともに代表的な不条理文学の一つとしても知られる。カミュの「ペスト」は不条理が集団を襲ったことを描いたが、カフカの「変身」は不条理が個人を襲ったことを描いた。\nこの「変身」における不条理は、主人公の男が、ある朝目覚めると巨大な虫になっていたことであり、男とその家族の顛末が描かれる。\n1912年11月に執筆され、1915年の月刊誌『ディ・ヴァイセン・ブレッター』10月号に掲載、同年12月にクルト・ヴォルフ社(ライプツィヒ)より「最後の審判叢書」の一冊として刊行された。カフカはこれ以前に執筆していた「判決」「火夫」とこの作品を合わせて『息子たち』のタイトルで出版することを考えていたが、採算が合わないという出版社の判断で実現しなかった。"
},
{
"book_id": "45630",
"access": 1574,
"title": "〔雨ニモマケズ〕",
"authors": [
"宮沢 賢治"
],
"first_sentence": "雨ニモマケズ\n風ニモマケズ\n雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ\n丈夫ナカラダヲモチ\n慾ハナク\n決シテ瞋ラズ\nイツモシヅカニワラッテヰル\n一日ニ玄米四合ト\n味噌ト少シノ野菜ヲタベ\nアラユルコトヲ\n",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/card45630.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/4d/Miyazawa_Kenji.jpg/225px-Miyazawa_Kenji.jpg",
"summary": "『雨ニモマケズ』(あめニモマケズ)は、宮沢賢治の没後に発見された遺作のメモである。一般には詩として受容されている。広く知られており、賢治の代表作のひとつともされるものである。\n「雨ニモマケズ/風ニモマケズ」より始まり、「サウイフモノニ/ワタシハナリタイ」で終わる漢字交じりのカタカナ書きである。対句のような表現が全編にわたって用いられ、最後のセンテンスになるまで主語(私)が明かされない。"
},
{
"book_id": "43737",
"access": 1432,
"title": "銀河鉄道の夜",
"authors": [
"宮沢 賢治"
],
"first_sentence": "「ではみなさんは、そういうふうに川だと<sub alias=\"い\">言</sub>われたり、<sub alias=\"ちち\">乳</sub>の<sub alias=\"なが\">流</sub>れたあとだと<sub alias=\"い\">言</sub>われたりしていた、このぼんやりと白いものがほんとうは何かご<sub alias=\"しょうち\">承知</sub>ですか」先生は、<sub alias=\"こくばん\">黒板</sub>につるした大きな黒い<sub alias=\"せいざ\">星座</sub>の図の、上から下へ白くけぶった<sub alias=\"ぎんがたい\">銀河帯</sub>のようなところを<sub alias=\"さ\">指</sub>しながら、みんなに<sub alias=\"と\">問</sub>いをかけました。\nカムパネルラが手をあげました。それから四、五人手をあげました。ジョバンニも手をあげようとして、<sub alias=\"いそ\">急</sub>いでそのままやめました。たしかにあれがみんな星だと、いつか<sub alias=\"ざっし\">雑誌</sub>で読んだのでしたが、このごろはジョバンニはまるで毎日教室でもねむく、本を読むひまも読む本もないので、なんだかどんなこともよくわからないという<sub alias=\"きも\">気持</sub>ちがするのでした。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/card43737.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/4d/Miyazawa_Kenji.jpg/225px-Miyazawa_Kenji.jpg",
"summary": "『銀河鉄道の夜』(ぎんがてつどうのよる)は、宮沢賢治の童話作品。孤独な少年ジョバンニが、友人カムパネルラと銀河鉄道の旅をする物語で、宮沢賢治童話の代表作のひとつとされている。\n作者の死により未定稿のまま遺されたこと、多くの造語が使われていることなどもあって、研究家の間でも様々な解釈が行われている。この作品から生まれた派生作品は数多く、これまで数度にわたり映画化やアニメーション化、演劇化された他、プラネタリウム番組が作られている。\n\n"
},
{
"book_id": "799",
"access": 1414,
"title": "夢十夜",
"authors": [
"夏目 漱石"
],
"first_sentence": "こんな夢を見た。\n腕組をして枕元に<sub alias=\"すわ\">坐</sub>っていると、<sub alias=\"あおむき\">仰向</sub>に寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。女は長い髪を枕に敷いて、<sub alias=\"りんかく\">輪郭</sub>の<sub alias=\"やわ\">柔</sub>らかな<sub alias=\"うりざね\">瓜実</sub><sub alias=\"がお\">顔</sub>をその中に横たえている。真白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、<sub alias=\"くちびる\">唇</sub>の色は無論赤い。とうてい死にそうには見えない。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/card799.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/17/Natsume_Soseki_photo.jpg/234px-Natsume_Soseki_photo.jpg",
"summary": "『夢十夜』(ゆめじゅうや)は、夏目漱石著の小説。1908年(明治41年)7月25日から8月5日まで『東京朝日新聞』で連載された。\n現在(明治)を始め、神代・鎌倉・100年後と、10の不思議な夢の世界を綴る。第一夜、第二夜、第三夜、第五夜の書き出しである「こんな夢を見た」が有名。漱石としては珍しい幻想文学のテイストが濃い作品である。"
},
{
"book_id": "56648",
"access": 1413,
"title": "人間椅子",
"authors": [
"江戸川 乱歩"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"よしこ\">佳子</sub>は、毎朝、夫の<sub alias=\"とうちょう\">登庁</sub>を見送って<sub alias=\"しま\">了</sub>うと、それはいつも十時を過ぎるのだが、やっと自分のからだになって、洋館の方の、夫と共用の書斎へ、とじ<sub alias=\"こも\">籠</sub>るのが例になっていた。そこで、彼女は今、K雑誌のこの夏の増大号にのせる為の、長い創作にとりかかっているのだった。\n美しい<sub alias=\"けいしゅう\">閨秀</sub>作家としての彼女は、<sub alias=\"こ\">此</sub>の<sub alias=\"ごろ\">頃</sub>では、外務省書記官である夫君の影を薄く思わせる程も、有名になっていた。彼女の所へは、毎日の様に未知の崇拝者達からの手紙が、幾通となくやって来た。\n<sub alias=\"けさ\">今朝</sub>とても、彼女は、書斎の机の前に坐ると、仕事にとりかかる前に、<sub alias=\"ま\">先</sub>ず、それらの未知の人々からの手紙に、目を通さねばならなかった。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001779/card56648.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/33/Rampo_Edogawa_02.jpg/250px-Rampo_Edogawa_02.jpg",
"summary": "『人間椅子』(にんげんいす)は、江戸川乱歩の著した短編小説である。『苦楽』1925年(大正14年)9月号に掲載された。"
},
{
"book_id": "624",
"access": 1366,
"title": "山月記",
"authors": [
"中島 敦"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"ろうさい\">隴西</sub>の<sub alias=\"りちょう\">李徴</sub>は博学<sub alias=\"さいえい\">才穎</sub>、天宝の末年、若くして名を<sub alias=\"こぼう\">虎榜</sub>に連ね、ついで<sub alias=\"こうなんい\">江南尉</sub>に補せられたが、性、<sub alias=\"けんかい\">狷介</sub>、<sub alias=\"みずか\">自</sub>ら<sub alias=\"たの\">恃</sub>むところ<sub alias=\"すこぶ\">頗</sub>る厚く、<sub alias=\"せんり\">賤吏</sub>に甘んずるを<sub alias=\"いさぎよ\">潔</sub>しとしなかった。いくばくもなく官を退いた後は、<sub alias=\"こざん\">故山</sub>、<sub alias=\"かくりゃく\"><img src=\"http://www.aozora.gr.jp/cards/../gaiji/1-91/1-91-48.png\" alt=\"※(「埒のつくり+虎」、第3水準1-91-48)\" class=\"gaiji\" />略</sub>に<sub alias=\"きが\">帰臥</sub>し、人と<sub alias=\"まじわり\">交</sub>を絶って、ひたすら詩作に<sub alias=\"ふけ\">耽</sub>った。下吏となって長く<sub alias=\"ひざ\">膝</sub>を俗悪な大官の前に屈するよりは、詩家としての名を死後百年に<sub alias=\"のこ\">遺</sub>そうとしたのである。しかし、文名は容易に揚らず、生活は日を<sub alias=\"お\">逐</sub>うて苦しくなる。李徴は<sub alias=\"ようや\">漸</sub>く<sub alias=\"しょうそう\">焦躁</sub>に駆られて来た。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000119/card624.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/45/AtsushiNakajima.jpg/214px-AtsushiNakajima.jpg",
"summary": "『山月記』(さんげつき)は、中島敦の短編小説。1942年(昭和17年)に発表された中島のデビュー作である。唐代、詩人となる望みに敗れて虎になってしまった男・李徴が、自分の数奇な運命を友人の袁傪に語るという変身譚であり、清朝の説話集『唐人説薈』中の「人虎伝」(李景亮の作とされる)が素材になっている。『山月記』の題名は、虎に変わった李徴が吟じる詩の一節「此夕渓山対明月」から取られている。\n初出時は、他1篇「文字禍」と共に「古譚」の題名で総括され『文學界』1942年2月号に掲載された。文部科学省検定済教科書『国語』の題材にしばしば採用され、中島の作品中でも知名度が高い。野村萬斎によって舞台化された。\n\n"
},
{
"book_id": "56650",
"access": 1354,
"title": "D坂の殺人事件",
"authors": [
"江戸川 乱歩"
],
"first_sentence": "それは九月初旬のある蒸し暑い晩のことであった。私は、D坂の大通りの中程にある、<sub alias=\"はくばいけん\">白梅軒</sub>という、行きつけのカフェで、冷しコーヒーを<sub alias=\"すす\">啜</sub>っていた。当時私は、学校を出たばかりで、まだこれという職業もなく、下宿屋にゴロゴロして本でも読んでいるか、それに飽ると、当てどもなく散歩に出て、あまり費用のかからぬカフェ廻りをやる位が、毎日の日課だった。この白梅軒というのは、下宿屋から近くもあり、どこへ散歩するにも、必ずその前を通る様な位置にあったので、<sub alias=\"したが\">随</sub>って一番よく出入した訳であったが、私という男は悪い癖で、カフェに入るとどうも<sub alias=\"ながっちり\">長尻</sub>になる。それも、元来食慾の少い方なので、一つは<sub alias=\"のうちゅう\">嚢中</sub>の乏しいせいもあってだが、洋食一皿注文するでなく、安いコーヒーを二杯も三杯もお代りして、一時間も二時間もじっとしているのだ。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001779/card56650.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/33/Rampo_Edogawa_02.jpg/250px-Rampo_Edogawa_02.jpg",
"summary": "『D坂の殺人事件』(ディーざかのさつじんじけん)は、1925年(大正14年)に発表された江戸川乱歩の本格探偵小説。またはこれを原作とした映画・テレビドラマ。"
},
{
"book_id": "2253",
"access": 1316,
"title": "ヴィヨンの妻",
"authors": [
"太宰 治"
],
"first_sentence": "あわただしく、玄関をあける音が聞えて、私はその音で、眼をさましましたが、それは泥酔の夫の、深夜の帰宅にきまっているのでございますから、そのまま黙って寝ていました。\n夫は、隣の部屋に電気をつけ、はあっはあっ、とすさまじく荒い呼吸をしながら、机の引出しや本箱の引出しをあけて<sub alias=\"か\">掻</sub>きまわし、何やら捜している様子でしたが、やがて、どたりと畳に腰をおろして坐ったような物音が聞えまして、あとはただ、はあっはあっという荒い呼吸ばかりで、何をしている事やら、私が寝たまま、\n「おかえりなさいまし。ごはんは、おすみですか? お戸棚に、おむすびがございますけど」\nと申しますと、\n「や、ありがとう」といつになく優しい返事をいたしまして、「坊やはどうです。熱は、まだありますか?」とたずねます。\nこれも珍らしい事でございました。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/card2253.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/77/Osamu_Dazai.jpg/214px-Osamu_Dazai.jpg",
"summary": "『ヴィヨンの妻』(ヴィヨンのつま)は、太宰治の短編小説。"
},
{
"book_id": "2078",
"access": 1311,
"title": "舞姫",
"authors": [
"森 鴎外"
],
"first_sentence": "石炭をば<sub alias=\"は\">早</sub>や積み果てつ。中等室の<sub alias=\"つくゑ\">卓</sub>のほとりはいと静にて、<sub alias=\"しねつとう\">熾熱燈</sub>の光の晴れがましきも<sub alias=\"いたづら\">徒</sub>なり。今宵は夜毎にこゝに集ひ来る<sub alias=\"カルタ\">骨牌</sub>仲間も「ホテル」に宿りて、舟に残れるは余<sub alias=\"ひとり\">一人</sub>のみなれば。\n<sub alias=\"いつとせまへ\">五年前</sub>の事なりしが、<sub alias=\"ひごろ\">平生</sub>の望足りて、洋行の官命を<sub alias=\"かうむ\">蒙</sub>り、このセイゴンの港まで<sub alias=\"こ\">来</sub>し頃は、目に見るもの、耳に聞くもの、一つとして<sub alias=\"あらた\">新</sub>ならぬはなく、筆に任せて書き<sub alias=\"しる\">記</sub>しつる紀行文日ごとに幾千言をかなしけむ、当時の新聞に載せられて、世の人にもてはやされしかど、<sub alias=\"けふ\">今日</sub>になりておもへば、<sub alias=\"をさな\">穉</sub>き思想、身の<sub alias=\"ほど\">程</sub>知らぬ放言、さらぬも<sub alias=\"よのつね\">尋常</sub>の動植金石、さては風俗などをさへ珍しげにしるしゝを、心ある人はいかにか見けむ。こたびは途に上りしとき、<sub alias=\"にき\">日記</sub>ものせむとて買ひし<sub alias=\"さつし\">冊子</sub>もまだ白紙のまゝなるは、<sub alias=\"ドイツ\">独逸</sub>にて物学びせし<sub alias=\"ま\">間</sub>に、一種の「ニル、アドミラリイ」の気象をや養ひ得たりけむ、あらず、これには別に故あり。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000129/card2078.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/71/Mori_Ogai_in_the_atelier_of_Sculptor_Takeishi_Kozaburo_in_1916.jpg/207px-Mori_Ogai_in_the_atelier_of_Sculptor_Takeishi_Kozaburo_in_1916.jpg",
"summary": "『舞姫』(まいひめ)は、森鴎外の短編小説。1890年(明治23年)、民友社社長の徳富蘇峰の依頼を受け執筆し『国民之友』に発表。\n森鴎外が1884年から4年間ドイツへ医学を学ぶために留学した時に執筆された。主人公の手記の形をとり、その体験を綴る。高雅な文体と浪漫的な内容で、初期の代表作。本作、『うたかたの記』、『文づかひ』の三作品を独逸三部作あるいは浪漫三部作と呼ぶことがある。この作品を巡り石橋忍月との間で論争(舞姫論争)が起こった。なお、主人公には作者森鴎外といくつかの類似点がある。「#太田豊太郎のモデル」も参照。\nなお、1910年発表の短編「普請中」も同じ事件を題材にしている。"
},
{
"book_id": "5016",
"access": 1308,
"title": "源氏物語",
"authors": [
"紫式部 "
],
"first_sentence": "どの天皇様の<sub alias=\"みよ\">御代</sub>であったか、<sub alias=\"にょご\">女御</sub>とか<sub alias=\"こうい\">更衣</sub>とかいわれる<sub alias=\"こうきゅう\">後宮</sub>がおおぜいいた中に、最上の貴族出身ではないが深い御<sub alias=\"あいちょう\">愛寵</sub>を得ている人があった。最初から自分こそはという自信と、親兄弟の勢力に<sub alias=\"たの\">恃</sub>む所があって宮中にはいった女御たちからは失敬な女としてねたまれた。その人と同等、もしくはそれより地位の低い更衣たちはまして<sub alias=\"しっと\">嫉妬</sub>の<sub alias=\"ほのお\">焔</sub>を燃やさないわけもなかった。夜の<sub alias=\"おとど\">御殿</sub>の<sub alias=\"とのいどころ\">宿直所</sub>から<sub alias=\"さが\">退</sub>る朝、続いてその人ばかりが召される夜、目に見耳に聞いて<sub alias=\"くちお\">口惜</sub>しがらせた恨みのせいもあったかからだが弱くなって、心細くなった更衣は多く実家へ下がっていがちということになると、いよいよ<sub alias=\"みかど\">帝</sub>はこの人にばかり心をお引かれになるという御様子で、人が何と批評をしようともそれに御遠慮などというものがおできにならない。御聖徳を伝える歴史の上にも暗い影の一所残るようなことにもなりかねない状態になった。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000052/card5016.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/a6/Tosa_Mitsuoki_001.jpg",
"summary": "『源氏物語』(げんじものがたり)は、平安時代中期に成立した日本の長編物語、小説。文献初出は1008年(寛弘五年)。作者の紫式部にとって生涯で唯一の物語作品である。主人公の光源氏を通して、恋愛、栄光と没落、政治的欲望と権力闘争など、平安時代の貴族社会を描いた。\n下級貴族出身の紫式部は、20代後半で藤原宣孝と結婚し一女をもうけたが、結婚後3年ほどで夫と死別し、その現実を忘れるために物語を書き始めた。これが『源氏物語』の始まりである。当時は紙が貴重だったため、紙の提供者がいればその都度書き、仲間内で批評し合うなどして楽しんでいたが、その物語の評判から藤原道長が娘の中宮彰子の家庭教師として紫式部を呼んだ。それを機に宮中に上がった紫式部は、宮仕えをしながら藤原道長の支援の下で物語を書き続け、54帖からなる『源氏物語』を完成させた。\nなお、源氏物語は文献初出からおよそ150年後の平安時代末期に「源氏物語絵巻」として絵画化された。現存する絵巻物のうち、徳川美術館と五島美術館所蔵のものは国宝となっている。また現在、『源氏物語』は日本のみならず20か国語を超える翻訳を通じて世界各国で読まれている。"
},
{
"book_id": "275",
"access": 1251,
"title": "女生徒",
"authors": [
"太宰 治"
],
"first_sentence": "あさ、眼をさますときの気持は、面白い。かくれんぼのとき、押入れの真っ暗い中に、じっと、しゃがんで隠れていて、突然、でこちゃんに、がらっと<sub alias=\"ふすま\">襖</sub>をあけられ、日の光がどっと来て、でこちゃんに、「見つけた!」と大声で言われて、まぶしさ、それから、へんな間の悪さ、それから、胸がどきどきして、着物のまえを合せたりして、ちょっと、てれくさく、押入れから出て来て、急にむかむか腹立たしく、あの感じ、いや、ちがう、あの感じでもない、なんだか、もっとやりきれない。箱をあけると、その中に、また小さい箱があって、その小さい箱をあけると、またその中に、もっと小さい箱があって、そいつをあけると、また、また、小さい箱があって、その小さい箱をあけると、また箱があって、そうして、七つも、八つも、あけていって、とうとうおしまいに、さいころくらいの小さい箱が出て来て、そいつをそっとあけてみて、何もない、からっぽ、あの感じ、少し近い。パチッと眼がさめるなんて、あれは嘘だ。濁って濁って、そのうちに、だんだん<sub alias=\"でんぷん\">澱粉</sub>が下に沈み、少しずつ<sub alias=\"うわずみ\">上澄</sub>が出来て、やっと疲れて眼がさめる。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/card275.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/77/Osamu_Dazai.jpg/214px-Osamu_Dazai.jpg",
"summary": "「女生徒」(じょせいと)は、太宰治の短編小説。"
},
{
"book_id": "47061",
"access": 1247,
"title": "学問のすすめ",
"authors": [
"福沢 諭吉"
],
"first_sentence": "「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」と言えり。されば天より人を生ずるには、万人は万人みな同じ位にして、生まれながら<sub alias=\"きせん\">貴賤</sub>上下の差別なく、万物の霊たる身と心との働きをもって天地の間にあるよろずの物を<sub alias=\"と\">資</sub>り、もって衣食住の用を達し、自由自在、互いに人の妨げをなさずしておのおの安楽にこの世を渡らしめ給うの趣意なり。されども今、広くこの人間世界を見渡すに、かしこき人あり、おろかなる人あり、貧しきもあり、富めるもあり、貴人もあり、下人もありて、その有様雲と<sub alias=\"どろ\">泥</sub>との相違あるに似たるはなんぞや。その次第はなはだ明らかなり。『<sub alias=\"じつごきょう\">実語教</sub>』に、「人学ばざれば智なし、智なき者は愚人なり」とあり。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000296/card47061.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/1a/Yukichi_Fukuzawa_1891.jpg/248px-Yukichi_Fukuzawa_1891.jpg",
"summary": "『学問のすゝめ』(學問ノスヽメ、がくもんのすすめ)は、福沢諭吉の著書のひとつであり代表作である。初編から17編までシリーズとして発行された。初編のみ小幡篤次郎共著。"
},
{
"book_id": "56866",
"access": 1232,
"title": "春琴抄",
"authors": [
"谷崎 潤一郎"
],
"first_sentence": "○\n春琴、ほんとうの名は<sub alias=\"もずやこと\">鵙屋琴</sub>、大阪<sub alias=\"どしょうまち\">道修町</sub>の薬種商の生れで<sub alias=\"ぼつねん\">歿年</sub>は明治十九年十月十四日、墓は市内下寺町の<sub alias=\"じょうどしゅう\">浄土宗</sub>の<sub alias=\"ぼうじ\">某寺</sub>にある。せんだって通りかかりにお墓参りをする気になり<sub alias=\"た\">立</sub>ち<sub alias=\"よ\">寄</sub>って案内を<sub alias=\"こ\">乞</sub>うと「鵙屋さんの墓所はこちらでございます」といって寺男が本堂のうしろの方へ連れて行った。見るとひと<sub alias=\"むら\">叢</sub>の<sub alias=\"つばき\">椿</sub>の木かげに鵙屋家代々の墓が数基ならんでいるのであったが琴女の墓らしいものはそのあたりには見あたらなかった。むかし鵙屋家の<sub alias=\"むすめ\">娘</sub>にしかじかの人があったはずですがその人のはというとしばらく考えていて「それならあれにありますのがそれかも分りませぬ」と東側の急な坂路になっている段々の上へ連れて行く。知っての通り下寺町の東側のうしろには<sub alias=\"いくたま\">生国魂</sub>神社のある高台が<sub alias=\"そび\">聳</sub>えているので今いう急な坂路は寺の<sub alias=\"けいだい\">境内</sub>からその高台へつづく<sub alias=\"しゃめん\">斜面</sub>なのであるが、そこは大阪にはちょっと<sub alias=\"めずら\">珍</sub>しい樹木の<sub alias=\"しげ\">繁</sub>った場所であって琴女の墓はその斜面の中腹を平らにしたささやかな<sub alias=\"あきち\">空地</sub>に建っていた。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001383/card56866.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/34/Junichiro_Tanizaki_01.jpg/224px-Junichiro_Tanizaki_01.jpg",
"summary": "『春琴抄』(しゅんきんしょう)は、谷崎潤一郎による中編小説。盲目の三味線奏者・春琴に丁稚の佐助が献身的に仕えていく物語の中で、マゾヒズムを超越した本質的な耽美主義を描く。句読点や改行を大胆に省略した独自の文体が特徴。谷崎の代表作の一つで、映像化が多くなされている作品でもある。\n1933年(昭和8年)6月、『中央公論』に発表された。単行本は同年12月に創元社より刊行された。\n\n"
},
{
"book_id": "776",
"access": 1230,
"title": "草枕",
"authors": [
"夏目 漱石"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"やまみち\">山路</sub>を登りながら、こう考えた。\n<sub alias=\"ち\">智</sub>に働けば<sub alias=\"かど\">角</sub>が立つ。<sub alias=\"じょう\">情</sub>に<sub alias=\"さお\">棹</sub>させば流される。意地を<sub alias=\"とお\">通</sub>せば<sub alias=\"きゅうくつ\">窮屈</sub>だ。とかくに人の世は住みにくい。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/card776.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/17/Natsume_Soseki_photo.jpg/234px-Natsume_Soseki_photo.jpg",
"summary": "『草枕』(くさまくら)は夏目漱石の小説。1906年(明治39年)に『新小説』に発表。「那古井温泉」(熊本県玉名市小天温泉がモデル)を舞台に、作者・漱石の言う「非人情」の世界を描いた作品である。\n「山路(やまみち)を登りながら、こう考えた。」という一文に始まり、「智(ち)に働けば角(かど)が立つ。情に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」と続く冒頭部分が特に有名である。初期の名作と評価されている。"
},
{
"book_id": "43754",
"access": 1202,
"title": "注文の多い料理店",
"authors": [
"宮沢 賢治"
],
"first_sentence": "二人の若い<sub alias=\"しんし\">紳士</sub>が、すっかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴかぴかする<sub alias=\"てっぽう\">鉄砲</sub>をかついで、<sub alias=\"しろくま\">白熊</sub>のような犬を二<sub alias=\"ひき\">疋</sub>つれて、だいぶ<sub alias=\"やまおく\">山奥</sub>の、木の葉のかさかさしたとこを、こんなことを<sub alias=\"い\">云</sub>いながら、あるいておりました。\n「ぜんたい、ここらの山は<sub alias=\"け\">怪</sub>しからんね。鳥も<sub alias=\"けもの\">獣</sub>も一疋も居やがらん。なんでも構わないから、早くタンタアーンと、やって見たいもんだなあ。」\n「<sub alias=\"しか\">鹿</sub>の黄いろな横っ腹なんぞに、二三発お<sub alias=\"みまい\">見舞</sub>もうしたら、ずいぶん痛快だろうねえ。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/card43754.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/4d/Miyazawa_Kenji.jpg/225px-Miyazawa_Kenji.jpg",
"summary": "『注文の多い料理店』(ちゅうもんのおおいりょうりてん)は、宮沢賢治の児童文学の短編集であり、またその中に収録された表題作の童話である。短編集としては賢治の生前に出版された唯一のものであり、童話としても『銀河鉄道の夜』『風の又三郎』などとともに賢治の代表作として知られる。\n\n"
},
{
"book_id": "52409",
"access": 1174,
"title": "三国志",
"authors": [
"吉川 英治"
],
"first_sentence": "三国志は、いうまでもなく、今から約千八百年前の古典であるが、三国志の中に活躍している登場人物は、現在でも中国大陸の至る所にそのまま居るような気がする。——中国大陸へ行って、そこの雑多な庶民や要人などに接し、特に親しんでみると、三国志の中に出て来る人物の誰かしらときっと似ている。或いは、共通したものを感じる場合がしばしばある。\nだから、現代の中国大陸には、三国志時代の<sub alias=\"ちらんこうぼう\">治乱興亡</sub>がそのままあるし、作中の人物も、文化や姿こそ変っているが、なお、今日にも生きているといっても過言でない。\n×\n三国志には、詩がある。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001562/card52409.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d9/Eiji_Yoshikawa.jpg/228px-Eiji_Yoshikawa.jpg",
"summary": "『三国志』(さんごくし、連載中の原題:三國志)は、日本の大衆小説作家吉川英治による歴史小説。\n新聞連載小説として、戦時中の1939年から1943年までほぼ4年間連載され、戦後に単行本として刊行され、絶大な人気を博した。基本的なストーリーラインは中国の歴史小説『三国志演義』に従いつつも、特に人物描写は日本人向けに大胆にアレンジし、今日までの日本における三国志関連作品へ多大な影響を及ぼした。"
},
{
"book_id": "58210",
"access": 1116,
"title": "銭形平次捕物控",
"authors": [
"野村 胡堂"
],
"first_sentence": "「親分、四谷<sub alias=\"おし\">忍</sub>町の小松屋というのを御存じですか」\n「聞いたことがあるようだな——山の手では<sub alias=\"ぶげん\">分限</sub>のうちに数えられている地主かなんかだろう」\n銭形平次が狭い庭に下りて、道楽の植木の世話を焼いていると、低い木戸の上に<sub alias=\"あご\">顎</sub>をのっけるように、ガラッ八の八五郎が声を掛けるのでした。\n「その小松屋の若旦那の重三郎さんを案内して来ましたよ。親分にお目にかかって、お願い申上げたいことがあるんですって」\nそう言えばガラッ八の後ろに、大町人の若旦那といった若い男が、ひどく<sub alias=\"おび\">脅</sub>えた様子で、ヒョイヒョイとお辞儀をしているのです。\n「お客なら大玄関から——と言いたいが、相変らずお静が<sub alias=\"ひなた\">日向</sub>を追っかけて歩くから、あそこは張板で<sub alias=\"ふさ\">塞</sub>がっているだろう。こっちへ通すがいい」\n「ヘッ、そこは端近、いざま——ずっと来たね。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001670/card58210.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/11/Kodo_Nomura_01.jpg/265px-Kodo_Nomura_01.jpg",
"summary": "『銭形平次捕物控』(ぜにがたへいじ とりものひかえ)は、野村胡堂による小説、またこの小説を基にした映画、テレビ時代劇、舞台作品。翻案作品ではタイトルを単に『銭形平次』とするものもある。\n神田明神下に住む岡っ引の平次(通称 銭形平次)が、子分の八五郎(通称:ガラッ八-ガラッパチ)と共に卓越した推理力と寛永通宝による「投げ銭」(重さ3.5グラムで、小石を投げつけるのと同じ)を駆使し、事件を鮮やかに解決していく。岡本綺堂『半七捕物帳』と共に最も有名な捕物帳(犯罪事件を題材とした時代物の推理小説)であり、代表的な時代劇作品の一つでもある。\n作品の舞台が江戸時代のいつ頃かははっきりしない。原作の最初の頃は寛永期(1624年 - 1645年、江戸初期)を舞台にしていたが、第30話から文化文政期(1804年 - 1830年、江戸後期)に移っている。\n平次は架空の人物であるが、小説の設定から神田明神境内に銭形平次の碑が建立されており、銭形平次の顔出し看板も設置されている。"
},
{
"book_id": "52410",
"access": 1072,
"title": "三国志",
"authors": [
"吉川 英治"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"ごかん\">後漢</sub>の<sub alias=\"けんねい\">建寧</sub>元年のころ。\n今から約千七百八十年ほど前のことである。\n一人の旅人があった。\n腰に、一剣を<sub alias=\"は\">佩</sub>いているほか、身なりはいたって見すぼらしいが、<sub alias=\"まゆ\">眉</sub>は<sub alias=\"ひい\">秀</sub>で、<sub alias=\"くち\">唇</sub>は<sub alias=\"あか\">紅</sub>く、とりわけ<sub alias=\"そうめい\">聡明</sub>そうな<sub alias=\"ひとみ\">眸</sub>や、<sub alias=\"ゆた\">豊</sub>かな頬をしていて、つねにどこかに微笑をふくみ、総じて<sub alias=\"いや\">賤</sub>しげな<sub alias=\"ようす\">容子</sub>がなかった。\n年の頃は二十四、五。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d9/Eiji_Yoshikawa.jpg/228px-Eiji_Yoshikawa.jpg",
"summary": "『三国志』(さんごくし、連載中の原題:三國志)は、日本の大衆小説作家吉川英治による歴史小説。\n新聞連載小説として、戦時中の1939年から1943年までほぼ4年間連載され、戦後に単行本として刊行され、絶大な人気を博した。基本的なストーリーラインは中国の歴史小説『三国志演義』に従いつつも、特に人物描写は日本人向けに大胆にアレンジし、今日までの日本における三国志関連作品へ多大な影響を及ぼした。"
},
{
"book_id": "42",
"access": 1062,
"title": "鼻",
"authors": [
"芥川 竜之介"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"ぜんちないぐ\">禅智内供</sub>の鼻と云えば、<sub alias=\"いけ\">池</sub>の<sub alias=\"お\">尾</sub>で知らない者はない。長さは五六寸あって<sub alias=\"うわくちびる\">上唇</sub>の上から<sub alias=\"あご\">顋</sub>の下まで下っている。形は元も先も同じように太い。云わば細長い<sub alias=\"ちょうづ\">腸詰</sub>めのような物が、ぶらりと顔のまん中からぶら下っているのである。\n五十歳を越えた内供は、<sub alias=\"しゃみ\">沙弥</sub>の昔から、<sub alias=\"ないどうじょうぐぶ\">内道場供奉</sub>の職に<sub alias=\"のぼ\">陞</sub>った<sub alias=\"こんにち\">今日</sub>まで、内心では始終この鼻を苦に病んで来た。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/34/Akutagawa.ryunosuke.jpg/320px-Akutagawa.ryunosuke.jpg",
"summary": "「鼻」(はな)は、芥川龍之介による初期の短編小説(掌編小説)。1916年に『新思潮』の創刊号で発表された。『今昔物語』の「池尾禅珍内供鼻語」および『宇治拾遺物語』の「鼻長き僧の事」を題材としている。\n「人の幸福をねたみ、不幸を笑う」と言う人間の心理を捉えた作品。この小説で夏目漱石から絶賛された。"
},
{
"book_id": "58093",
"access": 1027,
"title": "痴人の愛",
"authors": [
"谷崎 潤一郎"
],
"first_sentence": "私はこれから、あまり世間に類例がないだろうと思われる私達夫婦の間柄に就いて、出来るだけ正直に、ざっくばらんに、有りのままの事実を書いて見ようと思います。それは私自身に取って忘れがたない貴い記録であると同時に、恐らくは読者諸君に取っても、きっと何かの参考資料となるに違いない。<sub alias=\"こと\">殊</sub>にこの頃のように日本もだんだん国際的に顔が広くなって来て、内地人と外国人とが盛んに交際する、いろんな主義やら思想やらが<sub alias=\"はい\">這入</sub>って来る、男は<sub alias=\"もちろん\">勿論</sub>女もどしどしハイカラになる、と<sub alias=\"い\">云</sub>うような時勢になって来ると、今まではあまり類例のなかった私たちの<sub alias=\"ごと\">如</sub>き夫婦関係も、追い追い諸方に生じるだろうと思われますから。\n考えて見ると、私たち夫婦は既にその成り立ちから変っていました。私が始めて現在の私の妻に会ったのは、ちょうど足かけ八年前のことになります。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/34/Junichiro_Tanizaki_01.jpg/224px-Junichiro_Tanizaki_01.jpg",
"summary": "『痴人の愛』(ちじんのあい)は、谷崎潤一郎の長編小説。カフェーの女給から見出した15歳のナオミを育て、いずれは自分の妻にしようと思った真面目な男が、次第に少女にとりつかれ破滅するまでを描く物語。小悪魔的な女の奔放な行動を描いた代表作で、「ナオミズム」という言葉を生み出した。ナオミのモデルは、当時谷崎の妻であった千代の妹・小林せい子である。谷崎は連載再開の断り書きで、この小説を「私小説」と呼んでいる。\n1924年(大正13年)3月20日から6月14日まで『大阪朝日新聞』に連載し、いったん中断後に雑誌『女性』11月号から翌1925年(大正13年)7月号まで掲載された。単行本は同年7月に改造社より刊行された。"
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{
"book_id": "46084",
"access": 992,
"title": "姦(かしまし)",
"authors": [
"久生 十蘭"
],
"first_sentence": "いつお帰りになって? ……昨夜? よかったわ、間にあって……ちょいと咲子さん、昨日、大阪から久能志貴子がやってきたの。しっかりしないと、たいへんよ……ええ、ほんとうの話。あなたを担いでみたって、しようがないじゃありませんか。終戦から六年、その前が四年だから、ちょうど十年ぶり……誰だっておどろくわ。どんなことがあったって、東京へなど出てこられる顔はないはずなのに、そこが志貴子の図々しさよ……木津さん? 心配しているのは、そのことなのよ。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/36/Hisao_juran_photo.jpg/248px-Hisao_juran_photo.jpg",
"summary": ""
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{
"book_id": "42286",
"access": 987,
"title": "カラマゾフの兄弟",
"authors": [
"ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ"
],
"first_sentence": "この物語の主人公アレクセイ・フョードロヴィッチ・カラマゾフの伝記にとりかかるに当たって、自分は一種の懐疑に陥っている。すなわち、自分は、このアレクセイ・フョードロヴィッチを主人公と呼んではいるが、しかし彼がけっして偉大な人物でないことは、自分でもよく承知している。したがって、『アレクセイ・フョードロヴィッチをこの物語の主人公に選ばれたのは、何か彼に卓越したところがあってのことなのか? いったいこの男が、どんなことを成し遂げたというのか? 何によって、誰に知られているのか? いかなる理由によって、われわれ読者は、この人間の生涯の事実の研究に時間を費やさなければならないのか?』といったたぐいの質問を受けるにきまっていることは、今のうちからよくわかっている。\nこの最後の質問は最も致命的なものである。それに対しては、ただ、『御自分でこの小説をお読みになられたら、おそらく納得なさるであろう』としか答えられないからである。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/8/8f/Dostoevsky.jpg/241px-Dostoevsky.jpg",
"summary": "『カラマーゾフの兄弟』(カラマーゾフのきょうだい、露: Братья Карамазовы)は、ロシアの文学者フョードル・ドストエフスキーの最後の長編小説。"
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"book_id": "258",
"access": 985,
"title": "グッド・バイ",
"authors": [
"太宰 治"
],
"first_sentence": "文壇の、<sub alias=\"あ\">或</sub>る老大家が<sub alias=\"な\">亡</sub>くなって、その告別式の終り頃から、雨が降りはじめた。早春の雨である。\nその帰り、二人の男が<sub alias=\"あいあいがさ\">相合傘</sub>で歩いている。いずれも、その<sub alias=\"せいきょ\">逝去</sub>した老大家には、お義理一ぺん、話題は、女に<sub alias=\"つ\">就</sub>いての、<sub alias=\"きわ\">極</sub>めて不きんしんな事。紋服の初老の大男は、文士。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/77/Osamu_Dazai.jpg/214px-Osamu_Dazai.jpg",
"summary": "『グッド・バイ』は、太宰治の小説。未完のまま絶筆になった作品である。"
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{
"book_id": "42620",
"access": 982,
"title": "堕落論",
"authors": [
"坂口 安吾"
],
"first_sentence": "半年のうちに世相は変った。<sub alias=\"しこ\">醜</sub>の<sub alias=\"みたて\">御楯</sub>といでたつ我は。大君のへにこそ死なめかへりみはせじ。若者達は花と散ったが、同じ彼等が生き残って<sub alias=\"やみや\">闇屋</sub>となる。ももとせの命ねがはじいつの日か御楯とゆかん君とちぎりて。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/16/Ango_Sakaguchi_%28cropped%29.jpg/240px-Ango_Sakaguchi_%28cropped%29.jpg",
"summary": "『堕落論』(だらくろん)は坂口安吾の随筆・評論。坂口の代表的作品である。第二次世界大戦後の混乱する日本社会において、逆説的な表現でそれまでの倫理観を冷徹に解剖し、敗戦直後の人々に明日へ踏み出すための指標を示した書。敗戦となり、特攻隊の勇士も闇屋に堕ち、聖女も堕落するのは防げないが、それはただ人間に戻っただけで、戦争に負けたから堕ちるのではなく、人間だから堕ちるのであり、生きているから堕ちるだけだ、と綴られている。旧来の倫理や道徳の否定といった次元ではなく、偉大でもあり卑小でもある人間の本然の姿を見つめる覚悟を示している作品である。\n1946年(昭和21年)4月1日、雑誌『新潮』(第43巻第4号)に掲載され、同年12月1日に続編(のち『続堕落論』)が、雑誌『文學季刊』第2号・冬季号の「評論」欄に掲載された。単行本は翌年1947年(昭和22年)6月25日に銀座出版社より刊行された。文庫版は角川文庫、新潮文庫などで重版されている。"
},
{
"book_id": "42618",
"access": 982,
"title": "桜の森の満開の下",
"authors": [
"坂口 安吾"
],
"first_sentence": "桜の花が咲くと人々は酒をぶらさげたり<sub alias=\"だんご\">団子</sub>をたべて花の下を歩いて絶景だの春ランマンだのと浮かれて陽気になりますが、これは嘘です。なぜ嘘かと申しますと、桜の花の下へ人がより集って酔っ払ってゲロを吐いて<sub alias=\"けんか\">喧嘩</sub>して、これは江戸時代からの話で、大昔は桜の花の下は怖しいと思っても、絶景だなどとは誰も思いませんでした。近頃は桜の花の下といえば人間がより集って酒をのんで喧嘩していますから陽気でにぎやかだと思いこんでいますが、桜の花の下から人間を取り去ると怖ろしい景色になりますので、能にも、さる母親が愛児を人さらいにさらわれて子供を探して発狂して桜の花の満開の林の下へ来かかり見渡す花びらの陰に子供の幻を描いて狂い死して花びらに埋まってしまう(このところ小生の<sub alias=\"だそく\">蛇足</sub>)という話もあり、桜の林の花の下に人の姿がなければ怖しいばかりです。\n昔、鈴鹿峠にも旅人が桜の森の花の下を通らなければならないような道になっていました。花の咲かない頃はよろしいのですが、花の季節になると、旅人はみんな森の花の下で気が変になりました。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/card42618.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/16/Ango_Sakaguchi_%28cropped%29.jpg/240px-Ango_Sakaguchi_%28cropped%29.jpg",
"summary": "『桜の森の満開の下』(さくらのもりのまんかいのした)は、坂口安吾の短編小説。坂口の代表作の一つで、傑作と称されることの多い作品である。ある峠の山賊と、妖しく美しい残酷な女との幻想的な怪奇物語。桜の森の満開の下は怖ろしいと物語られる説話形式の文体で、花びらとなって掻き消えた女と、冷たい虚空がはりつめているばかりの花吹雪の中の男の孤独が描かれている。\n1947年(昭和22年)6月15日、暁社雑誌『肉体』創刊号(第1巻・第1号)に掲載され、同年5月15日に真光社より刊行の単行本『いづこへ』に収録された。文庫版は講談社文芸文庫、岩波文庫などで刊行されている。翻訳版はJay Rubin訳(英題:In the Forest, Under Cherries in Full Bloom)で行われている。\n1975年(昭和50年)5月31日には、本作を原作とした映画が公開された。"
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{
"book_id": "935",
"access": 970,
"title": "少女地獄",
"authors": [
"夢野 久作"
],
"first_sentence": "足下\n小生は先般、丸の内<sub alias=\"くらぶ\">倶楽部</sub>の<sub alias=\"こうぼくかい\">庚戌会</sub>で、短時間<sub alias=\"はいび\">拝眉</sub>の栄を得ましたもので、貴兄と御同様に九州帝国大学、耳鼻科出身の後輩であります。昨、昭和八年の六月初旬から、当横浜市の宮崎町に、<sub alias=\"うすき\">臼杵</sub>耳鼻科のネオンサインを掲げておる者でありますが、突然にかような奇怪な手紙を差し上げる非礼をお許し下さい。\n姫草ユリ子が自殺したのです。\nあの名前の通りに可憐な、<sub alias=\"せいじょうむく\">清浄無垢</sub>な姿をした彼女は、貴下と小生の名を<sub alias=\"のろ\">呪咀</sub>いながら自殺したのです。あの鳩のような小さな胸に浮かみ現われた根も葉もない<sub alias=\"もうそう\">妄想</sub>によって、貴下と小生の家庭は申すに及ばず、満都の新聞紙、警視庁、神奈川県の司法当局までも、その<sub alias=\"うそ\">虚構</sub>の天国を構成する材料に<sub alias=\"おりこ\">織込</sub>んで来たつもりで、却って一種の<sub alias=\"せんりつ\">戦慄</sub>すべき脅迫観念の地獄絵巻を描き現わして来ました彼女は、遂に彼女自身を、その自分の創作した地獄絵巻のドン底に<sub alias=\"ほうむ\">葬</sub>り去らなければならなくなったのです。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000096/card935.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/6/6d/Kyusaku_Yumeno.jpg/206px-Kyusaku_Yumeno.jpg",
"summary": "『少女地獄』(しょうじょじごく)は、探偵小説作家夢野久作の短編小説集。1936年(昭和11年)に黒白書房から刊行された。そのうち「殺人リレー」のみ『新青年』の昭和9年(1934年)10月号に掲載された。書翰体小説である。"
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{
"book_id": "50328",
"access": 958,
"title": "相対性理論",
"authors": [
"アインシュタイン アルベルト"
],
"first_sentence": "「相対性理論」と名づけられる理論が倚りかかっている大黒柱はいわゆる相対性理論です。私はまず相対性原理とは何であるかを明らかにしておこうと思います。私たちは二人の物理学者を考えてみましょう。この二人の物理学者はどんな物理器械をも用意しています。そして各々一つの実験室をもっています。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001428/card50328.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/a/af/Einstein1921_by_F_Schmutzer_2.jpg/256px-Einstein1921_by_F_Schmutzer_2.jpg",
"summary": "相対性理論(そうたいせいりろん、独: Relativitätstheorie, 英: theory of relativity)または相対論は特殊相対性理論と一般相対性理論の総称である。物理史的には、古典論に分類される物理の分野としては、最後の「大物」であった。量子力学と並び、いわゆる現代物理・古典物理の基本的な理論である。\n特殊論・一般論ともアルベルト・アインシュタインにより記述された。まず、等速運動する慣性系の間において物理法則は互いに不変であるはずという原理(相対性原理)と光速度不変の原理から導かれたのが、特殊相対性理論である(1905年)。特殊相対性理論は、時間と空間に関する相互間の変換が、相対速度が光速に近づくと宇宙が膨張するのと、従来のいわゆる「ニュートン時空」的に信じられていた天体は、重力をもつガリレイ変換の結果とは違ったものになること、そういった場合にはローレンツ変換が正しい変換であることを示した(「ミンコフスキー時空」)。\n続いて、等価原理により加速度によるいわゆる「見かけの重力」と重力場を「等価」として、慣性系以外にも一般化したのが一般相対性理論である(1915 - 1916年)。"
},
{
"book_id": "52504",
"access": 920,
"title": "遠野物語",
"authors": [
"柳田 国男"
],
"first_sentence": "この話はすべて<sub alias=\"とおの\">遠野</sub>の人佐々木鏡石君より聞きたり。<sub alias=\"さく\">昨</sub>明治四十二年の二月ごろより始めて夜分おりおり<sub alias=\"たず\">訪</sub>ね<sub alias=\"き\">来</sub>たりこの話をせられしを筆記せしなり。鏡石君は<sub alias=\"はなしじょうず\">話上手</sub>にはあらざれども誠実なる人なり。自分もまた一字一句をも<sub alias=\"かげん\">加減</sub>せず感じたるままを書きたり。思うに遠野<sub alias=\"ごう\">郷</sub>にはこの類の物語なお数百件あるならん。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001566/card52504.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/2/25/Kunio_Yanagita.jpg/239px-Kunio_Yanagita.jpg",
"summary": "『遠野物語』(とおのものがたり)は、柳田国男が明治43年(1910年)に発表した、岩手県遠野地方に伝わる逸話、伝承などを記した説話集である。\n遠野地方の土淵村出身の民話蒐集家であり小説家でもあった佐々木喜善より語られた、遠野地方に伝わる伝承を柳田が筆記・編纂する形で出版され、『後狩詞記』(1909年)、『石神問答』(1910年)とならぶ柳田の初期三部作の一作。日本の民俗学の先駆けとも称される作品である。"
},
{
"book_id": "56669",
"access": 897,
"title": "少年探偵団",
"authors": [
"江戸川 乱歩"
],
"first_sentence": "そいつは全身、墨を塗ったような、おそろしくまっ黒なやつだということでした。\n「黒い魔物」のうわさは、もう、東京中にひろがっていましたけれど、ふしぎにも、はっきり、そいつの正体を見きわめた人は、だれもありませんでした。\nそいつは、暗やみの中へしか姿をあらわしませんので、何かしら、やみの中に、やみと同じ色のものが、もやもやと、うごめいていることはわかっても、それがどんな男であるか、あるいは女であるか、おとななのか子どもなのかさえ、はっきりとはわからないのだということです。\nあるさびしいやしき町の夜番のおじさんが、長い<sub alias=\"くろいたべい\">黒板塀</sub>の前を、例のひょうし木をたたきながら歩いていますと、その黒板塀の一部分が、ちぎれでもしたように、板塀とまったく同じ色をした人間のようなものが、ヒョロヒョロと道のまんなかへ姿をあらわし、おじさんのちょうちんの前で、まっ白な歯をむきだして、ケラケラと笑ったかと思うと、サーッと黒い風のように、どこかへ走りさってしまったということでした。\n夜番のおじさんは、朝になって、みんなにそのことを話して聞かせましたが、そいつの姿が、あまりまっ黒なものですから、まるで白い歯ばかりが宙にういて笑っているようで、あんなきみの悪いことはなかったと、まだ青い顔をして、さも、おそろしそうに、ソッと、うしろをふりむきながら、話すのでした。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/33/Rampo_Edogawa_02.jpg/250px-Rampo_Edogawa_02.jpg",
"summary": "『少年探偵団』(しょうねんたんていだん)とは、江戸川乱歩の明智小五郎シリーズに登場する探偵団。\nまたは、それらを主人公とした江戸川乱歩の小説。子供のみで構成されており、小林芳雄(小林少年)を団長として、名探偵明智小五郎を補佐する。"
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{
"book_id": "57213",
"access": 882,
"title": "銭形平次捕物控",
"authors": [
"野村 胡堂"
],
"first_sentence": "深川熊井町の<sub alias=\"かいせん\">廻船</sub>問屋板倉屋万兵衛、土蔵の修復が出来上がったお祝い心に、出入りの<sub alias=\"とうりょう\">棟梁</sub>佐太郎を呼んで、薄寒い<sub alias=\"のち\">後</sub>の月を眺めながら、大川を見晴らした、二階座敷で呑んでおりました。\n酌は醗酵し過ぎたような<sub alias=\"おおどしま\">大年増</sub>、万兵衛の妾でお常という、昔はずいぶん美しくもあったでしょうが、朝寝と美食と、不精と無神経のために、見事に脂肪が蓄積して、身体中のあらゆる関節に<sub alias=\"えく\">笑靨</sub>の寄るといった、大変な大年増でした。\n「あれまア、月が」\nなどといいながら、<sub alias=\"らんかん\">欄干</sub>の方へよちよち<sub alias=\"いざ\">膝行</sub>って、<sub alias=\"しな\">品</sub>を作って柱に<sub alias=\"から\">絡</sub>むとそのまま『美人欄に寄るの図』になろうといった——少なくとも本人はそう信じて疑わない<sub alias=\"なち\">性</sub>の女だったのです。\n九月十三夜の赤銅色の月が、州崎十万坪あたりの起伏の上に、<sub alias=\"ゆうもや\">夕靄</sub>を破ってぬッと出る風情は、まことに江戸も深川でなければみられない面白い景色でした。\n「なるほどこいつは良い。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/11/Kodo_Nomura_01.jpg/265px-Kodo_Nomura_01.jpg",
"summary": "『銭形平次捕物控』(ぜにがたへいじ とりものひかえ)は、野村胡堂による小説、またこの小説を基にした映画、テレビ時代劇、舞台作品。翻案作品ではタイトルを単に『銭形平次』とするものもある。\n神田明神下に住む岡っ引の平次(通称 銭形平次)が、子分の八五郎(通称:ガラッ八-ガラッパチ)と共に卓越した推理力と寛永通宝による「投げ銭」(重さ3.5グラムで、小石を投げつけるのと同じ)を駆使し、事件を鮮やかに解決していく。岡本綺堂『半七捕物帳』と共に最も有名な捕物帳(犯罪事件を題材とした時代物の推理小説)であり、代表的な時代劇作品の一つでもある。\n作品の舞台が江戸時代のいつ頃かははっきりしない。原作の最初の頃は寛永期(1624年 - 1645年、江戸初期)を舞台にしていたが、第30話から文化文政期(1804年 - 1830年、江戸後期)に移っている。\n平次は架空の人物であるが、小説の設定から神田明神境内に銭形平次の碑が建立されており、銭形平次の顔出し看板も設置されている。"
},
{
"book_id": "19",
"access": 865,
"title": "或阿呆の一生",
"authors": [
"芥川 竜之介"
],
"first_sentence": "久米正雄君\n一 時代\nそれは或本屋の二階だつた。二十歳の彼は書棚にかけた西洋風の<sub alias=\"はしご\">梯子</sub>に登り、新らしい本を探してゐた。モオパスサン、ボオドレエル、ストリントベリイ、イブセン、シヨウ、トルストイ、……\nそのうちに日の暮は迫り出した。しかし彼は熱心に本の背文字を読みつづけた。そこに並んでゐるのは本といふよりも<sub alias=\"むし\">寧</sub>ろ世紀末それ自身だつた。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card19.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/34/Akutagawa.ryunosuke.jpg/320px-Akutagawa.ryunosuke.jpg",
"summary": "『或阿呆の一生』(あるあほうのいっしょう)は、芥川龍之介作の短編作品。雑誌『改造』1927年10月号に掲載された。\n1927年の芥川自殺後に見つかった文章で、自分の人生を書き残したと思われている。友達への遺書の中に、この事が詳しく記されてある。冒頭部分には久米正雄宛ての文章がある。\n「先輩」として谷崎潤一郎、「先生」として夏目漱石、発狂した友人として宇野浩二が登場する。\n断章の総数は51。"
},
{
"book_id": "56501",
"access": 858,
"title": "かたわ者",
"authors": [
"有島 武郎"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"むかし\">昔</sub>トゥロンというフランスのある町に、<sub alias=\"ふたり\">二人</sub>のかたわ者がいました。<sub alias=\"ひとり\">一人</sub>はめくらで一人はちんばでした。この町はなかなか大きな町で、ずいぶんたくさんのかたわ者がいましたけれども、この二人のかたわ者だけは特別に人の目をひきました。なぜだというと、ほかのかたわ者は自分の不運をなげいてなんとかしてなおりたいなおりたいと思い、人に見られるのをはずかしがって、あまり人目に立つような所にはすがたを現わしませんでしたが、その二人のかたわ者だけは、ことさら人の集まるような所にはきっとでしゃばるので、かたわ者といえば、この二人だけがかたわ者であるように人々は思うのでした。\nいったいをいうと、トゥロンという町にはかたわ者といっては一人もいないはずなのです。",
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"book_id": "51676",
"access": 841,
"title": "僕の通るみち",
"authors": [
"小川 未明"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"ぼく\">僕</sub>はまいにち、<sub alias=\"となり\">隣</sub>の<sub alias=\"しん\">信</sub>ちゃんと、<sub alias=\"がっこう\">学校</sub>へいきます。<sub alias=\"ぼく\">僕</sub>は、<sub alias=\"とけいや\">時計屋</sub>の<sub alias=\"まえ\">前</sub>を<sub alias=\"とお\">通</sub>って、<sub alias=\"おお\">大</sub>きな<sub alias=\"とけい\">時計</sub>を<sub alias=\"み\">見</sub>るのがすきです。その<sub alias=\"とけい\">時計</sub>は、<sub alias=\"じこく\">時刻</sub>が<sub alias=\"せいかく\">正確</sub>でした。\nまた、<sub alias=\"くだものや\">果物屋</sub>の<sub alias=\"まえ\">前</sub>で、いろいろの<sub alias=\"くだもの\">果物</sub>を<sub alias=\"み\">見</sub>るのもすきです。どれも<sub alias=\"うつく\">美</sub>しい<sub alias=\"いろ\">色</sub>をして、いいにおいがしそうでした。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/9/90/Ogawa_Mimei.JPG/216px-Ogawa_Mimei.JPG",
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"book_id": "56257",
"access": 841,
"title": "梟娘の話",
"authors": [
"岡本 綺堂"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"てんぽう\">天保</sub>四年は<sub alias=\"みずのと\">癸</sub><sub alias=\"みどし\">巳年</sub>で、その夏四月の出来事である。<sub alias=\"みと\">水戸</sub><sub alias=\"ざいじょう\">在城</sub>の<sub alias=\"みとこう\">水戸侯</sub>から領内一般の住民に対して、次のやうな<sub alias=\"ふれわた\">触渡</sub>しがあつた。それは領内の<sub alias=\"きゅうみん\">窮民</sub>または<sub alias=\"かんか\">鰥寡</sub>孤独の者で、その身がなにかの<sub alias=\"こしつ\">痼疾</sub>あるひは<sub alias=\"いびょう\">異病</sub>にかゝつて、容易に<sub alias=\"へいゆ\">平癒</sub>の見込みの立たないものは、<sub alias=\"いちいち\">一々</sub>申出ろといふのであつた。\n城内には<sub alias=\"せやくいん\">施薬院</sub>のやうなものを<sub alias=\"もう\">設</sub>けて、領内のあらゆる名医がそこに詰めあひ、いかなる身分の者でも<sub alias=\"もちろん\">勿論</sub>無料で診察して取らせる、投薬もして<sub alias=\"や\">遣</sub>るといふのであるから、領内の者どもは皆その善政をよろこんで、<sub alias=\"なぬし\">名主</sub>や<sub alias=\"しょうや\">庄屋</sub>をたよつて遠方からその診察を願ひに出てくる者も多かつた。\nところが、<sub alias=\"め\">眼</sub>のさきの城下に不思議の病人のあることが見出された。",
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{
"book_id": "59870",
"access": 824,
"title": "飢えは最善のソースか",
"authors": [
"石川 欣一"
],
"first_sentence": "この雑誌にこんなことを書くと、皮肉みたいに思われるかもしれないが、西洋の諺、「飢えは最善のソース」には、相当の真理が含まれている。\n一流の料理人が腕をふるってつくり上げたソースをかけて食えば、料理はうまいにきまっているが、それよりも腹のへった時に食うほうがうまい、という意味である。\n六十年を越す生涯で、いろいろな場合いろいろなものを食ってきたが、今でも「うまかった」と記憶しているものはあまり沢山ない。そのなかで飢えをソースにしたものをちょっと考えてみると、中学校の時、冬休みに葉山へ行っていて、ある日の午後何と思ってか横須賀まで歩いた。着いた時は日暮れ時で寒く、駅前のそば屋で食った親子丼が実にうまかった。",
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"book_id": "179",
"access": 819,
"title": "藪の中",
"authors": [
"芥川 竜之介"
],
"first_sentence": "さようでございます。あの<sub alias=\"しがい\">死骸</sub>を見つけたのは、わたしに違いございません。わたしは<sub alias=\"けさ\">今朝</sub>いつもの通り、裏山の杉を<sub alias=\"き\">伐</sub>りに参りました。すると<sub alias=\"やまかげ\">山陰</sub>の<sub alias=\"やぶ\">藪</sub>の中に、あの死骸があったのでございます。あった処でございますか? それは<sub alias=\"やましな\">山科</sub>の駅路からは、四五町ほど隔たって居りましょう。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/34/Akutagawa.ryunosuke.jpg/320px-Akutagawa.ryunosuke.jpg",
"summary": "「藪の中」(やぶのなか)は、芥川龍之介の短編小説。初出は「新潮」1月号(1922年)、初刊は「将軍」(1922年)。複数の視点から同一の事象を描く内的多元焦点化(ジュネット)の手法がとられ、殺人と強姦という事件をめぐって4人の目撃者と3人の当事者が告白する証言の束として書かれており、それぞれが矛盾し錯綜しているために真相をとらえることが著しく困難になるよう構造化されている。その未完結性の鮮烈な印象から、証言の食い違いなどから真相が不分明になることを称して「藪の中」という言葉まで生まれた。今昔物語集を下敷きにしたいわゆる「王朝物」の最後の作品であり、創作の度合いは最も高い。また今昔物語の他にもビアス「月明かりの道」、ブラウニング「指輪と本」などとの類似が指摘されている。\n芥川の作品中でも屈指の数の論文が書かれており、それ自体がこの短編の名作たるゆえんともなっているが、同時に読者が一人の目撃者として「真相の解釈」という名の証言を行うかのような状況を呈し、いまだ「真相」は見いだされていない。研究前史においては誰の証言が最も真実に近いのか、芥川の真意はどこにあるのかということが争われたが、近年ではテクストとしての意識が強まり、そういった「藪の中」論そのものを論じたり(読書行為論)、小説内における語りやそれに貫かれているコードを論じる研究が展開され始めている。"
},
{
"book_id": "56645",
"access": 815,
"title": "押絵と旅する男",
"authors": [
"江戸川 乱歩"
],
"first_sentence": "この話が私の夢か私の一時的狂気の<sub alias=\"まぼろし\">幻</sub>でなかったならば、あの<sub alias=\"おしえ\">押絵</sub>と旅をしていた男こそ狂人であったに<sub alias=\"そうい\">相違</sub>ない。だが、夢が時として、どこかこの世界と<sub alias=\"くいちが\">喰違</sub>った別の世界を、チラリと<sub alias=\"のぞ\">覗</sub>かせてくれる<sub alias=\"よう\">様</sub>に、<sub alias=\"また\">又</sub>狂人が、我々の<sub alias=\"まった\">全</sub>く感じ得ぬ物事を見たり聞いたりすると同じに、これは私が、不可思議な大気のレンズ仕掛けを通して、<sub alias=\"いっせつな\">一刹那</sub>、この世の視野の外にある、別の世界の<sub alias=\"いちぐう\">一隅</sub>を、ふと<sub alias=\"すきみ\">隙見</sub>したのであったかも知れない。\nいつとも知れぬ、ある暖かい薄曇った日のことである。その時、私は<sub alias=\"わざわざ\">態々</sub>魚津へ<sub alias=\"しんきろう\">蜃気楼</sub>を見に出掛けた帰り<sub alias=\"みち\">途</sub>であった。私がこの話をすると、時々、お前は魚津なんかへ行ったことはないじゃないかと、親しい友達に突っ込まれることがある。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/33/Rampo_Edogawa_02.jpg/250px-Rampo_Edogawa_02.jpg",
"summary": "『押絵と旅する男』(おしえとたびするおとこ)は、江戸川乱歩の著した短編小説である。『新青年』1929年(昭和4年)6月号に掲載された。乱歩は自作の評価に厳しいことで有名だが、この作品に関しては「ある意味では、私の短篇の中ではこれが一番無難だといってよいかも知れない」と珍しく肯定的な言葉を残している。"
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"book_id": "56646",
"access": 806,
"title": "心理試験",
"authors": [
"江戸川 乱歩"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"ふきやせいいちろう\">蕗屋清一郎</sub>が、<sub alias=\"なぜ\">何故</sub>これから<sub alias=\"しる\">記</sub>す様な恐ろしい悪事を思立ったか、その動機については詳しいことは分らぬ。又<sub alias=\"たとい\">仮令</sub>分ったとしてもこのお話には大して関係がないのだ。彼がなかば苦学見たいなことをして、ある大学に通っていた所を見ると、学資の必要に迫られたのかとも考えられる。彼は<sub alias=\"まれ\">稀</sub>に見る秀才で、<sub alias=\"しか\">而</sub>も非常な勉強家だったから、学資を得る為に、つまらぬ内職に時を取られて、好きな読書や思索が十分出来ないのを残念に思っていたのは確かだ。だが、その位の理由で、人間はあんな大罪を犯すものだろうか。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/33/Rampo_Edogawa_02.jpg/250px-Rampo_Edogawa_02.jpg",
"summary": "『心理試験』(しんりしけん)は、江戸川乱歩が『新青年』で1925年に発表した短編探偵小説である。\n博文館の探偵小説雑誌『新青年』の1925年(大正14年)2月号に掲載された。『D坂の殺人事件』と対になる作品。\n犯人の視点で事件が語られる倒叙の形式をとる。\n英訳版の題名は『The Psychological Test』。"
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"book_id": "42600",
"access": 803,
"title": "レ・ミゼラブル",
"authors": [
"ユゴー ヴィクトル"
],
"first_sentence": "一八一五年に、シャール・フランソア・ビヤンヴニュ・ミリエル氏はディーニュの司教であった。七十五歳ばかりの老人で、一八〇六年以来、ディーニュの司教職についていたのである。\n彼がその教区に到着したころ、彼についてなされた種々な<sub alias=\"うわさ\">噂</sub>や評判をここにしるすことは、物語の根本に何らの関係もないものではあるが、すべてにおいて正確を期するという点だけででも、おそらく無用のことではあるまい。<sub alias=\"うそ\">嘘</sub>にせよ<sub alias=\"まこと\">真</sub>にせよ、人の身の上について言わるることは、その人の<sub alias=\"しょうがい\">生涯</sub>のうちに、特にその運命のうちに、往々実際の行為と同じくらいに重要な位置を占むるものである。ミリエル氏はエークスの高等法院の評議員のむすこであって、顕要な法官の家柄だった。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/e6/Victor_Hugo_by_%C3%89tienne_Carjat_1876_-_full.jpg/260px-Victor_Hugo_by_%C3%89tienne_Carjat_1876_-_full.jpg",
"summary": "『レ・ミゼラブル』(フランス語: Les Misérables)は、ヴィクトル・ユーゴーが1862年に執筆したロマン主義フランス文学の大河小説。\n\n"
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{
"book_id": "69",
"access": 801,
"title": "河童",
"authors": [
"芥川 竜之介"
],
"first_sentence": "これはある精神病院の患者、——第二十三号がだれにでもしゃべる話である。彼はもう三十を越しているであろう。が、一見したところはいかにも若々しい狂人である。彼の半生の経験は、——いや、そんなことはどうでもよい。彼はただじっと<sub alias=\"りょうひざ\">両膝</sub>をかかえ、時々窓の外へ目をやりながら、(<sub alias=\"てつごうし\">鉄格子</sub>をはめた窓の外には枯れ葉さえ見えない<sub alias=\"かし\">樫</sub>の木が一本、雪曇りの空に枝を張っていた。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card69.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/34/Akutagawa.ryunosuke.jpg/320px-Akutagawa.ryunosuke.jpg",
"summary": "『河童』(かっぱ)は、芥川龍之介が1927年(昭和2年)に総合雑誌『改造』誌上に発表した小説である。\n当時の日本社会、あるいは人間社会を痛烈に風刺、批判した小説であり、同じ年の芥川の自殺の動機を考える上でも重要な作品の一つであるといえる。芥川の晩年の代表作として有名で、芥川の命日7月24日が「河童忌」と呼ばれるのもこのためである。\n副題には「どうか Kappa と発音して下さい。」という半ば不可解な言葉が記されている。\n上高地の河童橋は本作以前に存在しており、むしろ「河童」橋の名称の方が本作の着想に影響を与えたと思われるが、本作の発表および芥川の自殺によって、より知名度が上がることになった。"
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{
"book_id": "816",
"access": 778,
"title": "一握の砂",
"authors": [
"石川 啄木"
],
"first_sentence": "この集を両君に捧ぐ。予はすでに予のすべてを両君の前に示しつくしたるものの如し。従つて両君はここに歌はれたる歌の一一につきて最も多く知るの人なるを信ずればなり。\nまた一本をとりて亡児真一に手向く。この集の稿本を書肆の手に渡したるは汝の生れたる朝なりき。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/5/5a/Ishikawa_Takuboku.jpg/268px-Ishikawa_Takuboku.jpg",
"summary": "『一握の砂』(いちあくのすな、英語表記:A Handful of Sand)は、歌人・石川啄木の第一歌集。"
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"book_id": "45245",
"access": 771,
"title": "高瀬舟",
"authors": [
"森 鴎外"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"たかせぶね\">高瀬舟</sub>は京都の<sub alias=\"たかせがわ\">高瀬川</sub>を<sub alias=\"じょうげ\">上下</sub>する小舟である。徳川時代に京都の罪人が<sub alias=\"えんとう\">遠島</sub>を申し渡されると、本人の親類が<sub alias=\"ろうやしき\">牢屋敷</sub>へ呼び出されて、そこで<sub alias=\"いとまご\">暇乞</sub>いをすることを許された。それから罪人は高瀬舟に載せられて、<sub alias=\"おおさか\">大阪</sub>へ回されることであった。それを護送するのは、京都<sub alias=\"まちぶぎょう\">町奉行</sub>の配下にいる<sub alias=\"どうしん\">同心</sub>で、この同心は罪人の親類の中で、おも立った一<sub alias=\"にん\">人</sub>を大阪まで同船させることを許す慣例であった。これは<sub alias=\"かみ\">上</sub>へ通った事ではないが、いわゆる大目に見るのであった、黙許であった。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/71/Mori_Ogai_in_the_atelier_of_Sculptor_Takeishi_Kozaburo_in_1916.jpg/207px-Mori_Ogai_in_the_atelier_of_Sculptor_Takeishi_Kozaburo_in_1916.jpg",
"summary": "『高瀬舟』(たかせぶね)は、森鴎外の短編小説である。1916年(大正5年)1月、「中央公論」に発表された。江戸時代の随筆集「翁草」(神沢杜口著)の中の「流人の話」(巻百十七「雑話」:神澤貞幹編・池辺義象校訂(1905-6年刊)『校訂翁草第十二』所収)をもとにして書かれた。財産の多少と欲望の関係、および安楽死の是非をテーマとしている。"
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{
"book_id": "46091",
"access": 760,
"title": "ひどい煙",
"authors": [
"久生 十蘭"
],
"first_sentence": "飯倉の西にあたる麻布勝手ヶ原は、太田道灌が江戸から兵を出すとき、いつもここで武者揃えをしたよし、<sub alias=\"ふどき\">風土記</sub>に見えている。<sub alias=\"たいゆういんでん\">大猷院殿</sub>の寛永の末ごろは、草ばかり蓬々とした、うらさびしい場所で、赤羽の辻、心光院の近くまで<sub alias=\"おやまだ\">小山田</sub>がつづき、三田の切通し寄り、<sub alias=\"ひし\">菱</sub>や<sub alias=\"こうぼね\">河骨</sub>にとじられた南<sub alias=\"さが\">下</sub>りの沼のまわりに、萱葺きの農家がチラホラ見えるほか、眼をさえぎるほどのものもないので、広漠たる原野のおもむきになっていた。\n六月はじめのある日、この原にオランダ人献上の<sub alias=\"だいきゅうほう\">大臼砲</sub>を据えようというので、御鉄砲御用衆といわれる<sub alias=\"つつじ\">躑躅</sub>の間<sub alias=\"づめ\">詰</sub>のお歴々が、朝がけから、露もしとどな夏草を踏みしだき、<sub alias=\"けんざお\">間竿</sub>を持った組下を追いまわして、射場の<sub alias=\"じど\">地取</sub>りをしていた。\n和流砲術の大家、井上<sub alias=\"げき\">外記</sub><sub alias=\"まさつぐ\">正継</sub>、稲富喜太夫<sub alias=\"なおかた\">直賢</sub>、<sub alias=\"たつけ\">田付</sub>四郎兵衛<sub alias=\"かげとし\">景利</sub>の三人が<sub alias=\"かなえ\">鼎</sub>のかたちになって<sub alias=\"しょうぎ\">床几</sub>に掛け、右往左往する組下の働きぶりを監察していた。\n井上外記は<sub alias=\"はりま\">播磨</sub>国<sub alias=\"おが\">英賀</sub>城主井上九郎右衛門の孫で、外記流の流祖である。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/36/Hisao_juran_photo.jpg/248px-Hisao_juran_photo.jpg",
"summary": ""
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{
"book_id": "59978",
"access": 750,
"title": "芥川竜之介の追憶",
"authors": [
"萩原 朔太郎"
],
"first_sentence": "この頃になつて、僕は始めて芥川君の全集を通讀した。ずゐぶん僕は、生前に於て氏と議論をし、時には爭鬪的にまで、意見の相違を鬪はしたりした。だが實際のところを告白すると、僕はあまり多く彼の作品を讀んでゐなかつたのだ。そこで二言目には、芥川君から手きびしく反撃された。「君は僕の作品をちつとも讀んでゐないぢやないか。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/9/99/Hagiwara_Sakutaro.jpg/269px-Hagiwara_Sakutaro.jpg",
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"book_id": "4803",
"access": 749,
"title": "風立ちぬ",
"authors": [
"堀 辰雄"
],
"first_sentence": "Le vent se l<img src=\"http://www.aozora.gr.jp/cards/../gaiji/1-09/1-09-62.png\" alt=\"※(グレーブアクセント付きE小文字)\" class=\"gaiji\" />ve, il faut tenter de vivre.\nそれらの夏の日々、一面に<sub alias=\"すすき\">薄</sub>の生い茂った草原の中で、お前が立ったまま熱心に絵を描いていると、私はいつもその傍らの一本の白樺の木蔭に身を横たえていたものだった。そうして夕方になって、お前が仕事をすませて私のそばに来ると、それからしばらく私達は肩に手をかけ合ったまま、遥か彼方の、縁だけ<sub alias=\"あかねいろ\">茜色</sub>を帯びた入道雲のむくむくした塊りに覆われている地平線の方を眺めやっていたものだった。ようやく暮れようとしかけているその地平線から、反対に何物かが生れて来つつあるかのように……\nそんな日の或る午後、(それはもう秋近い日だった)私達はお前の描きかけの絵を画架に立てかけたまま、その白樺の木蔭に寝そべって果物を<sub alias=\"か\">齧</sub>じっていた。砂のような雲が空をさらさらと流れていた。そのとき不意に、何処からともなく風が立った。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/3a/Tasuo_Hori.jpg/242px-Tasuo_Hori.jpg",
"summary": "風立ちぬ(かぜたちぬ)"
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{
"book_id": "60",
"access": 741,
"title": "地獄変",
"authors": [
"芥川 竜之介"
],
"first_sentence": "堀川の<sub alias=\"おほとのさま\">大殿様</sub>のやうな方は、これまでは<sub alias=\"もと\">固</sub>より、後の世には恐らく二人とはいらつしやいますまい。噂に聞きますと、あの方の御誕生になる前には、<sub alias=\"だいゐとくみやうおう\">大威徳明王</sub>の御姿が<sub alias=\"おんはゝぎみ\">御母君</sub>の夢枕にお立ちになつたとか申す事でございますが、<sub alias=\"と\">兎</sub>に<sub alias=\"かく\">角</sub>御生れつきから、並々の人間とは御違ひになつてゐたやうでございます。でございますから、あの方の<sub alias=\"な\">為</sub>さいました事には、一つとして私どもの意表に出てゐないものはございません。早い話が堀川のお邸の御規模を拝見致しましても、壮大と申しませうか、豪放と申しませうか、<sub alias=\"たうてい\">到底</sub>私どもの凡慮には及ばない、思ひ切つた所があるやうでございます。中にはまた、そこを色々とあげつらつて大殿様の御性行を<sub alias=\"しくわうてい\">始皇帝</sub>や<sub alias=\"やうだい\">煬帝</sub>に比べるものもございますが、それは<sub alias=\"ことわざ\">諺</sub>に云ふ<sub alias=\"ぐんもう\">群盲</sub>の象を<sub alias=\"な\">撫</sub>でるやうなものでもございませうか。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/34/Akutagawa.ryunosuke.jpg/320px-Akutagawa.ryunosuke.jpg",
"summary": "『地獄変』(じごくへん)は、芥川龍之介の短編小説。説話集『宇治拾遺物語』の「絵仏師良秀」を基に、芥川が独自にアレンジしたものである。初出は1918年(大正7年)5月1日から22日まで『大阪毎日新聞』『東京日日新聞』に連載され、1919年(大正8年)1月15日に新潮社刊行の作品集『傀儡師』に収録された。主人公である良秀の「芸術の完成のためにはいかなる犠牲も厭わない」姿勢が、芥川自身の芸術至上主義と絡めて論じられることが多く、発表当時から高い評価を得た。なお、『宇治拾遺物語』では主人公の名の良秀を「りょうしゅう」と読むが、本作では「よしひで」としている。\n破棄されたと見られていた直筆原稿のうち2枚が、2007年(平成19年)12月に岡山県倉敷市で見つかり、同時に未完作『邪宗門』の原稿も発見された。"
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{
"book_id": "270",
"access": 740,
"title": "富嶽百景",
"authors": [
"太宰 治"
],
"first_sentence": "富士の頂角、<sub alias=\"ひろしげ\">広重</sub>の富士は八十五度、<sub alias=\"ぶんてう\">文晁</sub>の富士も八十四度くらゐ、けれども、陸軍の実測図によつて東西及南北に断面図を作つてみると、東西縦断は頂角、百二十四度となり、南北は百十七度である。広重、文晁に限らず、たいていの絵の富士は、鋭角である。いただきが、細く、高く、<sub alias=\"きやしや\">華奢</sub>である。北斎にいたつては、その頂角、ほとんど三十度くらゐ、エッフェル鉄塔のやうな富士をさへ描いてゐる。けれども、実際の富士は、鈍角も鈍角、のろくさと拡がり、東西、百二十四度、南北は百十七度、決して、秀抜の、すらと高い山ではない。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/card270.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/77/Osamu_Dazai.jpg/214px-Osamu_Dazai.jpg",
"summary": "『富嶽百景』(ふがくひゃっけい)は、太宰治の短編小説・随筆。"
},
{
"book_id": "50909",
"access": 739,
"title": "ファウスト",
"authors": [
"ゲーテ ヨハン・ヴォルフガング・フォン"
],
"first_sentence": "昔我が濁れる目に<sub alias=\"はや\">夙</sub>く浮びしことある\nよろめける姿どもよ。再び我前に近づき来たるよ。\nいでや、こたびはしも<sub alias=\"なんたち\">汝達</sub>を捉へんことを試みんか。\n我心<sub alias=\"なお\">猶</sub>そのかみの夢を懐かしみすと覚ゆや。\n汝達我に<sub alias=\"せま\">薄</sub>る。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001025/card50909.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/0e/Goethe_%28Stieler_1828%29.jpg/259px-Goethe_%28Stieler_1828%29.jpg",
"summary": "『ファウスト』(独: Faust)はドイツの文人ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの代表作とされる長編の戯曲。全編を通して韻文で書かれている。『ファウスト』は二部構成で、第一部は1808年、第二部はゲーテの死の翌年1833年に発表された。"
},
{
"book_id": "55052",
"access": 730,
"title": "よい書とうまい書",
"authors": [
"北大路 魯山人"
],
"first_sentence": "それではまた、先輩諸君を前にして失礼でございますが、また実学上のことを話さしていただきます。\n今日、字のことは、相変らずうまいとか、まずいとかいうことで済んでしまっておるようでありますが、前に申し上げましたように、うまいとか、まずいとかいう事はなかなか簡単に片付けられるようなものではありません。ただ、うまいといった所で、うまいのはどうだとか、まずいのはどうだとかいう意義が詳しく得心の行くように分って来なければならないと思うのであります。うまい書は夕顔棚の下で涼しい顔をしておるような、呑気に、<sub alias=\"しゃしゃ\">洒々</sub>として書いておるようなのがございます。例えば、<sub alias=\"こうげつ\">江月</sub>和尚のごとき、原伯茶宗のごとき、あるいは、<sub alias=\"いっさ\">一茶</sub>の書なんぞは、そんなことをいって宜しいと思います。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/08/Rosanjin_Kita%C5%8Dji_1954.jpg/223px-Rosanjin_Kita%C5%8Dji_1954.jpg",
"summary": ""
},
{
"book_id": "58155",
"access": 723,
"title": "永遠の感覚",
"authors": [
"高村 光太郎"
],
"first_sentence": "芸術上でわれわれが常に思考する永遠という観念は何であろう。永遠性とか、悠久性とかいうのは一体何の事であろう。\n仮に類似の言葉を求めてみると、永遠、永久、悠久、永続、無限、無終、不断、不朽、不死、不滅というようなものがあり、どれを見てもその根本の観念として時間性を持たぬものはない。\n永遠とは元来絶対に属する性質で、無始無終であり、無限の時間的表現と見るべきであろう。本来これは神とか、物質自体とかいう観念以外には用いられない言葉であるはずで、もともと人間の創作に成る芸術圏内に<sub alias=\"これ\">之</sub>を使うのは言葉の転用に過ぎない。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/fc/%E9%AB%98%E6%9D%91%E5%85%89%E5%A4%AA%E9%83%8E.jpg/240px-%E9%AB%98%E6%9D%91%E5%85%89%E5%A4%AA%E9%83%8E.jpg",
"summary": ""
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{
"book_id": "56651",
"access": 692,
"title": "パノラマ島綺譚",
"authors": [
"江戸川 乱歩"
],
"first_sentence": "同じM県に住んでいる人でも、多くは気づかないでいるかも知れません。I湾が太平洋へ出ようとする、S郡の南端に、<sub alias=\"ほか\">外</sub>の島々から飛び離れて、丁度緑色の<sub alias=\"まんじゅう\">饅頭</sub>をふせた様な、直径二里足らずの小島が浮んでいるのです。今では無人島にも等しく、附近の<sub alias=\"りょうし\">漁師</sub>共が時々気まぐれに上陸して見る位で、<sub alias=\"ほとん\">殆</sub>ど<sub alias=\"かえりみ\">顧</sub>る者もありません。<sub alias=\"こと\">殊</sub>にそれは、ある岬の<sub alias=\"とっぱな\">突端</sub>の荒海に孤立していて、<sub alias=\"よほど\">余程</sub>の<sub alias=\"なぎ\">凪</sub>ででもなければ、小さな漁船などでは第一近づくのも危険ですし、又危険を<sub alias=\"おか\">冒</sub>してまで近づく程の場所でもないのです。所の人は俗に<sub alias=\"おき\">沖</sub>の<sub alias=\"しま\">島</sub>と呼んでいますが、いつの頃からか、島全体が、M県随一の富豪であるT市の<sub alias=\"こもだ\">菰田</sub>家の所有になっていて、以前は同家に属する漁師達の内、物好きな連中が小屋を建てて住まったり、網干し場、物置きなどに使っていたこともあるのですが、数年以前それがすっかり、取払われ、<sub alias=\"にわか\">俄</sub>にその島の上に不思議な作業が<sub alias=\"はじま\">始</sub>ったのです。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/33/Rampo_Edogawa_02.jpg/250px-Rampo_Edogawa_02.jpg",
"summary": "『パノラマ島奇談』(パノラマとうきたん)は、江戸川乱歩の著した中編小説である。『新青年』に大正15年(1926年)から昭和2年(1927年)にかけて連載された。"
},
{
"book_id": "1927",
"access": 686,
"title": "注文の多い料理店",
"authors": [
"宮沢 賢治"
],
"first_sentence": "二人の若い紳士が、すつかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴか/\する鉄砲をかついで、<sub alias=\"しろくま\">白熊</sub>のやうな犬を二<sub alias=\"ひき\">疋</sub>つれて、だいぶ山奥の、木の葉のかさ/\したとこを、こんなことを<sub alias=\"い\">云</sub>ひながら、あるいてをりました。\n「ぜんたい、こゝらの山は<sub alias=\"け\">怪</sub>しからんね。鳥も獣も一疋も居やがらん。なんでも構はないから、早くタンタアーンと、やつて見たいもんだなあ。」\n「<sub alias=\"しか\">鹿</sub>の黄いろな横つ腹なんぞに、二三発お見舞まうしたら、ずゐぶん痛快だらうねえ。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/4d/Miyazawa_Kenji.jpg/225px-Miyazawa_Kenji.jpg",
"summary": "『注文の多い料理店』(ちゅうもんのおおいりょうりてん)は、宮沢賢治の児童文学の短編集であり、またその中に収録された表題作の童話である。短編集としては賢治の生前に出版された唯一のものであり、童話としても『銀河鉄道の夜』『風の又三郎』などとともに賢治の代表作として知られる。\n\n"
},
{
"book_id": "59192",
"access": 682,
"title": "抗議する義務",
"authors": [
"中谷 宇吉郎"
],
"first_sentence": "畏友Y兄から、いつか面白い言葉をきいたことがある。それは「日本人はどうも<sub alias=\"プロテスト\">抗議</sub>する義務を知らないから困る」というのである。\nこれはなかなか味のある言葉で、何か不正なことがあった場合に、それに抗議を申し込むのは、権利ではなくて義務だというのである。\n例えば、電車に乗る場合に、乗客が長い列を作って待っている。やっと電車が来て、乗客が順々に乗り込む。",
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"summary": ""
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{
"book_id": "236",
"access": 671,
"title": "ア、秋",
"authors": [
"太宰 治"
],
"first_sentence": "本職の詩人ともなれば、いつどんな注文があるか、わからないから、常に詩材の準備をして置くのである。\n「秋について」という注文が来れば、よし来た、と「ア」の部の引き出しを開いて、愛、青、赤、アキ、いろいろのノオトがあって、そのうちの、あきの部のノオトを選び出し、落ちついてそのノオトを調べるのである。\nトンボ。スキトオル。と書いてある。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/77/Osamu_Dazai.jpg/214px-Osamu_Dazai.jpg",
"summary": ""
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{
"book_id": "522",
"access": 664,
"title": "金色夜叉",
"authors": [
"尾崎 紅葉"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"ま\">未</sub>だ宵ながら松立てる門は一様に<sub alias=\"さしこ\">鎖籠</sub>めて、<sub alias=\"ますぐ\">真直</sub>に長く東より西に<sub alias=\"よこた\">横</sub>はれる<sub alias=\"だいどう\">大道</sub>は掃きたるやうに物の影を<sub alias=\"とど\">留</sub>めず、いと<sub alias=\"さびし\">寂</sub>くも<sub alias=\"ゆきき\">往来</sub>の絶えたるに、例ならず<sub alias=\"しげ\">繁</sub>き<sub alias=\"くるま\">車輪</sub>の<sub alias=\"きしり\">輾</sub>は、<sub alias=\"あるひ\">或</sub>は<sub alias=\"せはし\">忙</sub>かりし、<sub alias=\"あるひ\">或</sub>は飲過ぎし年賀の<sub alias=\"かへり\">帰来</sub>なるべく、<sub alias=\"まばら\">疎</sub>に寄する<sub alias=\"ししだいこ\">獅子太鼓</sub>の<sub alias=\"とほひびき\">遠響</sub>は、はや今日に尽きぬる<sub alias=\"さんがにち\">三箇日</sub>を惜むが如く、その<sub alias=\"あはれさ\">哀切</sub>に<sub alias=\"ちひさ\">小</sub>き<sub alias=\"はらわた\">膓</sub>は<sub alias=\"たた\">断</sub>れぬべし。\n元日快晴、二日快晴、三日快晴と<sub alias=\"しる\">誌</sub>されたる日記を<sub alias=\"けが\">涜</sub>して、この<sub alias=\"たそがれ\">黄昏</sub>より<sub alias=\"こがらし\">凩</sub>は<sub alias=\"そよぎい\">戦出</sub>でぬ。今は「風吹くな、なあ吹くな」と優き声の<sub alias=\"なだ\">宥</sub>むる者無きより、<sub alias=\"いかり\">憤</sub>をも増したるやうに<sub alias=\"かざりだけ\">飾竹</sub>を<sub alias=\"ふきなび\">吹靡</sub>けつつ、<sub alias=\"から\">乾</sub>びたる葉を<sub alias=\"はした\">粗</sub>なげに鳴して、<sub alias=\"ほ\">吼</sub>えては<sub alias=\"はしりゆ\">走行</sub>き、狂ひては引返し、<sub alias=\"も\">揉</sub>みに揉んで<sub alias=\"ひと\">独</sub>り散々に騒げり。<sub alias=\"ほのぐも\">微曇</sub>りし空はこれが為に<sub alias=\"ねむり\">眠</sub>を<sub alias=\"さま\">覚</sub>されたる<sub alias=\"けしき\">気色</sub>にて、<sub alias=\"ぎんなしぢ\">銀梨子地</sub>の如く無数の星を<sub alias=\"あらは\">顕</sub>して、鋭く<sub alias=\"さ\">沍</sub>えたる光は<sub alias=\"かんき\">寒気</sub>を<sub alias=\"はな\">発</sub>つかと<sub alias=\"おも\">想</sub>はしむるまでに、その<sub alias=\"うすあかり\">薄明</sub>に<sub alias=\"さら\">曝</sub>さるる夜の<sub alias=\"ちまた\">街</sub>は<sub alias=\"ほとん\">殆</sub>ど氷らんとすなり。\n人この<sub alias=\"うち\">裏</sub>に立ちて<sub alias=\"りようりようめいめい\">寥々冥々</sub>たる四望の間に、<sub alias=\"いかで\">争</sub>か<sub alias=\"な\">那</sub>の世間あり、社会あり、都あり、町あることを想得べき、<sub alias=\"きゆうちよう\">九重</sub>の天、<sub alias=\"はつさい\">八際</sub>の地、始めて<sub alias=\"こんとん\">混沌</sub>の<sub alias=\"さかひ\">境</sub>を<sub alias=\"い\">出</sub>でたりといへども、万物<sub alias=\"いま\">未</sub>だ<sub alias=\"ことごと\">尽</sub>く<sub alias=\"かせい\">化生</sub>せず、風は<sub alias=\"こころみ\">試</sub>に吹き、星は新に輝ける一大荒原の、何等の旨意も、秩序も、趣味も無くて、<sub alias=\"ただみだり\">唯濫</sub>に<sub alias=\"ひろ\"><img src=\"http://www.aozora.gr.jp/cards/../gaiji/1-92/1-92-58.png\" alt=\"※(「二点しんにょう+貌」、第3水準1-92-58)\" class=\"gaiji\" /></sub>く<sub alias=\"よこた\">横</sub>はれるに過ぎざる<sub alias=\"かな\">哉</sub>。日の<sub alias=\"うち\">中</sub>は<sub alias=\"さながら\">宛然</sub>沸くが如く楽み、<sub alias=\"うた\">謳</sub>ひ、<sub alias=\"ゑ\">酔</sub>ひ、<sub alias=\"たはむ\">戯</sub>れ、<sub alias=\"よろこ\">歓</sub>び、笑ひ、語り、興ぜし人々よ、彼等は<sub alias=\"はかな\">儚</sub>くも夏果てし<sub alias=\"ぼうふり\">孑孑</sub>の形を<sub alias=\"をさ\">歛</sub>めて、<sub alias=\"いまはた\">今将</sub><sub alias=\"いづく\">何処</sub>に<sub alias=\"いか\">如何</sub>にして在るかを疑はざらんとするも<sub alias=\"かた\">難</sub>からずや。<sub alias=\"しばらく\">多時</sub>静なりし<sub alias=\"のち\">後</sub>、<sub alias=\"はるか\">遙</sub>に拍子木の音は聞えぬ。その響の消ゆる頃<sub alias=\"たちま\">忽</sub>ち一点の<sub alias=\"ともしび\">燈火</sub>は見え<sub alias=\"そ\">初</sub>めしが、<sub alias=\"ゆらゆら\">揺々</sub>と町の<sub alias=\"はづれ\">尽頭</sub>を<sub alias=\"よこぎ\">横截</sub>りて<sub alias=\"う\">失</sub>せぬ。再び寒き風は<sub alias=\"さびし\">寂</sub>き星月夜を<sub alias=\"ほしいまま\">擅</sub>に吹くのみなりけり。<sub alias=\"とあ\">唯有</sub>る小路の湯屋は仕舞を急ぎて、<sub alias=\"ひあはひ\">廂間</sub>の下水口より<sub alias=\"ふきい\">噴出</sub>づる湯気は一団の白き雲を舞立てて、心地悪き<sub alias=\"ぬくもり\">微温</sub>の四方に<sub alias=\"あふ\">溢</sub>るるとともに、<sub alias=\"あかくさ\">垢臭</sub>き悪気の<sub alias=\"さかん\">盛</sub>に<sub alias=\"ほとばし\">迸</sub>るに<sub alias=\"あ\">遭</sub>へる綱引の車あり。勢ひで<sub alias=\"かど\">角</sub>より曲り来にければ、避くべき<sub alias=\"いとまな\">遑無</sub>くてその中を<sub alias=\"かけぬ\">駈抜</sub>けたり。\n「うむ、臭い」\n車の上に声して行過ぎし跡には、葉巻の吸殻の捨てたるが赤く見えて煙れり。\n",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d9/Koyo_Ozaki.jpg/234px-Koyo_Ozaki.jpg",
"summary": "『金色夜叉』(こんじきやしゃ)は、尾崎紅葉が書いた明治時代の代表的な小説。読売新聞に1897年(明治30年)1月1日 - 1902年(明治35年)5月11日まで連載された。前編、中編、後編、続金色夜叉、続続金色夜叉、新続金色夜叉の6編からなっている。執筆中に作者が死亡したため未完成である。紅葉門下の小栗風葉が1909年(明治42年)に「終編金色夜叉」を書き継いだ。昭和に入って、映画、ドラマ化されるようになった。\nこの作品の種本は、バーサ・M・クレー(Bertha M.Clay)、本名en:Charlotte Mary Brame(1836-1884) の『Weaker than a Woman(女より弱きもの)』であることが分かっている(後述)。"
},
{
"book_id": "462",
"access": 655,
"title": "風の又三郎",
"authors": [
"宮沢 賢治"
],
"first_sentence": "谷川の岸に小さな学校がありました。\n教室はたった一つでしたが生徒は三年生がないだけで、あとは一年から六年までみんなありました。運動場もテニスコートのくらいでしたが、すぐうしろは<sub alias=\"くり\">栗</sub>の木のあるきれいな草の山でしたし、運動場のすみにはごぼごぼつめたい水を<sub alias=\"ふ\">噴</sub>く岩穴もあったのです。\nさわやかな九月一日の朝でした。青ぞらで風がどうと鳴り、日光は運動場いっぱいでした。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/4d/Miyazawa_Kenji.jpg/225px-Miyazawa_Kenji.jpg",
"summary": "『風の又三郎』(かぜのまたさぶろう)は、宮沢賢治の短編小説。 賢治の死の翌年(1934年)に発表された作品である。谷川の岸の小さな小学校に、ある風の強い日、不思議な少年が転校してくる。少年は地元の子供たちに風の神の子ではないかという疑念とともに受け入れられ、さまざまな刺激的行動の末に去っていく。その間の村の子供たちの心象風景を現実と幻想の交錯として描いた物語。"
},
{
"book_id": "52411",
"access": 639,
"title": "三国志",
"authors": [
"吉川 英治"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"そうそう\">曹操</sub>を<sub alias=\"から\">搦</sub>めよ。\n<sub alias=\"ふれ\">布令</sub>は、州郡諸地方へ飛んだ。\nその迅速を競って。\n一方——\n<sub alias=\"らくよう\">洛陽</sub>の都をあとに、黄馬に鞭をつづけ、日夜をわかたず、南へ南へと風の如く逃げてきた曹操は、早くも<sub alias=\"ちゅうぼうけん\">中牟県</sub>(河南省中牟・開封—<sub alias=\"ていしゅう\">鄭州</sub>の中間)——の附近までかかっていた。\n「待てっ」\n「馬をおりろ」\n関門へかかるや否や、彼は関所の守備兵に引きずりおろされた。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d9/Eiji_Yoshikawa.jpg/228px-Eiji_Yoshikawa.jpg",
"summary": "『三国志』(さんごくし、連載中の原題:三國志)は、日本の大衆小説作家吉川英治による歴史小説。\n新聞連載小説として、戦時中の1939年から1943年までほぼ4年間連載され、戦後に単行本として刊行され、絶大な人気を博した。基本的なストーリーラインは中国の歴史小説『三国志演義』に従いつつも、特に人物描写は日本人向けに大胆にアレンジし、今日までの日本における三国志関連作品へ多大な影響を及ぼした。"
},
{
"book_id": "51664",
"access": 639,
"title": "ひとをたのまず",
"authors": [
"小川 未明"
],
"first_sentence": "ある<sub alias=\"ひ\">日</sub>、<sub alias=\"わたし\">私</sub>は<sub alias=\"ぐうぜん\">偶然</sub>、<sub alias=\"まえ\">前</sub>を<sub alias=\"ある\">歩</sub>いていく三<sub alias=\"にん\">人</sub>の<sub alias=\"こども\">子供</sub>を、<sub alias=\"かんさつ\">観察</sub>することができました。\n<sub alias=\"こう\">甲</sub>は<sub alias=\"せ\">背</sub>が<sub alias=\"たか\">高</sub>く、<sub alias=\"おつ\">乙</sub>は<sub alias=\"いろ\">色</sub>が<sub alias=\"くろ\">黒</sub>く、<sub alias=\"へい\">丙</sub>はやせていました。そして、バケツを<sub alias=\"さ\">下</sub>げるもの、ほうきを<sub alias=\"も\">持</sub>つもの、そのようすはどこかへそうじをしに、いくように<sub alias=\"み\">見</sub>えました。\nその<sub alias=\"ひ\">日</sub>、<sub alias=\"かれ\">彼</sub>らは、<sub alias=\"がっこう\">学校</sub>で、<sub alias=\"せいせきひょう\">成績表</sub>をもらったのであろうか、\n「<sub alias=\"きみ\">君</sub>は、<sub alias=\"せいせき\">成績</sub>が、よかった?」と、<sub alias=\"おつ\">乙</sub>が、<sub alias=\"こう\">甲</sub>に<sub alias=\"む\">向</sub>かって、ききました。\n<sub alias=\"こう\">甲</sub>は、すました<sub alias=\"たいど\">態度</sub>で、なかなか、それに<sub alias=\"こた\">答</sub>えようとしませんでした。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/9/90/Ogawa_Mimei.JPG/216px-Ogawa_Mimei.JPG",
"summary": ""
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{
"book_id": "58305",
"access": 639,
"title": "愛",
"authors": [
"岡本 かの子"
],
"first_sentence": "その人にまた逢うまでは、とても重苦しくて気骨の折れる人、もう<sub alias=\"めった\">滅多</sub>には逢うまいと思います。そう思えばさばさばして別の事もなく普通の月日に戻り、毎日三時のお茶うけも待遠しいくらい待兼ねて<sub alias=\"いただ\">頂</sub>きます。人間の寿命に<sub alias=\"ふさ\">相応</sub>わしい、嫁入り、子育て、老先の段取りなぞ地道に考えてもそれを別に年寄り染みた老け込みようとは自分でも覚えません。縫針の<sub alias=\"めど\">針孔</sub>に糸はたやすく通ります。畳ざわりが素足の裏にさらさらと気持よく触れます。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/7a/Okamoto_Kanoko.jpg/269px-Okamoto_Kanoko.jpg",
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{
"book_id": "56143",
"access": 639,
"title": "それから",
"authors": [
"夏目 漱石"
],
"first_sentence": "誰か<sub alias=\"あわ\">慌</sub>ただしく門前を<sub alias=\"か\">馳</sub>けて行く足音がした時、<sub alias=\"だいすけ\">代助</sub>の頭の中には、大きな<sub alias=\"まないたげた\">俎下駄</sub>が<sub alias=\"くう\">空</sub>から、ぶら下っていた。けれども、その俎下駄は、足音の<sub alias=\"とおの\">遠退</sub>くに従って、すうと頭から抜け出して消えてしまった。そうして眼が覚めた。\n<sub alias=\"まくらもと\">枕元</sub>を見ると、八重の<sub alias=\"つばき\">椿</sub>が一輪畳の上に落ちている。代助は<sub alias=\"ゆうべ\">昨夕</sub>床の中で<sub alias=\"たし\">慥</sub>かにこの花の落ちる音を聞いた。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/17/Natsume_Soseki_photo.jpg/234px-Natsume_Soseki_photo.jpg",
"summary": "『それから』は、夏目漱石の小説。1909年6月27日より10月14日まで、東京朝日新聞・大阪朝日新聞に連載。翌年1月に春陽堂より刊行。『三四郎』(1908年)・『それから』(1909年)・『門』(1910年)によって前期三部作をなす。\n定職に就かず、毎月1回、本家にもらいに行く金で裕福な生活を送る長井代助が、友人平岡常次郎の妻である三千代とともに生きる決意をするまでを描く。\n作中世界は1909年であり、東京高等商業紛争、『それから』の連載に先立つ『煤煙』の連載、日糖事件などの作品外の事象への言及がある。\n1985年に森田芳光監督、松田優作主演で映画化されている。\n2017年にCLIEにより、平野良主演で舞台化。"
},
{
"book_id": "975",
"access": 631,
"title": "方丈記",
"authors": [
"鴨 長明"
],
"first_sentence": "行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。世の中にある人とすみかと、またかくの如し。玉しきの都の中にむねをならべいらかをあらそへる、たかきいやしき人のすまひは、代々を經て盡きせぬものなれど、これをまことかと尋ぬれば、昔ありし家はまれなり。或はこぞ破れ(やけイ)てことしは造り、あるは大家ほろびて小家となる。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/e3/Kamo_no_Chomei.jpg/320px-Kamo_no_Chomei.jpg",
"summary": "『方丈記』(現代語表記:ほうじょうき、歴史的仮名遣:はうぢやうき)は、鴨長明による鎌倉時代の随筆。日本中世文学の代表的な随筆とされ、『徒然草』、『枕草子』とならぶ「古典日本三大随筆」に数えられる。"
},
{
"book_id": "761",
"access": 609,
"title": "虞美人草",
"authors": [
"夏目 漱石"
],
"first_sentence": "一\n「随分遠いね。<sub alias=\"がんらい\">元来</sub>どこから登るのだ」\nと<sub alias=\"ひとり\">一人</sub>が<sub alias=\"ハンケチ\">手巾</sub>で<sub alias=\"ひたい\">額</sub>を拭きながら立ち<sub alias=\"どま\">留</sub>った。\n「どこか<sub alias=\"おれ\">己</sub>にも判然せんがね。どこから登ったって、同じ事だ。山はあすこに見えているんだから」\nと顔も<sub alias=\"からだ\">体躯</sub>も四角に出来上った男が<sub alias=\"むぞうさ\">無雑作</sub>に答えた。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/17/Natsume_Soseki_photo.jpg/234px-Natsume_Soseki_photo.jpg",
"summary": "『虞美人草』(ぐびじんそう)は、夏目漱石の小説。初出は1907年で、朝日新聞上に連載された。彼が職業作家として執筆した第1作で、一字一句にまで腐心して書いたという。"
},
{
"book_id": "470",
"access": 609,
"title": "セロ弾きのゴーシュ",
"authors": [
"宮沢 賢治"
],
"first_sentence": "ゴーシュは町の活動写真館でセロを弾く係りでした。けれどもあんまり上手でないという評判でした。上手でないどころではなく実は仲間の楽手のなかではいちばん下手でしたから、いつでも楽長にいじめられるのでした。\nひるすぎみんなは楽屋に円くならんで今度の町の音楽会へ出す第六<sub alias=\"こうきょうきょく\">交響曲</sub>の練習をしていました。\nトランペットは一生けん命歌っています。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/4d/Miyazawa_Kenji.jpg/225px-Miyazawa_Kenji.jpg",
"summary": "『セロ弾きのゴーシュ』(セロひきのゴーシュ)は、宮沢賢治の童話。賢治が亡くなった翌年の1934年に発表された作品である。"
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{
"book_id": "59357",
"access": 606,
"title": "悲しめる顔",
"authors": [
"横光 利一"
],
"first_sentence": "京の娘は美しいとしきりに従弟が賞めた。それに帰るとき、\n「此の雨があがると祇園の桜も宜しおすえ。」\nそんなことを云つたので猶金六は京都へ行つてみたくなつた。\n縁側で彼の義兄が官服を着たまゝ魚釣り用の浮きを拵へてゐる。金六は義兄の傍に蹲んだ。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/0e/Yokomitsu_Riichi.JPG/300px-Yokomitsu_Riichi.JPG",
"summary": ""
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{
"book_id": "55",
"access": 601,
"title": "芋粥",
"authors": [
"芥川 竜之介"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"ぐわんぎやう\">元慶</sub>の末か、<sub alias=\"にんな\">仁和</sub>の始にあつた話であらう。どちらにしても時代はさして、この話に大事な役を、勤めてゐない。読者は唯、平安朝と云ふ、遠い昔が背景になつてゐると云ふ事を、知つてさへゐてくれれば、よいのである。——その頃、<sub alias=\"せつしやう\">摂政</sub>藤原<sub alias=\"もとつね\">基経</sub>に仕へてゐる<sub alias=\"さむらひ\">侍</sub>の中に、<sub alias=\"なにがし\">某</sub>と云ふ五位があつた。\nこれも、某と書かずに、何の誰と、ちやんと姓名を明にしたいのであるが、<sub alias=\"あいにく\">生憎</sub>旧記には、それが伝はつてゐない。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/34/Akutagawa.ryunosuke.jpg/320px-Akutagawa.ryunosuke.jpg",
"summary": "「芋粥」(いもがゆ)は、1916年(大正5年)9月1日の『新小説』に発表された芥川龍之介の短編小説である。『宇治拾遺物語』の一話に題材をとり、「鼻」と並ぶ古典翻案ものの一つと位置づけられる。"
},
{
"book_id": "57727",
"access": 599,
"title": "ひとごろし",
"authors": [
"山本 周五郎"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"ふたごろくべえ\">双子六兵衛</sub>は臆病者といわれていた。これこれだからという事実はない。誰一人として、彼が臆病者だったという事実を知っている者はないが、いつとはなしに、それが家中一般の定評となり、彼自身までが自分は臆病者だと信じこむようになった。——少年のころから<sub alias=\"けんか\">喧嘩</sub>や口論をしたためしがないし、危険な遊びもしたことがない。犬が嫌いで、少し大きな犬がいると道をよけて通る。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001869/card57727.html",
"authorImageUrl": "",
"summary": "『ひとごろし』は、山本周五郎の時代小説、またそれを原作とした日本映画、テレビドラマ、演劇。\n1964年10月、『別册文藝春秋』に掲載。"
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{
"book_id": "56698",
"access": 596,
"title": "細雪",
"authors": [
"谷崎 潤一郎"
],
"first_sentence": "「こいさん、頼むわ。———」\n鏡の中で、廊下からうしろへ<sub alias=\"はい\">這入</sub>って来た<sub alias=\"たえこ\">妙子</sub>を見ると、自分で<sub alias=\"えり\">襟</sub>を塗りかけていた<sub alias=\"はけ\">刷毛</sub>を渡して、<sub alias=\"そちら\">其方</sub>は見ずに、眼の前に映っている<sub alias=\"ながじゅばん\">長襦袢</sub>姿の、抜き<sub alias=\"えもん\">衣紋</sub>の顔を他人の顔のように<sub alias=\"みす\">見据</sub>えながら、\n「雪子ちゃん下で何してる」\nと、<sub alias=\"さちこ\">幸子</sub>はきいた。\n「悦ちゃんのピアノ見たげてるらしい」\n———なるほど、階下で練習曲の音がしているのは、雪子が先に身支度をしてしまったところで悦子に<sub alias=\"つか\">掴</sub>まって、<sub alias=\"けいこ\">稽古</sub>を見てやっているのであろう。悦子は母が外出する時でも雪子さえ家にいてくれれば大人しく留守番をする児であるのに、今日は母と雪子と妙子と、三人が<sub alias=\"そろ\">揃</sub>って出かけると云うので少し<sub alias=\"きげん\">機嫌</sub>が悪いのであるが、二時に始まる演奏会が済みさえしたら雪子だけ一と足先に、夕飯までには帰って来て上げると云うことでどうやら納得はしているのであった。\n「なあ、こいさん、雪子ちゃんの話、又一つあるねんで」\n「そう、———」\n姉の<sub alias=\"えりくび\">襟頸</sub>から両肩へかけて、妙子は<sub alias=\"あざや\">鮮</sub>かな<sub alias=\"はけめ\">刷毛目</sub>をつけてお<sub alias=\"しろい\">白粉</sub>を引いていた。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/34/Junichiro_Tanizaki_01.jpg/224px-Junichiro_Tanizaki_01.jpg",
"summary": "『細雪』(ささめゆき)は、谷崎潤一郎の長編小説。1936年(昭和11年)秋から1941年(昭和16年)春までの大阪の旧家を舞台に、4姉妹の日常生活の悲喜こもごもを綴った作品。阪神間モダニズム時代の阪神間の生活文化を描いた作品としても知られ、全編の会話が船場言葉で書かれている。上流の大阪人の生活を描き絢爛でありながら、それゆえに第二次世界大戦前の崩壊寸前の滅びの美を内包し、挽歌的な切なさをも醸し出している。作品の主な舞台は職住分離が進んだため住居のある阪神間(職場は船場)であるが、大阪(船場)文化の崩壊過程を描いている。\n谷崎潤一郎の代表作であり、三島由紀夫をはじめ、多くの小説家・文芸評論家から高く評価され、しばしば近代文学の代表作に挙げられる作品である。『細雪』は〈天子様〉(昭和天皇)に献上されたが、通常は小説を読まない天皇が、この作品は全部読了したと谷崎は聞いたという。"
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{
"book_id": "56802",
"access": 594,
"title": "天才になりそこなった男の話",
"authors": [
"坂口 安吾"
],
"first_sentence": "東洋大学の学生だったころ、<sub alias=\"ちょうど\">丁度</sub>学年試験の最中であったが、校門の前で電車から降りたところを自動車にはねとばされたことがあった。相当に運動神経が発達しているから、二、三<sub alias=\"けん\">間</sub>空中に舞いあがり途中一回転のもんどりを打って落下したが、それでも左頭部をコンクリートへ<sub alias=\"たた\">叩</sub>きつけた。頭蓋骨に亀裂がはいって<sub alias=\"じらい\">爾来</sub>二ヶ年水薬を飲みつづけたが、当座は廃人になるんじゃないかと悩みつづけて<sub alias=\"ゆううつ\">憂鬱</sub>であった。\nこんな話をきくと大概の人が<sub alias=\"ごしゅうしょうさま\">御愁傷様</sub>でというような似たりよったりの<sub alias=\"かおつき\">顔付</sub>をするものだが、ところがここにたった一人、私がこの話をしかけると豆鉄砲をくらった<sub alias=\"はと\">鳩</sub>のように<sub alias=\"あぜん\">唖然</sub>として(これは<sub alias=\"しゃべ\">喋</sub>っている私の方も唖然とした)つづいて<sub alias=\"せんぼう\">羨望</sub>のあまり長大息を<sub alias=\"も\">洩</sub>らした男があった。<sub alias=\"ひしやましゅうぞう\">菱山修三</sub>という詩人である。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/16/Ango_Sakaguchi_%28cropped%29.jpg/240px-Ango_Sakaguchi_%28cropped%29.jpg",
"summary": ""
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{
"book_id": "628",
"access": 585,
"title": "ごん狐",
"authors": [
"新美 南吉"
],
"first_sentence": "これは、<sub alias=\"わたし\">私</sub>が小さいときに、村の<sub alias=\"もへい\">茂平</sub>というおじいさんからきいたお話です。\nむかしは、私たちの村のちかくの、<sub alias=\"なかやま\">中山</sub>というところに小さなお城があって、中山さまというおとのさまが、おられたそうです。\nその中山から、少しはなれた山の中に、「ごん<sub alias=\"ぎつね\">狐</sub>」という狐がいました。ごんは、<sub alias=\"ひとり\">一人</sub>ぼっちの小狐で、しだの一ぱいしげった森の中に穴をほって住んでいました。そして、夜でも昼でも、あたりの村へ出てきて、いたずらばかりしました。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/2/21/%E6%96%B0%E7%BE%8E%E5%8D%97%E5%90%89.jpg/320px-%E6%96%B0%E7%BE%8E%E5%8D%97%E5%90%89.jpg",
"summary": "『ごん狐』(ごんぎつね)は、新美南吉作の児童文学。南吉の代表作で、彼が18歳の時に執筆した。初出は『赤い鳥』1932年1月号。作者の死の直後、1943年9月30日に刊行された童話集『花のき村と盗人たち』(帝国教育会出版部)に収録された。\n南吉の出身地である愛知県知多郡半田町(現在の愛知県半田市)岩滑(やなべ)地区の矢勝川や、隣の阿久比町にある権現山を舞台に書かれたといわれている。筆者が村の老人から聞いた話という体裁をとっており、「城」や「お殿様」、「お歯黒」という言葉が出てくることから、江戸時代から明治ごろが舞台となっている。"
},
{
"book_id": "59824",
"access": 585,
"title": "小さな庭",
"authors": [
"原 民喜"
],
"first_sentence": "暗い雨のふきつのる、あれはてた庭であつた。わたしは妻が死んだのを知つておどろき泣いてゐた。泣きさけぶ声で目がさめると、妻はかたはらにねむつてゐた。\n……その夢から十日あまりして、ほんとに妻は死んでしまつた。庭にふりつのるまつくらの雨がいまはもう夢ではないのだ。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/12/Tamiki_Hara.jpg/206px-Tamiki_Hara.jpg",
"summary": ""
},
{
"book_id": "46669",
"access": 583,
"title": "智恵子抄",
"authors": [
"高村 光太郎"
],
"first_sentence": "いやなんです\nあなたのいつてしまふのが——\n花よりさきに実のなるやうな\n<sub alias=\"たね\">種子</sub>よりさきに芽の出るやうな\n夏から春のすぐ来るやうな\n",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001168/card46669.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/fc/%E9%AB%98%E6%9D%91%E5%85%89%E5%A4%AA%E9%83%8E.jpg/240px-%E9%AB%98%E6%9D%91%E5%85%89%E5%A4%AA%E9%83%8E.jpg",
"summary": "『智恵子抄』(ちえこしょう)は、詩人の高村光太郎が1941年に龍星閣から出版した詩集である。"
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{
"book_id": "427",
"access": 570,
"title": "桜の樹の下には",
"authors": [
"梶井 基次郎"
],
"first_sentence": "桜の樹の下には<sub alias=\"したい\">屍体</sub>が埋まっている!\nこれは信じていいことなんだよ。<sub alias=\"なぜ\">何故</sub>って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。俺はあの美しさが信じられないので、この二三日不安だった。しかしいま、やっとわかるときが来た。桜の樹の下には屍体が埋まっている。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/ja/thumb/a/aa/Motojiro_kazii.jpg/240px-Motojiro_kazii.jpg",
"summary": "『櫻の樹の下には』(さくらのきのしたには)は、梶井基次郎の短編小説(掌編小説)。散文詩と見なされることもある。満開の桜やかげろうの生の美のうちに屍体という醜や死を透視し、惨劇を想像するというデカダンスの心理が、話者の「俺」が聞き手の「お前」に語りかけるという物語的手法で描かれている。近代文学に新たな桜観をもたらした作品でもあり、「桜の樹の下には屍体が埋まつてゐる!」という衝撃的な冒頭文は有名である。"
},
{
"book_id": "14",
"access": 559,
"title": "あばばばば",
"authors": [
"芥川 竜之介"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"やすきち\">保吉</sub>はずつと以前からこの店の主人を見知つてゐる。\nずつと以前から、——或はあの海軍の学校へ赴任した当日だつたかも知れない。彼はふとこの店へマツチを一つ買ひにはひつた。店には小さい飾り窓があり、窓の中には大将旗を掲げた軍艦<sub alias=\"みかさ\">三笠</sub>の模型のまはりにキユラソオの壜だのココアの罐だの<sub alias=\"ほ\">干</sub>し<sub alias=\"ぶだう\">葡萄</sub>の箱だのが並べてある。が、軒先に「たばこ」と抜いた赤塗りの看板が出てゐるから、勿論マツチも売らない筈はない。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/34/Akutagawa.ryunosuke.jpg/320px-Akutagawa.ryunosuke.jpg",
"summary": "『あばばばば』は、芥川龍之介の小説。保吉ものと呼ばれる作品群の一つで、実生活に取材した私小説。初出は『中央公論』1923年(大正12年)12月号。"
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{
"book_id": "53796",
"access": 555,
"title": "愛か",
"authors": [
"李 光洙"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"ぶんきち\">文吉</sub>は<sub alias=\"みさお\">操</sub>を渋谷に<sub alias=\"と\">訪</sub>うた。無限の喜と楽と望とは彼の胸に<sub alias=\"みなぎ\">漲</sub>るのであった。途中一二人の友人を訪問したのはただこれが口実を作るためである。夜は<sub alias=\"ふ\">更</sub>け<sub alias=\"みち\">途</sub>は<sub alias=\"ぬかる\">濘</sub>んでいるがそれにも<sub alias=\"とんじゃく\">頓着</sub>せず文吉は操を訪問したのである。\n彼が表門に着いた時の心持と云ったら実に何とも云えなかった。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/ff/%EC%9D%B4%EA%B4%91%EC%88%982.jpg/320px-%EC%9D%B4%EA%B4%91%EC%88%982.jpg",
"summary": ""
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"book_id": "1869",
"access": 542,
"title": "浮雲",
"authors": [
"二葉亭 四迷"
],
"first_sentence": "浮雲はしがき\n浮雲第一篇序\n第一編\n第一回 アアラ怪しの人の<sub alias=\"ふるまい\">挙動</sub>\n<sub alias=\"ちはやふ\">千早振</sub>る<sub alias=\"かみなづき\">神無月</sub>ももはや跡<sub alias=\"ふつか\">二日</sub>の<sub alias=\"なごり\">余波</sub>となッた二十八日の午後三時頃に、<sub alias=\"かんだみつけ\">神田見附</sub>の内より、<sub alias=\"とわた\">塗渡</sub>る<sub alias=\"あり\">蟻</sub>、散る<sub alias=\"くも\">蜘蛛</sub>の子とうようよぞよぞよ<sub alias=\"わきい\">沸出</sub>でて来るのは、<sub alias=\"いず\">孰</sub>れも<sub alias=\"おとがい\">顋</sub>を気にし<sub alias=\"たま\">給</sub>う方々。しかし<sub alias=\"つらつら\">熟々</sub>見て<sub alias=\"とく\">篤</sub>と<sub alias=\"てんけん\">点<img gaiji=\"gaiji\" src=\"http://www.aozora.gr.jp/cards/../gaiji/1-84/1-84-94.png\" alt=\"※(「てへん+僉」、第3水準1-84-94)\" class=\"gaiji\" /></sub>すると、これにも<sub alias=\"さまざま\">種々</sub>種類のあるもので、まず<sub alias=\"ひげ\">髭</sub>から書立てれば、口髭、<sub alias=\"ほおひげ\">頬髯</sub>、<sub alias=\"あご\">顋</sub>の<sub alias=\"ひげ\">鬚</sub>、<sub alias=\"やけ\">暴</sub>に<sub alias=\"おや\">興起</sub>した<sub alias=\"ナポレオンひげ\">拿破崙髭</sub>に、<sub alias=\"チン\">狆</sub>の口めいた<sub alias=\"ビスマルクひげ\">比斯馬克髭</sub>、そのほか<sub alias=\"ちゃぼひげ\">矮鶏髭</sub>、<sub alias=\"むじなひげ\">貉髭</sub>、ありやなしやの幻の髭と、濃くも<sub alias=\"うす\">淡</sub>くもいろいろに<sub alias=\"はえわか\">生分</sub>る。髭に続いて<sub alias=\"ちが\">差</sub>いのあるのは<sub alias=\"みなり\">服飾</sub>。<sub alias=\"しろきや\">白木屋</sub>仕込みの<sub alias=\"くろいもの\">黒物</sub>ずくめには<sub alias=\"フランス\">仏蘭西</sub>皮の<sub alias=\"くつ\">靴</sub>の<sub alias=\"めおと\">配偶</sub>はありうち、これを召す<sub alias=\"かたさま\">方様</sub>の鼻毛は延びて<sub alias=\"とんぼ\">蜻蛉</sub>をも<sub alias=\"つ\">釣</sub>るべしという。これより<sub alias=\"くだ\">降</sub>っては、<sub alias=\"せじわ\">背皺</sub>よると<sub alias=\"まくらことば\">枕詞</sub>の付く「スコッチ」の背広にゴリゴリするほどの牛の毛皮靴、そこで<sub alias=\"かかと\">踵</sub>にお飾を<sub alias=\"たや\">絶</sub>さぬところから<sub alias=\"どろ\">泥</sub>に尾を<sub alias=\"ひ\">曳</sub>く<sub alias=\"かめのこズボン\">亀甲洋袴</sub>、いずれも<sub alias=\"つる\">釣</sub>しんぼうの<sub alias=\"くげん\">苦患</sub>を今に脱せぬ<sub alias=\"かおつき\">貌付</sub>。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000006/card1869.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/2/21/Futabatei_Shimei_in_1908.jpg/237px-Futabatei_Shimei_in_1908.jpg",
"summary": "『浮雲』(うきぐも)は、二葉亭四迷の長編小説。角書「新編」。1887年(明治20年)から1889年にかけて発表。一、二篇は、金港堂から刊行、三篇は「都の花」に連載。\n主人公の文三とその従姉妹のお勢、友人の本田の3人の姿を中心に描かれている。言文一致の文体(ダ体)で書かれた日本の近代小説の始まりを告げた作品で、四迷の代表作。坪内逍遥の『小説神髄』を読んで満足しなかった四迷が『当世書生気質』に対抗して書いた。当初は坪内逍遥の本名「坪内雄蔵」の著者名で発表され、逍遥は報酬として印税の半分を受け取っていた。\nしかし四迷は出来に満足せず、この後約20年間ほど小説の執筆から離れてしまった。"
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{
"book_id": "42606",
"access": 539,
"title": "レ・ミゼラブル",
"authors": [
"ユゴー ヴィクトル"
],
"first_sentence": "法律と風習とによって、ある<sub alias=\"えいごう\">永劫</sub>の社会的処罰が存在し、かくして人為的に地獄を文明のさなかにこしらえ、聖なる運命を世間的因果によって紛糾せしむる間は、すなわち、下層階級による男の失墜、飢餓による女の堕落、暗黒による子供の<sub alias=\"いしゅく\">萎縮</sub>、それら時代の三つの問題が解決せられない間は、すなわち、ある方面において、社会的窒息が可能である間は、すなわち、言葉を換えて言えば、そしてなおいっそう広い見地よりすれば、地上に無知と悲惨とがある間は、本書のごとき性質の書物も、おそらく無益ではないであろう。\n一八六二年一月一日\n",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001094/card42606.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/e6/Victor_Hugo_by_%C3%89tienne_Carjat_1876_-_full.jpg/260px-Victor_Hugo_by_%C3%89tienne_Carjat_1876_-_full.jpg",
"summary": "『レ・ミゼラブル』(フランス語: Les Misérables)は、ヴィクトル・ユーゴーが1862年に執筆したロマン主義フランス文学の大河小説。\n\n"
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{
"book_id": "42934",
"access": 539,
"title": "阿Q正伝",
"authors": [
"魯迅 "
],
"first_sentence": "わたしは<sub alias=\"あキュー\">阿Q</sub>の正伝を作ろうとしたのは一年や二年のことではなかった。けれども作ろうとしながらまた考えなおした。これを見てもわたしは立言の人でないことが分る。従来不朽の筆は不朽の人を伝えるもので、人は文に依って伝えらる。つまり<sub alias=\"たれそれ\">誰某</sub>は誰某に<sub alias=\"よ\">靠</sub>って伝えられるのであるから、次第にハッキリしなくなってくる。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001124/card42934.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/48/LuXun1930.jpg/240px-LuXun1930.jpg",
"summary": "『阿Q正伝』(あきゅうせいでん/あキューせいでん)は、中国の作家魯迅の小説。1921年12月4日から1922年2月12日にかけて新聞『晨報』の週刊付録に一章ずつ発表されたもので、魯迅唯一の中編小説である。阿Qという近代中国の一庶民を主人公とした、他に例を見ない物語として注目を集めた。"
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{
"book_id": "1502",
"access": 538,
"title": "破戒",
"authors": [
"島崎 藤村"
],
"first_sentence": "第壱章\n(一)\n<sub alias=\"れんげじ\">蓮華寺</sub>では下宿を兼ねた。瀬川<sub alias=\"うしまつ\">丑松</sub>が急に<sub alias=\"やどがへ\">転宿</sub>を思ひ立つて、借りることにした部屋といふのは、其<sub alias=\"くり\">蔵裏</sub>つゞきにある二階の角のところ。寺は信州<sub alias=\"しもみのちごほり\">下水内郡</sub>飯山町二十何ヶ寺の一つ、真宗に附属する<sub alias=\"こせつ\">古刹</sub>で、丁度其二階の窓に<sub alias=\"よりかゝ\">倚凭</sub>つて眺めると、<sub alias=\"いてふ\">銀杏</sub>の大木を<sub alias=\"へだ\">経</sub>てゝ飯山の町の一部分も見える。さすが信州第一の仏教の地、古代を<sub alias=\"めのまへ\">眼前</sub>に見るやうな小都会、奇異な北国風の<sub alias=\"やづくり\">屋造</sub>、板葺の屋根、または冬期の<sub alias=\"ゆきよけ\">雪除</sub>として使用する特別の<sub alias=\"のきびさし\">軒庇</sub>から、ところ/″\に高く<sub alias=\"あらは\">顕</sub>れた寺院と樹木の梢まで——すべて旧めかしい町の<sub alias=\"ありさま\">光景</sub>が香の<sub alias=\"けぶり\">烟</sub>の中に包まれて見える。たゞ<sub alias=\"ひときは\">一際</sub>目立つて此窓から望まれるものと言へば、現に丑松が奉職して居る其小学校の白く塗つた<sub alias=\"たてもの\">建築物</sub>であつた。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000158/card1502.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/6/6f/Shimazaki_Toson2.jpg/219px-Shimazaki_Toson2.jpg",
"summary": "『破戒』(はかい)は、島崎藤村の長編小説。1905(明治38)年、小諸時代の最後に本作を起稿。翌年の1906年3月、緑陰叢書の第1編として自費出版。\n被差別部落出身の小学校教師がその出生に苦しみ、ついに告白するまでを描く。藤村が小説に転向した最初の作品で、日本自然主義文学の先陣を切った。夏目漱石は、『破戒』を「明治の小説としては後世に伝ふべき名篇也」(森田草平宛て書簡)と評価した。"
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{
"book_id": "55761",
"access": 530,
"title": "西の京の思ひ出",
"authors": [
"和辻 哲郎"
],
"first_sentence": "老人の思ひ出話など、今の若い人にはあまり興味はあるまいと思はれるが、老人にとつては、思ひ出に耽ることは楽しいのである。さういふ楽しみに耽る機会を与へられた北島葭江先輩自身が、すでにいろ/\な思ひ出の種になる。\nこの春安倍能成君から電話がかゝつて来て、北島が訪ねて行くから、逢つて頼みを聞いてやつてくれといふことであつた。その時わたくしは北島さんの昔の顔を思ひ起すことが出来た。安倍君と同じ級であつたとすれば大学はちやうど入れ替りになるわけであるが、どこかでちよい/\顔を見たことがあつたのであらう。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001395/card55761.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/8/84/Tetsuro_Watsuji_01.jpg/251px-Tetsuro_Watsuji_01.jpg",
"summary": ""
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{
"book_id": "52412",
"access": 516,
"title": "三国志",
"authors": [
"吉川 英治"
],
"first_sentence": "「なに、無条件で<sub alias=\"わぼく\">和睦</sub>せよと。ばかをいい給え」\n<sub alias=\"かくし\">郭<img src=\"http://www.aozora.gr.jp/cards/../gaiji/1-86/1-86-50.png\" alt=\"※(「さんずい+巳」、第3水準1-86-50)\" class=\"gaiji\" /></sub>は、耳もかさない。\nそれのみか、不意に、兵に令を下して、<sub alias=\"ようひょう\">楊彪</sub>について来た大臣以下宮人など、六十余人の者を一からげに縛ってしまった。\n「これは乱暴だ。和議の<sub alias=\"なかだち\">媒介</sub>に参った朝臣方を、なにゆえあって捕え給うか」\n楊彪が声を荒くしてとがめると、\n「だまれっ。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001562/card52412.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d9/Eiji_Yoshikawa.jpg/228px-Eiji_Yoshikawa.jpg",
"summary": "『三国志』(さんごくし、連載中の原題:三國志)は、日本の大衆小説作家吉川英治による歴史小説。\n新聞連載小説として、戦時中の1939年から1943年までほぼ4年間連載され、戦後に単行本として刊行され、絶大な人気を博した。基本的なストーリーラインは中国の歴史小説『三国志演義』に従いつつも、特に人物描写は日本人向けに大胆にアレンジし、今日までの日本における三国志関連作品へ多大な影響を及ぼした。"
},
{
"book_id": "56647",
"access": 515,
"title": "二銭銅貨",
"authors": [
"江戸川 乱歩"
],
"first_sentence": "「あの泥坊が<sub alias=\"うらやま\">羨</sub>しい」二人の間にこんな言葉が<sub alias=\"かわ\">交</sub>される程、<sub alias=\"そのころ\">其頃</sub>は<sub alias=\"きゅうはく\">窮迫</sub>していた。\n<sub alias=\"ばすえ\">場末</sub>の貧弱な下駄屋の二階の、ただ一間しかない六畳に、一閑張りの破れ机を二つ並べて、松村武とこの私とが、変な空想ばかり<sub alias=\"たくま\">逞</sub>しゅうして、ゴロゴロしていた頃のお話である。\nもう何もかも行詰って<sub alias=\"しま\">了</sub>って、動きの取れなかった二人は、丁度その頃世間を騒がせた大泥坊の、巧みなやり口を羨む様な、さもしい<sub alias=\"こころもち\">心持</sub>になっていた。\nその泥坊事件というのが、このお話の本筋に大関係を持っているので、<sub alias=\"ここ\">茲</sub>にザッとそれをお話して置くことにする。\n芝区のさる大きな電気工場の職工給料日当日の出来事であった。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001779/card56647.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/33/Rampo_Edogawa_02.jpg/250px-Rampo_Edogawa_02.jpg",
"summary": "『二銭銅貨』(にせんどうか)は1923年(大正12年)に江戸川乱歩が発表した短編推理小説であり、探偵小説家江戸川乱歩の処女作である。"
},
{
"book_id": "51732",
"access": 514,
"title": "古事記",
"authors": [
"太 安万侶",
"稗田 阿礼"
],
"first_sentence": "わたくし<sub alias=\"やすまろ\">安萬侶</sub>が申しあげます。\n宇宙のはじめに當つては、すべてのはじめの物がまずできましたが、その氣性はまだ十分でございませんでしたので、名まえもなく動きもなく、誰もその形を知るものはございません。それからして天と地とがはじめて別になつて、アメノミナカヌシの神、タカミムスビの神、カムムスビの神が、すべてを作り出す最初の神となり、そこで男女の兩性がはつきりして、イザナギの神、イザナミの神が、萬物を生み出す親となりました。そこでイザナギの命は、地下の世界を訪れ、またこの國に歸つて、<sub alias=\"みそぎ\">禊</sub>をして日の神と月の神とが目を洗う時に現われ、海水に浮き沈みして身を洗う時に、さまざまの神が出ました。それ故に最古の時代は、くらくはるかのあちらですけれども、前々からの教によつて國土を生み成した時のことを知り、先の世の物しり人によつて神を生み人間を成り立たせた世のことがわかります。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001518/card51732.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/c/cf/Ono-Yasumaro.jpg/273px-Ono-Yasumaro.jpg",
"summary": "古事記(こじき、ふることふみ、ふることぶみ)は、一般に現存する日本最古の歴史書であるとされる。その序によれば、和銅5年(712年)に太安万侶が編纂し、元明天皇に献上された。上・中・下の3巻。内容は天地開闢 (日本神話)から推古天皇の記事を記述する。\n8年後の養老4年(720年)に編纂された『日本書紀』とともに神代から上古までを記した史書として、近現代においては記紀と総称されることもあるが、『古事記』が出雲神話を重視するなど両書の内容には差異もある。\n六国史のうち和銅5年を含む『続日本紀』に『古事記』への言及がないことなどから、『古事記』の成立時期・過程については、序が語る通りではないとする疑問も呈されている(「偽書説」で詳述)。"
},
{
"book_id": "50039",
"access": 512,
"title": "多摩川冒険記",
"authors": [
"大町 桂月"
],
"first_sentence": "夏の末の大雨に、多摩川氾濫し、家流れ、田流れ、林流れ、人畜死し、汽車不通となりけるが、雨霽れて、三四日經たり。幸ひ日曜なればとて、三人の友と共に、大山街道を取りて、二子の渡に至る。平生水は砂磧中の一小部分を流るゝに過ぎざるに、今や全砂磧を蓋ひ、なほその外にも溢れて、洪水の跡を留む。一見人をして快と叫ばしむ。渡舟にて渡りて後、しばし泳ぎけるが、歸りは別路を取りて、登戸の渡に來たる。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000237/card50039.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/1a/Omachi_Keigetsu.jpg/267px-Omachi_Keigetsu.jpg",
"summary": ""
},
{
"book_id": "56393",
"access": 510,
"title": "銭形平次捕物控",
"authors": [
"野村 胡堂"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"やなぎわら\">柳原</sub>の土手下、ちょうど<sub alias=\"おぐんだい\">御郡代</sub>屋敷前の<sub alias=\"めっぽう\">滅法</sub>淋しいところに<sub alias=\"なまくび\">生首</sub>が一つ転がっておりました。\n朝市へ行く八百屋さんが見つけて大騒ぎになり、係り合いの町役人や、野次馬まで加わって捜した<sub alias=\"あげく\">揚句</sub>、間もなく首のない死骸が水際の<sub alias=\"やぶ\">藪</sub>の中から見つかり、それが見知り人があって、豊島町一丁目で公儀御用の紙問屋<sub alias=\"えちぜんや\">越前屋</sub>の大番頭清六と判ったのは、だいぶ陽が高くなってからでした。\nガラッ八の八五郎の<sub alias=\"おおげさ\">大袈裟</sub>な注進で、銭形平次が来たのはまだ<sub alias=\"けんし\">検屍</sub>前。\n「寄るな寄るな見世物じゃねエ」\nそんな調子で露払いをするガラッ八の後ろから平次は<sub alias=\"つつ\">虔</sub>ましい顔を出して、初秋の陽の明るく当る<sub alias=\"むしろ\">筵</sub>を<sub alias=\"は\">剥</sub>ぎました。\n殺された清六は五十七八、小作りの<sub alias=\"ごましおまげ\">胡麻塩髷</sub>、典型的な番頭ですが、死骸の<sub alias=\"むご\">虐</sub>たらしさは、物馴れた平次にも顔を<sub alias=\"そむ\">反</sub>けさせます。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001670/card56393.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/11/Kodo_Nomura_01.jpg/265px-Kodo_Nomura_01.jpg",
"summary": "『銭形平次捕物控』(ぜにがたへいじ とりものひかえ)は、野村胡堂による小説、またこの小説を基にした映画、テレビ時代劇、舞台作品。翻案作品ではタイトルを単に『銭形平次』とするものもある。\n神田明神下に住む岡っ引の平次(通称 銭形平次)が、子分の八五郎(通称:ガラッ八-ガラッパチ)と共に卓越した推理力と寛永通宝による「投げ銭」(重さ3.5グラムで、小石を投げつけるのと同じ)を駆使し、事件を鮮やかに解決していく。岡本綺堂『半七捕物帳』と共に最も有名な捕物帳(犯罪事件を題材とした時代物の推理小説)であり、代表的な時代劇作品の一つでもある。\n作品の舞台が江戸時代のいつ頃かははっきりしない。原作の最初の頃は寛永期(1624年 - 1645年、江戸初期)を舞台にしていたが、第30話から文化文政期(1804年 - 1830年、江戸後期)に移っている。\n平次は架空の人物であるが、小説の設定から神田明神境内に銭形平次の碑が建立されており、銭形平次の顔出し看板も設置されている。"
},
{
"book_id": "50131",
"access": 507,
"title": "アーサー王物語",
"authors": [
"テニソン アルフレッド"
],
"first_sentence": "本叢書は洽ねく大家の手に成るもの、或は青年の必讀書として世に傳はるものゝ中より、其内容文章共に英文の至珍とすべく、特に我青年諸氏に利益と快樂とを與ふるものを撰拔せり。\n英語を學ぶに當り、文法字義を明かにし、所謂難句集に見る如き短文を攻究するの要あるは云ふまでもなしと雖も、亦可成多く一篇を成せる名家の著を讀み、英文に對する趣味を養ひ、不知不識其の豐富なる語類成句に習熟することを怠るべからず。前者は專ら學課として教師の指導に待つべきも、後者は學生諸子自ら講學の餘暇を利用して之を心掛くべきなり。著者等は親しく學生諸子に接し、教場以外獨習の助けとなるべきものゝ要求を知れり、是れ本叢書刊行の企ある所以にして、其冊子の小なるも諸子が携帶の便を計りたればなり。\n直譯なるもの及び之れと密接の關係ある不完全なる和譯英字書の譯語を其儘に用うるの弊害世に知られて、英學界の呪詛となりたれども、單に代名詞、助動詞等の譯し振りを變じたるのみにして、種々の事情より此弊未だ一掃せられず、此形式的譯法は原文の意義を發揮するに於て甚だ不完全のみならず、諸子一度此習癖に染まば修學上の害測り知るべからざるものあらん。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000140/card50131.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/b1/Alfred_Tennyson%2C_1st_Baron_Tennyson_-_Project_Gutenberg_eText_17768.jpg/215px-Alfred_Tennyson%2C_1st_Baron_Tennyson_-_Project_Gutenberg_eText_17768.jpg",
"summary": "アーサー王物語(アーサーおうものがたり)またはアーサー王伝説(アーサーおうでんせつ)とは中世の騎士道物語。"
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{
"book_id": "473",
"access": 505,
"title": "よだかの星",
"authors": [
"宮沢 賢治"
],
"first_sentence": "よだかは、実にみにくい鳥です。\n顔は、ところどころ、<sub alias=\"みそ\">味噌</sub>をつけたようにまだらで、くちばしは、ひらたくて、耳までさけています。\n足は、まるでよぼよぼで、<sub alias=\"いっけん\">一間</sub>とも歩けません。\nほかの鳥は、もう、よだかの顔を見ただけでも、いやになってしまうという<sub alias=\"ぐあい\">工合</sub>でした。\nたとえば、ひばりも、あまり美しい鳥ではありませんが、よだかよりは、ずっと上だと思っていましたので、夕方など、よだかにあうと、さもさもいやそうに、しんねりと目をつぶりながら、首をそっ<sub alias=\"ぽ\">方</sub>へ向けるのでした。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/card473.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/4d/Miyazawa_Kenji.jpg/225px-Miyazawa_Kenji.jpg",
"summary": "『よだかの星』(よだかのほし)は、宮沢賢治の短編小説(童話)。1921年頃に執筆されたと考えられ、賢治の没年の翌年(1934年)に発表されている。  "
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{
"book_id": "2314",
"access": 503,
"title": "イズムの功過",
"authors": [
"夏目 漱石"
],
"first_sentence": "大抵のイズムとか主義とかいうものは無数の事実を<sub alias=\"きちょうめん\">几帳面</sub>な男が<sub alias=\"たば\">束</sub>にして頭の<sub alias=\"ひきだし\">抽出</sub>へ入れやすいように<sub alias=\"こしら\">拵</sub>えてくれたものである。<sub alias=\"ひとまと\">一纏</sub>めにきちりと片付いている代りには、出すのが<sub alias=\"おっくう\">臆劫</sub>になったり、<sub alias=\"ほど\">解</sub>くのに手数がかかったりするので、いざという場合には間に合わない事が多い。大抵のイズムはこの点において、実生活上の行為を直接に支配するために作られたる<sub alias=\"しなんしゃ\">指南車</sub>というよりは、<sub alias=\"ごじん\">吾人</sub>の知識欲を充たすための統一函である。文章ではなくって字引である。\n同時に多くのイズムは、<sub alias=\"れいさい\">零砕</sub>の類例が、比較的<sub alias=\"ちみつ\">緻密</sub>な頭脳に<sub alias=\"ろか\">濾過</sub>されて<sub alias=\"ぎょうけつ\">凝結</sub>した時に取る一種の形である。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/card2314.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/17/Natsume_Soseki_photo.jpg/234px-Natsume_Soseki_photo.jpg",
"summary": ""
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{
"book_id": "530",
"access": 501,
"title": "黒猫",
"authors": [
"ポー エドガー・アラン"
],
"first_sentence": "私がこれから書こうとしているきわめて奇怪な、またきわめて<sub alias=\"そぼく\">素朴</sub>な物語については、自分はそれを信じてもらえるとも思わないし、そう願いもしない。自分の感覚でさえが自分の経験したことを信じないような場合に、他人に信じてもらおうなどと期待するのは、ほんとに正気の<sub alias=\"さた\">沙汰</sub>とは言えないと思う。だが、私は正気を失っている訳ではなく、——また決して夢みているのでもない。しかしあす私は死ぬべき身だ。で、今日のうちに自分の魂の重荷をおろしておきたいのだ。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000094/card530.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/2/27/Edgar_Allan_Poe_2.jpg/255px-Edgar_Allan_Poe_2.jpg",
"summary": "「黒猫」(くろねこ、The Black Cat)は、1843年に発表されたエドガー・アラン・ポーの短編小説。酒乱によって可愛がっていた黒猫を殺した男が、それとそっくりな猫によって次第に追い詰められていく様を描いたゴシック風の恐怖小説であり、ポーの代表的な短編の一つ。天邪鬼の心理を扱っていることでは同作者の「天邪鬼」と、犯罪の露見を扱っている点では「告げ口心臓」とモチーフを同じくする。\n\n『サタデー・イヴニング・ポスト』(ただし、このときは一時的に『ユナイテッド・ステイツ・サタデー・ポスト』の名称を使用)8月19日に初出。発表時より好評を博し、ポーの同時代人トマス・ダン・イングリッシュの『The Ghost of the Grey Tadpole』をはじめ様々なパロディがある。"
},
{
"book_id": "128",
"access": 500,
"title": "羅生門",
"authors": [
"芥川 竜之介"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"あるひ\">或日</sub>の暮方の事である。一人の下人が、<sub alias=\"らしやうもん\">羅生門</sub>の下で雨やみを待つてゐた。\n廣い門の下には、この男の<sub alias=\"ほか\">外</sub>に誰もゐない。唯、所々<sub alias=\"にぬり\">丹塗</sub>の剥げた、大きな<sub alias=\"まるばしら\">圓柱</sub>に、<sub alias=\"きり/″\す\">蟋蟀</sub>が一匹とまつてゐる。<sub alias=\"らしやうもん\">羅生門</sub>が、<sub alias=\"すじやくおおぢ\">朱雀大路</sub>にある<sub alias=\"いじやう\">以上</sub>は、この男の外にも、<sub alias=\"あめ\">雨</sub>やみをする<sub alias=\"いちめがさ\">市女笠</sub>や揉烏帽子が、もう二三<sub alias=\"にん\">人</sub>はありさうなものである。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card128.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/34/Akutagawa.ryunosuke.jpg/320px-Akutagawa.ryunosuke.jpg",
"summary": "『羅生門』(らしょうもん)は、芥川龍之介の小説。『今昔物語集』の本朝世俗部巻二十九「羅城門登上層見死人盗人語第十八」を基に、巻三十一「太刀帯陣売魚姫語第三十一」の内容を一部に交える形で書かれたものである。生きるための悪という人間のエゴイズムを克明に描き出した。"
},
{
"book_id": "623",
"access": 493,
"title": "山月記",
"authors": [
"中島 敦"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"ろう\">隴</sub>西の李徴は博學<sub alias=\"さいえい\">才穎</sub>、天寶の末年、若くして名を<sub alias=\"こぼう\">虎榜</sub>に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃む所頗る厚く、賤吏に甘んずるを潔しとしなかつた。いくばくもなく官を退いた後は、故山、<sub alias=\"くわく\"><img gaiji=\"gaiji\" src=\"http://www.aozora.gr.jp/cards/../gaiji/1-91/1-91-48.png\" alt=\"※(「埓のつくり+虎」、第3水準1-91-48)\" class=\"gaiji\" /></sub>略に歸臥し、人と交を絶つて、ひたすら詩作に耽つた。下吏となつて長く膝を俗惡な大官の前に屈するよりは、詩家としての名を死後百年に遺さうとしたのである。しかし、文名は容易に揚らず、生活は日を逐うて苦しくなる。李徴は漸く焦躁に驅られて來た。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000119/card623.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/45/AtsushiNakajima.jpg/214px-AtsushiNakajima.jpg",
"summary": "『山月記』(さんげつき)は、中島敦の短編小説。1942年(昭和17年)に発表された中島のデビュー作である。唐代、詩人となる望みに敗れて虎になってしまった男・李徴が、自分の数奇な運命を友人の袁傪に語るという変身譚であり、清朝の説話集『唐人説薈』中の「人虎伝」(李景亮の作とされる)が素材になっている。『山月記』の題名は、虎に変わった李徴が吟じる詩の一節「此夕渓山対明月」から取られている。\n初出時は、他1篇「文字禍」と共に「古譚」の題名で総括され『文學界』1942年2月号に掲載された。文部科学省検定済教科書『国語』の題材にしばしば採用され、中島の作品中でも知名度が高い。野村萬斎によって舞台化された。\n\n"
},
{
"book_id": "57784",
"access": 491,
"title": "陽気な客",
"authors": [
"山本 周五郎"
],
"first_sentence": "——仲井天青が死んだのを知ってるかい。知らないって、あの呑ん兵衛の仲井天青だぜ、きみが知らない<sub alias=\"はず\">筈</sub>はないんだがなあ。\nこの<sub alias=\"はうた\">端歌</sub>を作ったのはきみじゃなかったかね、おれはそうとばかり思ってたがね。\n——なんだ、こんどはかすとりか、<sub alias=\"ビール\">麦酒</sub>は一本きりか。ちえっ、わりときみもたいしたことはないんだな周五郎、きみなんぞ景気がいいと思ってたんだが。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001869/card57784.html",
"authorImageUrl": "",
"summary": ""
},
{
"book_id": "52413",
"access": 490,
"title": "三国志",
"authors": [
"吉川 英治"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"りょふ\">呂布</sub>は、<sub alias=\"やぐら\">櫓</sub>に現れて、\n「われを呼ぶは何者か」と、わざと云った。\n<sub alias=\"しすい\">泗水</sub>の流れを隔てて、曹操の声は水にこだまして聞えてきた。\n「君を呼ぶ者は君の好き敵である<sub alias=\"きょと\">許都</sub>の<sub alias=\"じょうしょう\">丞相</sub>曹操だ。——しかし、君と我と、本来なんの仇があろう。予はただご辺が<sub alias=\"えんじゅつ\">袁術</sub>と婚姻を結ぶと聞いて、攻め下ってきたまでである。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001562/card52413.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d9/Eiji_Yoshikawa.jpg/228px-Eiji_Yoshikawa.jpg",
"summary": "『三国志』(さんごくし、連載中の原題:三國志)は、日本の大衆小説作家吉川英治による歴史小説。\n新聞連載小説として、戦時中の1939年から1943年までほぼ4年間連載され、戦後に単行本として刊行され、絶大な人気を博した。基本的なストーリーラインは中国の歴史小説『三国志演義』に従いつつも、特に人物描写は日本人向けに大胆にアレンジし、今日までの日本における三国志関連作品へ多大な影響を及ぼした。"
},
{
"book_id": "2282",
"access": 490,
"title": "津軽",
"authors": [
"太宰 治"
],
"first_sentence": "或るとしの春、私は、生れてはじめて本州北端、津軽半島を凡そ三週間ほどかかつて一周したのであるが、それは、私の三十幾年の生涯に於いて、かなり重要な事件の一つであつた。私は津軽に生れ、さうして二十年間、津軽に於いて育ちながら、金木、五所川原、青森、弘前、浅虫、大鰐、それだけの町を見ただけで、その他の町村に就いては少しも知るところが無かつたのである。\n金木は、私の生れた町である。津軽平野のほぼ中央に位し、人口五、六千の、これといふ特徴もないが、どこやら都会ふうにちよつと気取つた町である。善く言へば、水のやうに淡泊であり、悪く言へば、底の浅い見栄坊の町といふ事になつてゐるやうである。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/card2282.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/77/Osamu_Dazai.jpg/214px-Osamu_Dazai.jpg",
"summary": "津軽地方(つがるちほう)とは、現在の青森県西部を指して言う地域呼称。江戸時代に津軽氏が支配した領域(弘前藩・黒石藩の領域)および津軽郡の領域にほぼ相当する。\n明治維新で陸奥国(むつのくに)が分割されて設置された陸奥国(りくおうのくに。青森県全域と岩手県西北部)の異称「津軽国」とは異なる。"
},
{
"book_id": "46860",
"access": 486,
"title": "レ・ミゼラブル",
"authors": [
"豊島 与志雄"
],
"first_sentence": "一七八九年七月バスティーユ牢獄の破壊にその端緒を開いたフランス大革命は、有史以来人類のなした最も大きな歩みの一つであった。その<sub alias=\"きょうかん\">叫喊</sub>は生まれいずる者の<sub alias=\"うぶごえ\">産声</sub>であり、その恐怖は新しき太陽に対する<sub alias=\"げんわく\">眩惑</sub>であり、その血潮は新たに生まれいでた赤児の<sub alias=\"うぶゆ\">産湯</sub>であった。そしてその赤児を育つるに偉大なる保母がなければならなかった。一挙にして共和制をくつがえして帝国を建て、民衆の声に代うるに皇帝の命令をもってし、全ヨーロッパ大陸に威令したナポレオンは、実に自ら知らずしてかの赤児の保母であった、偉人の痛ましき運命の矛盾である。帝国の名のもとに赤児はおもむろに育って行った。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000906/card46860.html",
"authorImageUrl": "",
"summary": "『レ・ミゼラブル』(フランス語: Les Misérables)は、ヴィクトル・ユーゴーが1862年に執筆したロマン主義フランス文学の大河小説。\n\n"
},
{
"book_id": "277",
"access": 482,
"title": "駈込み訴え",
"authors": [
"太宰 治"
],
"first_sentence": "申し上げます。申し上げます。旦那さま。あの人は、<sub alias=\"ひど\">酷</sub>い。酷い。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/card277.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/77/Osamu_Dazai.jpg/214px-Osamu_Dazai.jpg",
"summary": "「駈込み訴へ」(かけこみうったえ、新かなでは「訴え」)は、太宰治の短編小説。"
},
{
"book_id": "52414",
"access": 481,
"title": "三国志",
"authors": [
"吉川 英治"
],
"first_sentence": "時刻ごとに見廻りにくる<sub alias=\"じゅんら\">巡邏</sub>の一隊であろう。\n明け方、まだ白い残月がある頃、いつものように府城、<sub alias=\"かんが\">官衙</sub>の辻々をめぐって、やがて大きな<sub alias=\"こうきょ\">溝渠</sub>に沿い、内院の前までかかってくると、ふいに巡邏のひとりが大声でいった。\n「ひどく早いなあ。もう内院の門が開いとるが」\nすると、ほかの一名がまた、\n「はて。今朝はまた、いやにくまなく<sub alias=\"ほうきめ\">箒目</sub>立てて、きれいに掃ききよめてあるじゃないか」\n「いぶかしいぞ」\n「なにが」\n「奥の中門も開いている。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001562/card52414.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d9/Eiji_Yoshikawa.jpg/228px-Eiji_Yoshikawa.jpg",
"summary": "『三国志』(さんごくし、連載中の原題:三國志)は、日本の大衆小説作家吉川英治による歴史小説。\n新聞連載小説として、戦時中の1939年から1943年までほぼ4年間連載され、戦後に単行本として刊行され、絶大な人気を博した。基本的なストーリーラインは中国の歴史小説『三国志演義』に従いつつも、特に人物描写は日本人向けに大胆にアレンジし、今日までの日本における三国志関連作品へ多大な影響を及ぼした。"
},
{
"book_id": "52415",
"access": 480,
"title": "三国志",
"authors": [
"吉川 英治"
],
"first_sentence": "十年語り合っても理解し得ない人と人もあるし、一<sub alias=\"せき\">夕</sub>の間に百年の<sub alias=\"ちき\">知己</sub>となる人と人もある。\n玄徳と孔明とは、お互いに、一見旧知のごとき情を抱いた。いわゆる意気相許したというものであろう。\n孔明は、やがて云った。\n「もし将軍が、おことばの如く、真に私のような者の愚論でもおとがめなく、聴いて下さると仰っしゃるなら、いささか<sub alias=\"しょうし\">小子</sub>にも所見がないわけでもありませんが……」\n「おお。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001562/card52415.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d9/Eiji_Yoshikawa.jpg/228px-Eiji_Yoshikawa.jpg",
"summary": "『三国志』(さんごくし、連載中の原題:三國志)は、日本の大衆小説作家吉川英治による歴史小説。\n新聞連載小説として、戦時中の1939年から1943年までほぼ4年間連載され、戦後に単行本として刊行され、絶大な人気を博した。基本的なストーリーラインは中国の歴史小説『三国志演義』に従いつつも、特に人物描写は日本人向けに大胆にアレンジし、今日までの日本における三国志関連作品へ多大な影響を及ぼした。"
},
{
"book_id": "52417",
"access": 477,
"title": "三国志",
"authors": [
"吉川 英治"
],
"first_sentence": "呉侯の妹、玄徳の夫人は、やがて呉の都へ帰った。\n孫権はすぐ妹に<sub alias=\"ただ\">質</sub>した。\n「周善はどうしたか」\n「途中、江の上で、張飛や趙雲に<sub alias=\"はば\">阻</sub>められ、斬殺されました」\n「なぜ、そなたは、<sub alias=\"あと\">阿斗</sub>を抱いてこなかったのだ」\n「その阿斗も、<sub alias=\"と\">奪</sub>り上げられてしまったのです……それよりは、母君のご病気はどうなんです。すぐ母君へ会わせて下さい」\n「会うがよい、母公の<sub alias=\"こうきゅう\">後宮</sub>へ行って」\n「ではまだ……ご容体は」\n「至極、お達者だ」\n「えっ。お達者ですって」\n「女は女同士で語れ」\nいぶかる妹を、<sub alias=\"にべ\">膠</sub>もなく後宮へ追い立て、孫権はすぐ政閣へ歩を移して、群臣に宣言した。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001562/card52417.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d9/Eiji_Yoshikawa.jpg/228px-Eiji_Yoshikawa.jpg",
"summary": "『三国志』(さんごくし、連載中の原題:三國志)は、日本の大衆小説作家吉川英治による歴史小説。\n新聞連載小説として、戦時中の1939年から1943年までほぼ4年間連載され、戦後に単行本として刊行され、絶大な人気を博した。基本的なストーリーラインは中国の歴史小説『三国志演義』に従いつつも、特に人物描写は日本人向けに大胆にアレンジし、今日までの日本における三国志関連作品へ多大な影響を及ぼした。"
},
{
"book_id": "59848",
"access": 475,
"title": "ホレおばあさん",
"authors": [
"グリム ヴィルヘルム・カール",
"グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール"
],
"first_sentence": "ある<sub alias=\"ごけ\">後家</sub>さんに、ふたりのむすめがありました。そのうちのひとりははたらきもので、美しい子でしたが、もうひとりはみにくいうえに、たいへんななまけものでした。\nけれども、<sub alias=\"ごけ\">後家</sub>さんはこのみにくいなまけもののほうの子をずっとかわいがっていました。だって、この子はじぶんのほんとうのむすめなんですからね。もうひとりの女の子のほうは、うちじゅうのしごとをなにからなにまでやって、年がら年じゅう、<sub alias=\"はい\">灰</sub>だらけになっていなければなりませんでした。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001092/card59848.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/ff/Grimm.jpg/278px-Grimm.jpg",
"summary": ""
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{
"book_id": "1058",
"access": 475,
"title": "『春と修羅』",
"authors": [
"宮沢 賢治"
],
"first_sentence": "春と修羅\nわたくしといふ現象は\n仮定された有機交流電燈の\nひとつの青い照明です\n(あらゆる透明な幽霊の複合体)\n風景やみんなといつしよに\nせはしくせはしく明滅しながら\nいかにもたしかにともりつづける\n因果交流電燈の\nひとつの青い照明です\n",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/card1058.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/4d/Miyazawa_Kenji.jpg/225px-Miyazawa_Kenji.jpg",
"summary": "『春と修羅』(はるとしゅら)は、宮沢賢治の制作した口語詩。また、同作品を収録した詩集のタイトルでもある。賢治の生前に唯一刊行された詩集として知られる。賢治はそれに続いて制作した作品にも同じタイトルを付けて詩集として続刊することを企図していた。(それぞれ『春と修羅 第二集』『春と修羅 第三集』)ここではそれらも含めて記載する。"
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{
"book_id": "43015",
"access": 471,
"title": "杜子春",
"authors": [
"芥川 竜之介"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"ある\">或</sub>春の日暮です。\n<sub alias=\"とう\">唐</sub>の都<sub alias=\"らくよう\">洛陽</sub>の西の門の下に、ぼんやり空を仰いでいる、一人の若者がありました。\n若者は名を杜子春といって、元は金持の息子でしたが、今は財産を<sub alias=\"つか\">費</sub>い尽して、その日の暮しにも困る位、<sub alias=\"あわれ\">憐</sub>な身分になっているのです。\n何しろその頃洛陽といえば、天下に並ぶもののない、<sub alias=\"はんじょう\">繁昌</sub>を<sub alias=\"きわ\">極</sub>めた都ですから、往来にはまだしっきりなく、人や車が通っていました。門一ぱいに当っている、油のような夕日の光の中に、老人のかぶった<sub alias=\"しゃ\">紗</sub>の帽子や、<sub alias=\"トルコ\">土耳古</sub>の女の金の<sub alias=\"みみわ\">耳環</sub>や、<sub alias=\"しろうま\">白馬</sub>に飾った色糸の<sub alias=\"たづな\">手綱</sub>が、絶えず流れて行く<sub alias=\"ようす\">容子</sub>は、まるで画のような美しさです。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/34/Akutagawa.ryunosuke.jpg/320px-Akutagawa.ryunosuke.jpg",
"summary": "『杜子春』(とししゅん)は、1920年(大正9年)に雑誌『赤い鳥』にて発表された芥川龍之介の短編小説。\n李復言編の『続玄怪録(中国語版)』及び 牛僧孺編の『玄怪録(中国語版)』双方に収録されたとされる伝奇小説『杜子春(中国語版)』を童話化したものである。芥川龍之介は、1927年2月3日付河西信三宛書簡 に「唐の小説杜子春傳の主人公を用ひをり候へども、話は 2/3 以上創作に有之候」と書いており、また彼の蔵書に鄭還古 撰『杜子春傳』があったらしい。\n本項では、同作品を原作とするテレビアニメについても記述する。"
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"book_id": "59422",
"access": 470,
"title": "登山は冒険なり",
"authors": [
"河東 碧梧桐"
],
"first_sentence": "役小角とか、行基菩薩などいう時代の、今から一千有余年の昔のことはともかく、近々三十年前位までは、大体に登山ということは、一種の冒険を意味していた。完全なテントがあるわけでなく、天気予報が聞けるでもなく、案内者という者も、土地の百姓か猟師の片手間に過ぎなかった。\nで、登山の興味は、やれ気宇を豁大するとか、塵気を一掃するとか、いろいろ理屈を並べるものの、その実、誰もが恐がって果し得ない冒険を遂行する好奇心が主題であった。<sub alias=\"いわん\">況</sub>や、金銭に恵まれない当時の書生生活では、無理とは知りつつ、二重三重に冒険味を加える登山プランしか立て得なかった。\n天佑と我が健康な脚力を頼みにして。",
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"authorImageUrl": "",
"summary": ""
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{
"book_id": "52416",
"access": 468,
"title": "三国志",
"authors": [
"吉川 英治"
],
"first_sentence": "「この大機会を逸してどうしましょうぞ」\nという<sub alias=\"ろしゅく\">魯粛</sub>の<sub alias=\"いさ\">諫</sub>めに励まされて、<sub alias=\"しゅうゆ\">周瑜</sub>もにわかにふるい起ち、\n「まず、<sub alias=\"かんねい\">甘寧</sub>を呼べ」と令し、営中の参謀部は、俄然、活気を呈した。\n「甘寧にござりますが」\n「おお、来たか」\n「いよいよ敵へお<sub alias=\"かか\">蒐</sub>りになりますか」\n「然り。——汝に命ずる」\n周瑜は厳かに、軍令をさずけた。\n「かねての計画に従って、まず、味方の内へまぎれこんでいる<sub alias=\"さいちゅう\">蔡仲</sub>、<sub alias=\"さいか\">蔡和</sub>のふたりを<sub alias=\"おとり\">囮</sub>とし、これを逆用して、敵の大勢をくつがえすこと。……その辺はぬかりなく心得ておろうな」\n「心得ておりまする」\n「汝はまず、その一名の蔡仲を案内者として、曹操に降参すと<sub alias=\"とな\">称</sub>え、船を敵の北岸へ寄せて、<sub alias=\"うりん\">烏林</sub>へ<sub alias=\"あが\">上陸</sub>れ。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d9/Eiji_Yoshikawa.jpg/228px-Eiji_Yoshikawa.jpg",
"summary": "『三国志』(さんごくし、連載中の原題:三國志)は、日本の大衆小説作家吉川英治による歴史小説。\n新聞連載小説として、戦時中の1939年から1943年までほぼ4年間連載され、戦後に単行本として刊行され、絶大な人気を博した。基本的なストーリーラインは中国の歴史小説『三国志演義』に従いつつも、特に人物描写は日本人向けに大胆にアレンジし、今日までの日本における三国志関連作品へ多大な影響を及ぼした。"
},
{
"book_id": "4673",
"access": 462,
"title": "ガリバー旅行記",
"authors": [
"スウィフト ジョナサン"
],
"first_sentence": "私はいろ/\不思議な国を旅行して、さま/″\の珍しいことを見てきた者です。名前はレミュエル・ガリバーと申します。\n子供のときから、船に乗って外国へ行ってみたいと思っていたので、航海術や、数学や、医学などを勉強しました。外国語の勉強も、私は大へん得意でした。\n一六九九年の五月、私は『かもしか号』に乗って、イギリスの港から出帆しました。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/4b/Jonathan_Swift_by_Charles_Jervas_detail.jpg/285px-Jonathan_Swift_by_Charles_Jervas_detail.jpg",
"summary": "『ガリヴァー旅行記』(ガリヴァーりょこうき、英: Gulliver's Travels)は、アイルランドの風刺作家ジョナサン・スウィフトにより、仮名で執筆された風刺小説である。原版の内容が大衆の怒りを買うことを恐れた出版社により、大きな改変を加えられた初版が1726年に出版され、1735年に完全な版が出版された。正式な題名は、『船医から始まり後に複数の船の船長となったレミュエル・ガリヴァーによる、世界の諸僻地への旅行記四篇』 (\"Travels into Several Remote Nations of the World, in Four Parts. By Lemuel Gulliver, First a Surgeon, and then a Captain of Several Ships\")である。\n本書は出版後間もなく非常な人気を博し、それ以来現在に至るまで版を重ね続けている。イングランドの詩人ジョン・ゲイは1726年にスウィフトに宛てた手紙の中で、「内閣評議会から子供部屋に至るまで、この本はあらゆる場所で読まれている」と述べている。"
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{
"book_id": "51299",
"access": 458,
"title": "桜もち",
"authors": [
"伊庭 心猿"
],
"first_sentence": "一友に誘はれて久しぶりに向島を散歩したのは、まだ花には少しはやい三月なかばのことであつた。震災と戰災で昔の面影をきれいに失つたが、それでもわれわれ明治の子にとつて、墨東は忘れがたい地である。あの道この横丁には、まだまだ幼時の記憶をよびさますものが少くない。\n枕橋畔の料亭八百善、牛島神社の舊社地、弘福寺裏の富田木歩の家、淡島寒月の梵雲庵、饗庭篁村の家、幸田露伴の蝸牛庵、百花園の御成屋敷。 それらは地上から永遠に消え去つたが、竹屋の渡しのあたりの常夜燈や夥しい社寺の碑碣など、いまだにもとの場所に殘存してゐる。",
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"summary": "桜餅(さくらもち)は、桜にちなんだ和菓子であり、桜の葉で餅菓子を包んだもの。雛菓子の一つでもあり、春の季語である。"
},
{
"book_id": "52419",
"access": 455,
"title": "三国志",
"authors": [
"吉川 英治"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"しょく\">蜀</sub>の大軍は、<sub alias=\"べんよう\"><img src=\"http://www.aozora.gr.jp/cards/../gaiji/2-78/2-78-28.png\" alt=\"※(「さんずい+眄のつくり」、第4水準2-78-28)\" class=\"gaiji\" />陽</sub>(<sub alias=\"せんせいしょう\">陝西省</sub>・<sub alias=\"べんけん\"><img src=\"http://www.aozora.gr.jp/cards/../gaiji/2-78/2-78-28.png\" alt=\"※(「さんずい+眄のつくり」、第4水準2-78-28)\" class=\"gaiji\" />県</sub>、<sub alias=\"かんちゅう\">漢中</sub>の西)まで進んで出た。ここまで来た時、\n「<sub alias=\"ぎ\">魏</sub>は関西の精兵を以て、長安(陝西省・西安)に布陣し、大本営をそこにおいた」\nという情報が的確になった。\nいわゆる天下の嶮、<sub alias=\"しょく\">蜀</sub>の<sub alias=\"さんどう\">桟道</sub>をこえて、ここまで出てくるだけでも、軍馬は一応疲れる。孔明は、<img src=\"http://www.aozora.gr.jp/cards/../gaiji/2-78/2-78-28.png\" alt=\"※(「さんずい+眄のつくり」、第4水準2-78-28)\" class=\"gaiji\" />陽に着くと、\n「ここには、亡き<sub alias=\"ばちょう\">馬超</sub>の<sub alias=\"つか\">墳</sub>がある。いまわが蜀軍の<sub alias=\"ほくばつ\">北伐</sub>に遭うて、地下白骨の自己を嘆じ、なつかしくも思っているだろう。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001562/card52419.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d9/Eiji_Yoshikawa.jpg/228px-Eiji_Yoshikawa.jpg",
"summary": "『三国志』(さんごくし、連載中の原題:三國志)は、日本の大衆小説作家吉川英治による歴史小説。\n新聞連載小説として、戦時中の1939年から1943年までほぼ4年間連載され、戦後に単行本として刊行され、絶大な人気を博した。基本的なストーリーラインは中国の歴史小説『三国志演義』に従いつつも、特に人物描写は日本人向けに大胆にアレンジし、今日までの日本における三国志関連作品へ多大な影響を及ぼした。"
},
{
"book_id": "60411",
"access": 455,
"title": "死の土壌",
"authors": [
"ホワイト フレッド・M"
],
"first_sentence": "二〇世紀疾病物語\n玄関のベルがせわしくリンリンと鳴った。明らかに急患だ。ヒューバート医師が直々に、高名な医者がすることでもなかろうに、出迎えた時刻はなんと真夜中。背の高い上品なご婦人が夜会服に身を包み、玄関に転がり込んだ。髪のダイアモンドがキラキラ揺れ、顔が恐怖にひきつっている。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/002043/card60411.html",
"authorImageUrl": "",
"summary": ""
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{
"book_id": "42773",
"access": 455,
"title": "ロミオとヂュリエット",
"authors": [
"シェークスピア ウィリアム"
],
"first_sentence": "ロミオとヂュリエット\nロミオとヂュリエット (完)\n",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000264/card42773.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/3c/CHANDOS3.jpg/249px-CHANDOS3.jpg",
"summary": "『ロミオとジュリエット』(または『ロメオとジュリエット』、Romeo and Juliet )は、イングランドの劇作家ウィリアム・シェイクスピアによる戯曲。初演年度については諸説あるが、おおむね1595年前後と言われている。"
},
{
"book_id": "605",
"access": 449,
"title": "モルグ街の殺人事件",
"authors": [
"ポー エドガー・アラン"
],
"first_sentence": "分析的なものとして論じられている精神の諸作用は、実は、ほとんど分析を許さぬものなのである。ただ結果から見て、それらを感知するにすぎない。そのなかでもわかっていることは、精神の諸作用を過分に身につけている人にとっては、これこそなによりも生き生きとした楽しみの源泉である、ということだ。ちょうど、強健な人が筋肉を働かせる運動を喜んで自分の肉体的能力を誇るのと同じように、分析家はものごとを解き明かす知的活動に熱中する。彼は、この才能を発揮できることなら、どんなつまらない仕事でも楽しんでやるのだ。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000094/card605.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/2/27/Edgar_Allan_Poe_2.jpg/255px-Edgar_Allan_Poe_2.jpg",
"summary": "「モルグ街の殺人」(モルグがいのさつじん、The Murders in the Rue Morgue)は、1841年に発表されたエドガー・アラン・ポーの短編推理小説。ポー自身が編集主筆を務めていた『グレアムズ・マガジン』4月号に掲載された。史上初の推理小説とされており、天才的な探偵と平凡な語り手、結末近くでの推理の披露、意外な犯人像など、以後連綿と続く推理小説のジャンルにおける原型を作り出した。密室殺人を扱った最初の推理小説とも言われている。\n本作の素人探偵C・オーギュスト・デュパンは、半世紀後に出現するシャーロック・ホームズの原型となった探偵であり、デュパンが登場する続編として「マリー・ロジェの謎」(1842年-1843年)、「盗まれた手紙」(1845年)がある。"
},
{
"book_id": "56649",
"access": 449,
"title": "屋根裏の散歩者",
"authors": [
"江戸川 乱歩"
],
"first_sentence": "多分それは一種の精神病ででもあったのでしょう。<sub alias=\"ごうださぶろう\">郷田三郎</sub>は、どんな遊びも、どんな職業も、何をやって見ても、一向この世が面白くないのでした。\n学校を出てから——その学校とても一年に何日と勘定の出来る程しか出席しなかったのですが——彼に出来<sub alias=\"そう\">相</sub>な職業は、<sub alias=\"かたっぱし\">片端</sub>からやって見たのです、けれど、これこそ一生を捧げるに足ると思う様なものには、まだ一つも<sub alias=\"でっ\">出</sub>くわさないのです。恐らく、彼を満足させる職業などは、この世に存在しないのかも知れません。長くて一年、短いのは一月位で、彼は職業から職業へと転々しました。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001779/card56649.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/33/Rampo_Edogawa_02.jpg/250px-Rampo_Edogawa_02.jpg",
"summary": "『屋根裏の散歩者』(やねうらのさんぽしゃ)は、江戸川乱歩の短編小説。"
},
{
"book_id": "42621",
"access": 447,
"title": "白痴",
"authors": [
"坂口 安吾"
],
"first_sentence": "その家には人間と豚と犬と鶏と<sub alias=\"あひる\">家鴨</sub>が住んでいたが、まったく、住む建物も各々の食物も<sub alias=\"ほとん\">殆</sub>ど変っていやしない。物置のようなひん曲った建物があって、階下には主人夫婦、天井裏には母と娘が間借りしていて、この娘は相手の分らぬ子供を<sub alias=\"はら\">孕</sub>んでいる。\n伊沢の借りている一室は母屋から分離した小屋で、ここは昔この家の肺病の息子がねていたそうだが、肺病の豚にも贅沢すぎる小屋ではない。それでも押入と便所と戸棚がついていた。\n主人夫婦は仕立屋で町内のお針の先生などもやり(それ故肺病の息子を別の小屋へ入れたのだ)町会の役員などもやっている。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/16/Ango_Sakaguchi_%28cropped%29.jpg/240px-Ango_Sakaguchi_%28cropped%29.jpg",
"summary": "『白痴』(はくち)は坂口安吾の短編小説。坂口の代表作の一つで、『堕落論』から『白痴』を発表するに及び、太宰治、石川淳、織田作之助らと共に、終戦後の新時代の旗手として一躍脚光を浴びて、文壇に特異な地歩を占めた。\n敗戦間近の場末の荒んだ人々の暮す裏町の小屋に居る独身の映画演出家の男が、隣家の白痴の女と奇妙な関係を持つ物語。時世に屈する低俗卑劣さを憎んでいた男が、肉欲の塊のような女の中に、魂の真実を求めようとする孤独な姿が、降り注ぐ焼夷弾や夜間空襲の中を逃げ惑う二人の「理知なき交流」を通して描かれている。\n1999年(平成11年)には、『白痴』を原案とした同名映画『白痴』が公開された。"
},
{
"book_id": "43847",
"access": 447,
"title": "花問答",
"authors": [
"岸田 国士"
],
"first_sentence": "父は旅行、母は買物、兄は散歩といふわけで、珍しく<sub alias=\"たみこ\">民子</sub>一人が、縁側で日向ぼつこをしてゐるところへ、取次も乞はず、義一がのつそり庭伝ひにはひつて来た。\n「あら、だあれも出なかつた?」\n「呼んでもみなかつた。」\n「物騒ね。」\n「ねらつてゐる奴がゐるからな。」\nさう云つて、<sub alias=\"あづま\">東</sub><sub alias=\"ぎ\">義</sub>一は、民子の顔をじろ/\見直した。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/6/68/Kishida_Kunio_19500304.JPG/233px-Kishida_Kunio_19500304.JPG",
"summary": ""
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{
"book_id": "55046",
"access": 441,
"title": "芸術的な書と非芸術的な書",
"authors": [
"北大路 魯山人"
],
"first_sentence": "いかなる書を芸術といい、いかなる書を非芸術というか。\n少しばかり日頃の一家言といったようなものをお話させていただきます。\n今日は私の考えとして文字というものも当然芸術だと思っておるのであります。それについて少し話してみたいと思います。\nいわゆる能書というのはよい美を具備しているがゆえに、生命をもって光っているものであります。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/08/Rosanjin_Kita%C5%8Dji_1954.jpg/223px-Rosanjin_Kita%C5%8Dji_1954.jpg",
"summary": ""
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{
"book_id": "16",
"access": 440,
"title": "秋",
"authors": [
"芥川 竜之介"
],
"first_sentence": "一\n信子は女子大学にゐた時から、<sub alias=\"さいゑん\">才媛</sub>の名声を<sub alias=\"にな\">担</sub>つてゐた。彼女が早晩作家として文壇に打つて出る事は、<sub alias=\"ほとんど\">殆</sub>誰も疑はなかつた。中には彼女が在学中、既に三百何枚かの自叙伝体小説を書き上げたなどと<sub alias=\"ふいちやう\">吹聴</sub>して歩くものもあつた。が、学校を卒業して見ると、まだ女学校も出てゐない妹の照子と彼女とを抱へて、<sub alias=\"ごけ\">後家</sub>を立て通して来た母の手前も、さうは<sub alias=\"わがまま\">我儘</sub>を云はれない、複雑な事情もないではなかつた。そこで彼女は創作を始める前に、まづ世間の習慣通り、縁談からきめてかかるべく余儀なくされた。",
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"summary": "秋(あき)は、四季の1つであり夏の後、冬の前に位置する。\n北半球ではグレゴリオ暦の1年の後半、南半球では1年の前半に秋がある。夏時間実施国では夏時間が終了し、時計の針を1時間戻すこととなる。\n中緯度の温帯地方では広葉樹が葉を落とし、草が枯れるなど冬へと向かう季節である。稲などの穀物や果物が実る時期であり、成熟などを意味する。\nこのような日は10月を中心に前後の毎年9月から翌年11月頃にかけて発生するから(ただし、年や地域によっては、8月・12月でも生じる場合もある)、この時期のあたりが秋の範囲に入る。"
},
{
"book_id": "307",
"access": 438,
"title": "お伽草紙",
"authors": [
"太宰 治"
],
"first_sentence": "「あ、鳴つた。」\nと言つて、父はペンを置いて立ち上る。警報くらゐでは立ち上らぬのだが、高射砲が鳴り出すと、仕事をやめて、五歳の女の子に防空頭巾をかぶせ、これを抱きかかへて防空壕にはひる。既に、母は二歳の男の子を背負つて壕の奥にうずくまつてゐる。\n「近いやうだね。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/77/Osamu_Dazai.jpg/214px-Osamu_Dazai.jpg",
"summary": "『お伽草紙』(おとぎぞうし)は、太宰治の短編小説集。「瘤取り」「浦島さん」「カチカチ山」「舌切雀」の4編を収める。\n1945年(昭和20年)10月25日、筑摩書房より刊行された。初版発行部数は7,500部、定価は3円30銭だった。"
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{
"book_id": "52418",
"access": 434,
"title": "三国志",
"authors": [
"吉川 英治"
],
"first_sentence": "まだ敵味方とも気づかないらしいが、<sub alias=\"はんじょう\">樊城</sub>の完全占領も時の問題とされている一歩手前で、関羽軍の内部には、微妙な変化が起っていたのである。\n<sub alias=\"ぎ\">魏</sub>の本国から急援として派した七軍を粉砕し、一方、樊城城下に迫ってその余命を全く制しながら、あともう一押しという間際へきて、何となく、それまでの関羽軍らしい破竹の如き勢いも出足が<sub alias=\"にぶ\">鈍</sub>ったような観がある。\nこの理由を知っているのは、関平そのほか、ごく少数の幕僚だけだった。\n今も、その関平や<sub alias=\"おうほ\">王甫</sub>などの諸将が、<sub alias=\"ひたい\">額</sub>をあつめて、\n「……何にしても、全軍の死命に<sub alias=\"かか\">関</sub>わること、なおざりには致しておけぬ」\n「一時の無念は忍んでも、ひとたび軍を荊州へかえし、万全を期して、出直すことがよいと考えられるが」\n「……どうも困ったことではある」\n沈痛にささやき交わしていた。\nところへ一名の参謀があわただしく営の奥房から走ってきて、\n「羽大将軍のお下知である。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d9/Eiji_Yoshikawa.jpg/228px-Eiji_Yoshikawa.jpg",
"summary": "『三国志』(さんごくし、連載中の原題:三國志)は、日本の大衆小説作家吉川英治による歴史小説。\n新聞連載小説として、戦時中の1939年から1943年までほぼ4年間連載され、戦後に単行本として刊行され、絶大な人気を博した。基本的なストーリーラインは中国の歴史小説『三国志演義』に従いつつも、特に人物描写は日本人向けに大胆にアレンジし、今日までの日本における三国志関連作品へ多大な影響を及ぼした。"
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{
"book_id": "58328",
"access": 432,
"title": "日日の麺麭",
"authors": [
"小山 清"
],
"first_sentence": "末吉は屋台のおでん屋である。ことし四十五になる。大柄で躯つきもがっしりしている。生れつき丈夫な方で、これまであまり病気などしたことはない。しんが丈夫なのであろう。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001867/card58328.html",
"authorImageUrl": "",
"summary": ""
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{
"book_id": "695",
"access": 431,
"title": "ヰタ・セクスアリス",
"authors": [
"森 鴎外"
],
"first_sentence": "金井<sub alias=\"しずか\">湛</sub>君は哲学が職業である。\n哲学者という概念には、何か書物を書いているということが伴う。金井君は哲学が職業である癖に、なんにも書物を書いていない。文科大学を卒業するときには、<sub alias=\"げどう\">外道</sub>哲学と Sokrates 前の<sub alias=\"ギリシャ\">希臘</sub>哲学との比較的研究とかいう題で、余程へんなものを書いたそうだ。それからというものは、なんにも書かない。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000129/card695.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/71/Mori_Ogai_in_the_atelier_of_Sculptor_Takeishi_Kozaburo_in_1916.jpg/207px-Mori_Ogai_in_the_atelier_of_Sculptor_Takeishi_Kozaburo_in_1916.jpg",
"summary": "『ヰタ・セクスアリス』(ウィタ・セクスアリス)は森鴎外の小説である。1909年(明治42年)に発表された。題名はラテン語で性欲的生活を意味するvita sexualisから。\n文芸誌「スバル」7号に掲載された当初は政府から卑猥な小説だと考えられ発禁処分を受けてしまうが、実際には性行為が直接描写されていることは無く、主人公の哲学者・金井湛(かねい・しずか)が、自らの性的体験について哲学的視点から考える内容となっている。"
},
{
"book_id": "57813",
"access": 420,
"title": "日本婦道記",
"authors": [
"山本 周五郎"
],
"first_sentence": "妹たちが来たとき<sub alias=\"やよい\">弥生</sub>はちょうど独りだった。<sub alias=\"おっと\">良人</sub>の<sub alias=\"さんえもん\">三右衛門</sub>はまだお城から下らないし、与一郎も稽古所から帰っていなかった。二人を自分の部屋へみちびいた弥生は縫いかけていた物を片つけ、縁側に面した障子をあけた。妹たちがきっと庭を見るだろうと思ったので、けれども妹たちはなにやら浮き浮きしていて、姉のこころづかいなとまるで眼にいらぬようすだった。\n「きょうはお姉さまにご謀反をおすすめしにまいりました」\nそう云いながら部屋へはいって来た小松は、そのままつかつかと西側の小窓のそばへゆき、明り障子をあけて、\n「そらわたくしの勝ですよ」\nとうしろから来る<sub alias=\"つる\">津留</sub>にふり返った、\n「このとおり風鈴はちゃんと<sub alias=\"ここ\">此処</sub>にかかってございます」\n「まあほんとうね、<sub alias=\"あき\">呆</sub>れたこと」\n津留は中の姉の背へかぶさるようにした、\n「わたくしもうとうに無いものとばかり思っていました、それではなにもかも元の<sub alias=\"まま\">儘</sub>ですのね」\n「なにを感心しておいでなの」\n弥生は二人の席を設けながら<sub alias=\"き\">訊</sub>いた、\n「その風鈴がどうしたんですか」\n「津留さんと<sub alias=\"か\">賭</sub>けをしたんですの、風鈴がまだ此処に<sub alias=\"つ\">吊</sub>ってあるかどうかって」\n「おかげでわたくし青貝の<sub alias=\"くし\">櫛</sub>を一枚そん致しました」\nくやしいことと云いながら、津留はつと手を伸ばし、<sub alias=\"ひさし\">廂</sub>に吊ってある青銅の古雅な風鈴をはずして、そのまま<sub alias=\"まどがまち\">窓框</sub>に腰をかけた。",
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"summary": ""
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{
"book_id": "1746",
"access": 420,
"title": "それから",
"authors": [
"夏目 漱石"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"だれ\">誰</sub>か<sub alias=\"あは\">慌</sub>たゞしく<sub alias=\"もんぜん\">門前</sub>を<sub alias=\"か\">馳</sub>けて行く<sub alias=\"あしおと\">足音</sub>がした時、<sub alias=\"だいすけ\">代助</sub>の<sub alias=\"あたま\">頭</sub>の<sub alias=\"なか\">中</sub>には、大きな<sub alias=\"まないたげた\">俎下駄</sub>が<sub alias=\"くう\">空</sub>から、ぶら<sub alias=\"さが\">下</sub>つてゐた。けれども、その<sub alias=\"まないた\">俎</sub>下駄は、<sub alias=\"あしおと\">足音</sub>の<sub alias=\"とほの\">遠退</sub>くに従つて、すうと<sub alias=\"あたま\">頭</sub>から<sub alias=\"ぬ\">抜</sub>け<sub alias=\"だ\">出</sub>して消えて仕舞つた。さうして<sub alias=\"め\">眼</sub>が覚めた。\n<sub alias=\"まくらもと\">枕元</sub>を見ると、八重の<sub alias=\"つばき\">椿</sub>が<sub alias=\"いちりん\">一輪</sub><sub alias=\"たゝみ\">畳</sub>の上に落ちてゐる。<sub alias=\"だいすけ\">代助</sub>は<sub alias=\"ゆふべ\">昨夕</sub><sub alias=\"とこ\">床</sub>の<sub alias=\"なか\">中</sub>で慥かに此花の落ちる<sub alias=\"おと\">音</sub>を聞いた。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/17/Natsume_Soseki_photo.jpg/234px-Natsume_Soseki_photo.jpg",
"summary": "『それから』は、夏目漱石の小説。1909年6月27日より10月14日まで、東京朝日新聞・大阪朝日新聞に連載。翌年1月に春陽堂より刊行。『三四郎』(1908年)・『それから』(1909年)・『門』(1910年)によって前期三部作をなす。\n定職に就かず、毎月1回、本家にもらいに行く金で裕福な生活を送る長井代助が、友人平岡常次郎の妻である三千代とともに生きる決意をするまでを描く。\n作中世界は1909年であり、東京高等商業紛争、『それから』の連載に先立つ『煤煙』の連載、日糖事件などの作品外の事象への言及がある。\n1985年に森田芳光監督、松田優作主演で映画化されている。\n2017年にCLIEにより、平野良主演で舞台化。"
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{
"book_id": "56537",
"access": 418,
"title": "沈黙",
"authors": [
"ポー エドガー・アラン"
],
"first_sentence": "「おれの言うことを聴け」と鬼神はその手を予の頭にかけて言った。「おれの話すのはザイーレ河のほとり、リビアの荒涼たる地域のことだ。そこには平穏もなければ、沈黙もない。\n河の水はサフラン色の病んだ色をしている。そして海の方へ流れずに、永久に永久に太陽の赤い眼の下で騒々しく<sub alias=\"けいれん\">痙攣</sub>するように波うっている。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/2/27/Edgar_Allan_Poe_2.jpg/255px-Edgar_Allan_Poe_2.jpg",
"summary": "none"
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{
"book_id": "52420",
"access": 415,
"title": "三国志",
"authors": [
"吉川 英治"
],
"first_sentence": "三国<sub alias=\"ていりつ\">鼎立</sub>の大勢は、ときの治乱が起した大陸分権の自然な風雲作用でもあったが、その創意はもともと<sub alias=\"しょかつこうめい\">諸葛孔明</sub>という一人物の胸底から生れ出たものであることは何としても<sub alias=\"いな\">否</sub>みがたい。まだ二十七歳でしかなかった青年孔明が、農耕の余閑、<sub alias=\"そうろ\">草廬</sub>に抱いていた理想の実現であったのである。時に、三<sub alias=\"こ\">顧</sub>して迎えた<sub alias=\"りゅうげんとく\">劉玄徳</sub>の<sub alias=\"しょうい\">奨意</sub>にこたえ、いよいよ<sub alias=\"ろ\">廬</sub>を出て起たんと誓うに際して、\n「これを以てあなたの大方針となすべきでしょう。これ以外に漢朝復興の<sub alias=\"きし\">旗幟</sub>を以て<sub alias=\"ちゅうげん\">中原</sub>に臨む道はありますまい」\nと、説いたものが実にその<sub alias=\"ほっそく\">発足</sub>であったわけだ。\nそして遂に、その理想は実現を見、玄徳は<sub alias=\"せいしょく\">西蜀</sub>に位置し、<sub alias=\"ほくぎ\">北魁</sub>の<sub alias=\"そうそう\">曹操</sub>、<sub alias=\"とうご\">東呉</sub>の<sub alias=\"そんけん\">孫権</sub>と、いわゆる三<sub alias=\"ぶん\">分</sub><sub alias=\"ていりつ\">鼎立</sub>の一時代を画するに至ったが、もとよりこれが孔明の究極の目的ではない。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d9/Eiji_Yoshikawa.jpg/228px-Eiji_Yoshikawa.jpg",
"summary": "『三国志』(さんごくし、連載中の原題:三國志)は、日本の大衆小説作家吉川英治による歴史小説。\n新聞連載小説として、戦時中の1939年から1943年までほぼ4年間連載され、戦後に単行本として刊行され、絶大な人気を博した。基本的なストーリーラインは中国の歴史小説『三国志演義』に従いつつも、特に人物描写は日本人向けに大胆にアレンジし、今日までの日本における三国志関連作品へ多大な影響を及ぼした。"
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{
"book_id": "57624",
"access": 414,
"title": "さぶ",
"authors": [
"山本 周五郎"
],
"first_sentence": "小雨が<sub alias=\"もや\">靄</sub>のようにけぶる夕方、両国橋を西から東へ、さぶが泣きながら渡っていた。\n<sub alias=\"ふたこじま\">双子縞</sub>の着物に、<sub alias=\"こくら\">小倉</sub>の細い角帯、色の<sub alias=\"あ\">褪</sub>せた黒の前掛をしめ、頭から濡れていた。雨と涙とでぐしょぐしょになった顔を、ときどき手の甲でこするため、眼のまわりや頬が黒く<sub alias=\"まだら\">斑</sub>になっている。ずんぐりした<sub alias=\"からだ\">躯</sub>つきに、顔もまるく、頭が<sub alias=\"とが\">尖</sub>っていた。——彼が橋を渡りきったとき、うしろから栄二が追って来た。",
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"summary": "『さぶ』は山本周五郎の時代小説。1963年1月から1963年7月まで「週刊朝日」に連載され、1963年8月に新潮社ポケット・ライブラリから刊行された。江戸下町の表具店に働く2人の青年の友情を描く。現在は新潮文庫に収録され、ロングセラーとなっている。\n舞台化され、前進座や松竹の舞台で上演されている。また、テレビドラマ化もされた。"
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{
"book_id": "47148",
"access": 413,
"title": "『吾輩は猫である』上篇自序",
"authors": [
"夏目 漱石"
],
"first_sentence": "「吾輩は猫である」は雑誌ホトトギスに連載した続き物である。<sub alias=\"もと\">固</sub>より<sub alias=\"まとま\">纏</sub>った話の筋を読ませる普通の小説ではないから、どこで切って一冊としても興味の上に<sub alias=\"おい\">於</sub>て<sub alias=\"さ\">左</sub>したる影響のあろう<sub alias=\"はず\">筈</sub>がない。<sub alias=\"しか\">然</sub>し自分の考ではもう少し書いた上でと思って居たが、<sub alias=\"しょし\">書肆</sub>が<sub alias=\"しき\">頻</sub>りに催促をするのと、多忙で意の<sub alias=\"ごと\">如</sub>く稿を<sub alias=\"つ\">続</sub>ぐ余暇がないので、差し当り<sub alias=\"これだけ\">是丈</sub>を出版する事にした。\n自分が既に雑誌へ出したものを再び単行本の体裁として公にする以上は、<sub alias=\"これ\">之</sub>を公にする<sub alias=\"だけ\">丈</sub>の価値があると云う意味に解釈されるかも知れぬ。「吾輩は猫である」が果してそれ丈の価値があるかないかは著者の分として言うべき限りでないと思う。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/17/Natsume_Soseki_photo.jpg/234px-Natsume_Soseki_photo.jpg",
"summary": ""
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{
"book_id": "57673",
"access": 412,
"title": "契りきぬ",
"authors": [
"山本 周五郎"
],
"first_sentence": "小雨が<sub alias=\"もや\">靄</sub>のようにけぶる夕方、両国橋を西から東へ、さぶが泣きながら渡っていた。\n<sub alias=\"ふたこじま\">双子縞</sub>の着物に、<sub alias=\"こくら\">小倉</sub>の細い角帯、色の<sub alias=\"あ\">褪</sub>せた黒の前掛をしめ、頭から濡れていた。雨と涙とでぐしょぐしょになった顔を、ときどき手の甲でこするため、眼のまわりや頬が黒く<sub alias=\"まだら\">斑</sub>になっている。ずんぐりした<sub alias=\"からだ\">躯</sub>つきに、顔もまるく、頭が<sub alias=\"とが\">尖</sub>っていた。——彼が橋を渡りきったとき、うしろから栄二が追って来た。",
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"summary": ""
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{
"book_id": "43016",
"access": 412,
"title": "トロッコ",
"authors": [
"芥川 竜之介"
],
"first_sentence": "小田原<sub alias=\"あたみ\">熱海</sub>間に、軽便鉄道<sub alias=\"ふせつ\">敷設</sub>の工事が始まったのは、<sub alias=\"りょうへい\">良平</sub>の八つの年だった。良平は毎日村<sub alias=\"はず\">外</sub>れへ、その工事を見物に行った。工事を——といったところが、<sub alias=\"ただ\">唯</sub>トロッコで土を運搬する——それが面白さに見に行ったのである。\nトロッコの上には土工が二人、土を積んだ<sub alias=\"うしろ\">後</sub>に<sub alias=\"たたず\">佇</sub>んでいる。トロッコは山を<sub alias=\"くだ\">下</sub>るのだから、人手を借りずに走って来る。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/34/Akutagawa.ryunosuke.jpg/320px-Akutagawa.ryunosuke.jpg",
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"book_id": "3804",
"access": 408,
"title": "悪魔",
"authors": [
"芥川 竜之介"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"ばてれん\">伴天連</sub><strong class=\"SESAME_DOT\">うるがん</strong>の眼には、<sub alias=\"ほか\">外</sub>の人の見えないものまでも見えたさうである。殊に、人間を誘惑に来る地獄の悪魔の姿などは、ありありと形が見えたと云ふ、——<strong class=\"SESAME_DOT\">うるがん</strong>の青い<sub alias=\"ひとみ\">瞳</sub>を見たものは、誰でもさう云ふ事を信じてゐたらしい。少くとも、<sub alias=\"なんばんじ\">南蛮寺</sub>の<sub alias=\"でうすによらい\">泥烏須如来</sub>を<sub alias=\"らいはい\">礼拝</sub>する<sub alias=\"ほうけうにん\">奉教人</sub>の<sub alias=\"あひだ\">間</sub>には、それが疑ふ余地のない事実だつたと云ふ事である。\n<sub alias=\"こしやほん\">古写本</sub>の伝ふる所によれば、<strong class=\"SESAME_DOT\">うるがん</strong>は<sub alias=\"おだのぶなが\">織田信長</sub>の前で、自分が京都の町で見た悪魔の<sub alias=\"ようす\">容子</sub>を物語つた。それは人間の顔と<sub alias=\"かうもり\">蝙蝠</sub>の翼と<sub alias=\"やぎ\">山羊</sub>の脚とを備へた、奇怪な小さい動物である。",
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{
"book_id": "240",
"access": 406,
"title": "あさましきもの",
"authors": [
"太宰 治"
],
"first_sentence": "こんな話を聞いた。\nたばこ屋の娘で、小さく、愛くるしいのがいた。男は、この娘のために、飲酒をやめようと決心した。娘は、男のその決意を聞き、「うれしい。」と<sub alias=\"つぶや\">呟</sub>いて、うつむいた。",
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{
"book_id": "1572",
"access": 406,
"title": "I can speak",
"authors": [
"太宰 治"
],
"first_sentence": "くるしさは、忍従の夜。あきらめの朝。この世とは、あきらめの努めか。わびしさの堪えか。わかさ、かくて、日に虫食われゆき、仕合せも、<sub alias=\"ろうこう\">陋巷</sub>の内に、見つけし、となむ。",
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{
"book_id": "52403",
"access": 401,
"title": "鳴門秘帖",
"authors": [
"吉川 英治"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"あじがわじり\">安治川尻</sub>に浪が立つのか、寝しずまった町の上を、しきりに<sub alias=\"よどり\">夜鳥</sub>が越えて行く。\nびッくりさせる、<sub alias=\"ぶすい\">不粋</sub>なやつ、ギャーッという五<sub alias=\"い\">位</sub><sub alias=\"さぎ\">鷺</sub>の声も時々、——妙に<sub alias=\"いんき\">陰気</sub>で、うすら寒い<sub alias=\"からつゆ\">空梅雨</sub>の晩なのである。\n起きているのはここ一軒。青いものがこんもりした<sub alias=\"まちかど\">町角</sub>で、横一窓の<sub alias=\"あぶらしょうじ\">油障子</sub>に、ボウと黄色い明りが<sub alias=\"も\">洩</sub>れていて、サヤサヤと<sub alias=\"しまめ\">縞目</sub>を<sub alias=\"か\">描</sub>いている柳の糸。軒には、「<sub alias=\"ほりかわかいしょ\">堀川会所</sub>」とした三尺札が下がっていた。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d9/Eiji_Yoshikawa.jpg/228px-Eiji_Yoshikawa.jpg",
"summary": "『鳴門秘帖』(なるとひちょう/なるとひじょう)は、吉川英治の長編小説である。1926年8月11日から翌年10月14日まで、「大阪毎日新聞」に連載された。\n謎に囲まれた阿波に潜入しようとする青年隠密と、それを阻もうとする阿波藩士の戦いに、青年隠密を恋い慕う女性の恋情を組み入れたものである。\n中里介山『大菩薩峠』、白井喬二『富士に立つ影』と並ぶ、大衆文学を開拓した作品で、伝奇小説黎明期の傑作である。"
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{
"book_id": "59373",
"access": 395,
"title": "お墓の中の坊や",
"authors": [
"アンデルセン ハンス・クリスチャン"
],
"first_sentence": "家の中は、ふかい悲しみで、いっぱいでした。心の中も、悲しみで、いっぱいでした。四つになる、いちばん下の男の子が、死んだのです。この子は、ひとり<sub alias=\"むすこ\">息子</sub>でした。おとうさんと、おかあさんにとっては、大きなよろこびであり、また、これから先の希望でもあったのです。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/75/HCA_by_Thora_Hallager_1869.jpg/210px-HCA_by_Thora_Hallager_1869.jpg",
"summary": ""
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{
"book_id": "59518",
"access": 394,
"title": "うまい商売",
"authors": [
"グリム ヴィルヘルム・カール",
"グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール"
],
"first_sentence": "あるお<sub alias=\"ひゃくしょう\">百姓</sub>さんが、<sub alias=\"めうし\">牝牛</sub>を<sub alias=\"いちば\">市場</sub>へ<sub alias=\"お\">追</sub>っていって、七ターレルで売ってきました。かえり道に、池のはたをとおらなければなりませんでした。まだ池までこないうちに、もう遠くのほうから、カエルたちが「アク、アク、アク」と、ないているのがきこえてきました。\n「まったく、うるさくがなりたてやあがる。」\nと、お<sub alias=\"ひゃくしょう\">百姓</sub>さんはひとりごとをいいました。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/ff/Grimm.jpg/278px-Grimm.jpg",
"summary": ""
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{
"book_id": "56642",
"access": 394,
"title": "陰翳礼讃",
"authors": [
"谷崎 潤一郎"
],
"first_sentence": "○\n今日、普請道楽の人が純日本風の家屋を建てて住まおうとすると、電気や<sub alias=\"ガス\">瓦斯</sub>や水道等の取附け方に苦心を払い、何とかしてそれらの施設が日本座敷と調和するように工夫を凝らす風があるのは、自分で家を建てた経験のない者でも、待合料理屋旅館等の座敷へ這入ってみれば常に気が付くことであろう。独りよがりの茶人などが科学文明の恩沢を度外視して、辺鄙な田舎にでも草庵を営むなら格別、いやしくも相当の家族を擁して都会に住居する以上、いくら日本風にするからと云って、近代生活に必要な煖房や照明や衛生の設備を斥ける訳には行かない。で、凝り性の人は電話一つ取り附けるにも頭を悩まして、梯子段の裏とか、廊下の隅とか、出来るだけ目障りにならない場所に持って行く。その他庭の電線は地下線にし、部屋のスイッチは押入れや地袋の中に隠し、コードは<sub alias=\"びょうぶ\">屏風</sub>の蔭を這わす等、いろ/\考えた揚句、中には神経質に作為をし過ぎて、却ってうるさく感ぜられるような場合もある。実際電燈などはもうわれ/\の眼の方が馴れッこになってしまっているから、なまじなことをするよりは、あの在来の乳白ガラスの浅いシェードを附けて、球をムキ出しに見せて置く方が、自然で、素朴な気持もする。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/34/Junichiro_Tanizaki_01.jpg/224px-Junichiro_Tanizaki_01.jpg",
"summary": "『陰翳礼讃』(いんえいらいさん)は、谷崎潤一郎の随筆。まだ電灯がなかった時代の今日と違った日本の美の感覚、生活と自然とが一体化し、真に風雅の骨髄を知っていた日本人の芸術的な感性について論じたもの。谷崎の代表的評論作品で、関西に移住した谷崎が日本の古典回帰に目覚めた時期の随筆である。\n西洋の文化では可能な限り部屋の隅々まで明るくし、陰翳を消す事に執着したが、いにしえの日本ではむしろ陰翳を認め、それを利用することで陰翳の中でこそ映える芸術を作り上げたのであり、それこそが日本古来の美意識・美学の特徴だと主張する。こうした主張のもと、建築、照明、紙、食器、食べ物、化粧、能や歌舞伎の衣装の色彩など、多岐にわたって陰翳の考察がなされている。この随筆は、日本的なデザインを考える上で注目され、国内だけでなく、戦後翻訳されて以降、海外の知識人や映画人にも影響を与えている。\n雑誌『経済往来』の1933年(昭和8年)12月号と1934年(昭和9年)1月号に連載された。単行本は1939年(昭和14年)6月に創元社より刊行された。"
},
{
"book_id": "170",
"access": 393,
"title": "杜子春",
"authors": [
"芥川 竜之介"
],
"first_sentence": "一\n或春の日暮です。\n唐の都<sub alias=\"らくやう\">洛陽</sub>の西の門の下に、ぼんやり空を仰いでゐる、一人の若者がありました。\n若者は名は<sub alias=\"とししゆん\">杜子春</sub>といつて、元は金持の息子でしたが、今は財産を<sub alias=\"つか\">費</sub>ひ<sub alias=\"つく\">尽</sub>して、その日の暮しにも困る位、<sub alias=\"あはれ\">憐</sub>な身分になつてゐるのです。\n何しろその頃洛陽といへば、天下に並ぶもののない、繁昌を極めた都ですから、<sub alias=\"わうらい\">往来</sub>にはまだしつきりなく、人や車が通つてゐました。門一ぱいに当つてゐる、油のやうな夕日の光の中に、老人のかぶつた<sub alias=\"しや\">紗</sub>の帽子や、<sub alias=\"トルコ\">土耳古</sub>の女の金の耳環や、白馬に飾つた色糸の<sub alias=\"たづな\">手綱</sub>が、絶えず流れて行く<sub alias=\"ようす\">容子</sub>は、まるで画のやうな美しさです。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card170.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/34/Akutagawa.ryunosuke.jpg/320px-Akutagawa.ryunosuke.jpg",
"summary": "『杜子春』(とししゅん)は、1920年(大正9年)に雑誌『赤い鳥』にて発表された芥川龍之介の短編小説。\n李復言編の『続玄怪録(中国語版)』及び 牛僧孺編の『玄怪録(中国語版)』双方に収録されたとされる伝奇小説『杜子春(中国語版)』を童話化したものである。芥川龍之介は、1927年2月3日付河西信三宛書簡 に「唐の小説杜子春傳の主人公を用ひをり候へども、話は 2/3 以上創作に有之候」と書いており、また彼の蔵書に鄭還古 撰『杜子春傳』があったらしい。\n本項では、同作品を原作とするテレビアニメについても記述する。"
},
{
"book_id": "57347",
"access": 393,
"title": "老人と海",
"authors": [
"ヘミングウェイ アーネスト・ミラー"
],
"first_sentence": "彼は老いていた。小さな船でメキシコ湾流に漕ぎ出し、独りで漁をしていた。一匹も釣れない日が、既に八四日も続いていた。最初の四〇日は少年と一緒だった。しかし、獲物の無いままに四〇日が過ぎると、少年に両親が告げた。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001847/card57347.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/1a/%E3%83%98%E3%83%9F%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%82%A4.jpg/295px-%E3%83%98%E3%83%9F%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%82%A4.jpg",
"summary": "『老人と海』(The Old Man and the Sea) は、アメリカの作家アーネスト・ヘミングウェイによる短編小説。1951年に書かれ、1952年に出版された。世界的なベストセラーであり、1954年のヘミングウェイのノーベル文学賞受賞に寄与した作品でもある。\n\n"
},
{
"book_id": "521",
"access": 391,
"title": "高野聖",
"authors": [
"泉 鏡花"
],
"first_sentence": "「<sub alias=\"さんぼう\">参謀</sub>本部<sub alias=\"へんさん\">編纂</sub>の地図をまた<sub alias=\"くりひら\">繰開</sub>いて見るでもなかろう、と思ったけれども、余りの道じゃから、手を<sub alias=\"さわ\">触</sub>るさえ暑くるしい、旅の<sub alias=\"ころも\">法衣</sub>の<sub alias=\"そで\">袖</sub>をかかげて、表紙を<sub alias=\"つ\">附</sub>けた折本になってるのを<sub alias=\"ひっぱ\">引張</sub>り出した。\n<sub alias=\"ひだ\">飛騨</sub>から信州へ<sub alias=\"こ\">越</sub>える<sub alias=\"みやま\">深山</sub>の間道で、ちょうど立休らおうという一本の<sub alias=\"こだち\">樹立</sub>も無い、右も左も山ばかりじゃ、手を<sub alias=\"の\">伸</sub>ばすと<sub alias=\"とど\">達</sub>きそうな<sub alias=\"みね\">峰</sub>があると、その峰へ峰が乗り、<sub alias=\"いただき\">巓</sub>が<sub alias=\"かぶ\">被</sub>さって、飛ぶ鳥も見えず、雲の形も見えぬ。\n道と空との間にただ一人我ばかり、およそ<sub alias=\"しょうご\">正午</sub>と覚しい<sub alias=\"ごくねつ\">極熱</sub>の太陽の色も白いほどに<sub alias=\"さ\">冴</sub>え返った光線を、深々と<sub alias=\"いただ\">戴</sub>いた<sub alias=\"ひとえ\">一重</sub>の<sub alias=\"ひのきがさ\">檜笠</sub>に<sub alias=\"しの\">凌</sub>いで、こう図面を見た。」\n<sub alias=\"たびそう\">旅僧</sub>はそういって、<sub alias=\"にぎりこぶし\">握拳</sub>を両方<sub alias=\"まくら\">枕</sub>に乗せ、それで額を支えながら<sub alias=\"うつむ\">俯向</sub>いた。\n<sub alias=\"みちづれ\">道連</sub>になった<sub alias=\"しょうにん\">上人</sub>は、名古屋からこの<sub alias=\"えちぜんつるが\">越前敦賀</sub>の<sub alias=\"はたごや\">旅籠屋</sub>に来て、今しがた枕に就いた時まで、<sub alias=\"わたし\">私</sub>が知ってる限り余り<sub alias=\"あおむ\">仰向</sub>けになったことのない、つまり<sub alias=\"ごうぜん\">傲然</sub>として物を見ない<sub alias=\"たち\">質</sub>の人物である。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000050/card521.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/8/84/Kyoka_Izumi.jpg/218px-Kyoka_Izumi.jpg",
"summary": "『高野聖』(こうやひじり)は、泉鏡花の短編小説。当時28歳だった鏡花が作家としての地歩を築いた作品で、幻想小説の名作でもある。高野山の旅僧が旅の途中で道連れとなった若者に、自分がかつて体験した不思議な怪奇譚を聞かせる物語。難儀な蛇と山蛭の山路を抜け、妖艶な美女の住む孤家にたどり着いた僧侶の体験した超現実的な幽玄世界が、鏡花独特の語彙豊かで視覚的な、体言止めを駆使したリズム感のある文体で綴られている。\n1900年(明治33年)2月1日、春陽堂書店の文芸雑誌『新小説』第5年第3巻に掲載された。翻訳版はSteven W. Kohl.の訳(英題:The Saint of Mt. Koya)でなされている。\n泉鏡花は、『高野聖』に登場する女妖怪を、中国小説『三娘子』から着想し、さらに、飛騨天生峠の孤家に宿泊した友人の体験談と合せて、物語の空想をふくらませていったという。"
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{
"book_id": "2569",
"access": 391,
"title": "ああ華族様だよ と私は嘘を吐くのであった",
"authors": [
"渡辺 温"
],
"first_sentence": "居留地女の間では\nその晩、私は隣室のアレキサンダー君に案内されて、始めて横浜へ遊びに出かけた。\nアレキサンダー君は、そんな遊び場所に就いてなら、日本人の私なんぞよりも、遙かに詳かに心得ていた。\nアレキサンダー君は、その自ら名告るところに依れば、旧露国帝室付舞踏師で、革命後上海から日本へ渡って来たのだが、踊を以て生業とすることが出来なくなって、今では銀座裏の、西洋料理店某でセロを弾いていると云う、つまり街頭で、よく見かける羅紗売りより僅かばかり上等な類のコーカサス人である。\nそれでも、遉にコーカサス生れの故か、髪も眼も真黒で却々<sub alias=\"ハンサム\">眉目秀麗</sub>な男だったので、貧乏なのにも拘らず、居留地女の間では、格別可愛がられているらしい。\n——アレキサンダー君は、露西亜語の他に、拙い日本語と、同じ位拙い英語とを喋ることが出来る。",
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"authorImageUrl": "",
"summary": ""
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{
"book_id": "785",
"access": 386,
"title": "門",
"authors": [
"夏目 漱石"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"そうすけ\">宗助</sub>は<sub alias=\"さっき\">先刻</sub>から<sub alias=\"えんがわ\">縁側</sub>へ<sub alias=\"ざぶとん\">坐蒲団</sub>を持ち出して、日当りの好さそうな所へ気楽に<sub alias=\"あぐら\">胡坐</sub>をかいて見たが、やがて手に持っている雑誌を放り出すと共に、ごろりと横になった。<sub alias=\"あきびより\">秋日和</sub>と名のつくほどの上天気なので、往来を行く人の<sub alias=\"げた\">下駄</sub>の響が、静かな町だけに、朗らかに聞えて来る。<sub alias=\"ひじまくら\">肱枕</sub>をして軒から上を見上げると、<sub alias=\"きれい\">奇麗</sub>な空が一面に<sub alias=\"あお\">蒼</sub>く澄んでいる。その空が自分の寝ている縁側の、窮屈な寸法に<sub alias=\"くら\">較</sub>べて見ると、非常に広大である。たまの日曜にこうして<sub alias=\"ゆっ\">緩</sub>くり空を見るだけでもだいぶ違うなと思いながら、<sub alias=\"まゆ\">眉</sub>を寄せて、ぎらぎらする日をしばらく見つめていたが、<sub alias=\"まぼ\">眩</sub>しくなったので、今度はぐるりと寝返りをして<sub alias=\"しょうじ\">障子</sub>の方を向いた。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/17/Natsume_Soseki_photo.jpg/234px-Natsume_Soseki_photo.jpg",
"summary": "『門』(もん)は、夏目漱石の長編小説。1910年に「朝日新聞」に連載され、翌年1月に春陽堂より刊行された。\n『三四郎』『それから』に続く、前期三部作最後の作品。親友であった安井を裏切って、その妻である御米と結婚した宗助が、罪悪感から救いを求める様を描く。\n本項では同作品を原作にしたテレビドラマについても記述する。"
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{
"book_id": "57190",
"access": 384,
"title": "日記帳",
"authors": [
"江戸川 乱歩"
],
"first_sentence": "ちょうど初七日の夜のことでした。私は死んだ弟の書斎に入って、何かと彼の書き残したものなどを取出しては、ひとり物思いにふけっていました。\nまだ、さして夜もふけていないのに、家中は涙にしめって、しんと<sub alias=\"しず\">鎮</sub>まり返っています。そこへ持って来て、何だか新派のお芝居めいていますけれど、遠くの方からは、物売りの呼声などが、さも悲しげな調子で響いて来るのです。私は長い間忘れていた、幼い、しみじみした気持になって、ふと、そこにあった弟の日記帳を<sub alias=\"くり\">繰</sub>ひろげて見ました。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/33/Rampo_Edogawa_02.jpg/250px-Rampo_Edogawa_02.jpg",
"summary": ""
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{
"book_id": "1086",
"access": 383,
"title": "一夜",
"authors": [
"夏目 漱石"
],
"first_sentence": "「美くしき多くの人の、美くしき多くの夢を……」と<sub alias=\"ひげ\">髯</sub>ある人が二たび三たび<sub alias=\"びぎん\">微吟</sub>して、あとは思案の<sub alias=\"てい\">体</sub>である。<sub alias=\"ひ\">灯</sub>に写る<sub alias=\"とこばしら\">床柱</sub>にもたれたる<sub alias=\"なお\">直</sub>き<sub alias=\"せ\">背</sub>の、この時少しく前にかがんで、両手に<sub alias=\"いだ\">抱</sub>く<sub alias=\"ひざがしら\">膝頭</sub>に<sub alias=\"けわ\">険</sub>しき山が出来る。<sub alias=\"かく\">佳句</sub>を得て佳句を<sub alias=\"つ\">続</sub>ぎ<sub alias=\"あた\">能</sub>わざるを<sub alias=\"うら\">恨</sub>みてか、黒くゆるやかに引ける<sub alias=\"まゆ\">眉</sub>の下より安からぬ眼の色が光る。\n「<sub alias=\"えが\">描</sub>けども成らず、描けども成らず」と<sub alias=\"えん\">椽</sub>に<sub alias=\"はしい\">端居</sub>して天下晴れて<sub alias=\"あぐら\">胡坐</sub>かけるが繰り返す。兼ねて覚えたる<sub alias=\"ぜんご\">禅語</sub>にて即興なれば間に合わすつもりか。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/17/Natsume_Soseki_photo.jpg/234px-Natsume_Soseki_photo.jpg",
"summary": "『一夜』(いちや)は夏目漱石の短編小説である。1905年(明治38年)9月、「中央公論」に発表された。1906年(明治39年)5月、『倫敦塔』、『幻影の盾』『趣味の遺伝』などとともに『漾虚集』に収録され出版された。"
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{
"book_id": "201",
"access": 382,
"title": "或る女",
"authors": [
"有島 武郎"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"しんばし\">新橋</sub>を渡る時、発車を知らせる二番目の<sub alias=\"ベル\">鈴</sub>が、霧とまではいえない九月の朝の、<sub alias=\"けむ\">煙</sub>った空気に包まれて聞こえて来た。<sub alias=\"ようこ\">葉子</sub>は平気でそれを聞いたが、車夫は宙を飛んだ。そして車が、<sub alias=\"つるや\">鶴屋</sub>という町のかどの宿屋を曲がって、いつでも人馬の群がるあの共同井戸のあたりを駆けぬける時、停車場の入り口の大戸をしめようとする駅夫と争いながら、八<sub alias=\"ぶ\">分</sub>がたしまりかかった戸の所に突っ立ってこっちを見まもっている青年の姿を見た。\n「まあおそくなってすみませんでした事……まだ間に合いますかしら」\nと葉子がいいながら階段をのぼると、青年は粗末な<sub alias=\"むぎわら\">麦稈</sub>帽子をちょっと脱いで、黙ったまま青い<sub alias=\"きっぷ\">切符</sub>を渡した。\n「おやなぜ一等になさらなかったの。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/4f/Arishima_Takeo.jpg/217px-Arishima_Takeo.jpg",
"summary": "『或る女』(あるおんな)は、有島武郎が大正時代に発表した長編小説。\n1911年1月『白樺』の創刊とともに「或る女のグリンプス」の題で連載を始め、1913年3月まで16回続いた。これは前半のみで、その後、後半を書き下ろしで『或る女』と改題して、1919年叢文閣から『有島武郎著作集』のうち二巻として前後編で刊行した。\n佐々城信子をモデルとしたものだが、結末は創作である。実際の信子は武井勘三郎との間に一女をもうけ、武井が亡くなったあとも日曜学校などをしながら71歳まで元気に生きた。"
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"book_id": "57868",
"access": 382,
"title": "大謀網",
"authors": [
"中谷 宇吉郎"
],
"first_sentence": "伊豆の伊東の温泉の沖合に、大謀網が設置されていたころの話である。\n高等水産学校につとめているI君が漁撈の視察にやってきて、大謀網を見に行きませんかというので、一緒に出掛けることにした。I君は心得たもので、土地の水産組合へ行って名刺を出して、大謀網の魚を運ぶ船に乗せてもらうようにすっかり手配してくれた。\n四月のことで、海の風はまだなかなか寒い。小さい発動機船の中には、部屋らしいものもないので、機関のそなえつけられている穴のような所へもぐり込んで、首だけ出して親方らしい人に色々説明をききながら行った。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/2/23/Nakaya_Ukichiro_in_1946.jpg/233px-Nakaya_Ukichiro_in_1946.jpg",
"summary": ""
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"book_id": "637",
"access": 382,
"title": "手袋を買いに",
"authors": [
"新美 南吉"
],
"first_sentence": "寒い冬が北方から、<sub alias=\"きつね\">狐</sub>の親子の<sub alias=\"す\">棲</sub>んでいる森へもやって来ました。\n<sub alias=\"あるあさ\">或朝</sub><sub alias=\"ほらあな\">洞穴</sub>から子供の狐が出ようとしましたが、\n「あっ」と叫んで<sub alias=\"め\">眼</sub>を<sub alias=\"おさ\">抑</sub>えながら母さん狐のところへころげて来ました。\n「母ちゃん、眼に何か刺さった、ぬいて<sub alias=\"ちょうだい\">頂戴</sub>早く早く」と言いました。\n母さん狐がびっくりして、あわてふためきながら、眼を抑えている子供の手を恐る恐るとりのけて見ましたが、何も刺さってはいませんでした。母さん狐は洞穴の入口から外へ出て始めてわけが<sub alias=\"わか\">解</sub>りました。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/2/21/%E6%96%B0%E7%BE%8E%E5%8D%97%E5%90%89.jpg/320px-%E6%96%B0%E7%BE%8E%E5%8D%97%E5%90%89.jpg",
"summary": "『手袋を買いに』(てぶくろをかいに)は新美南吉作の児童文学。南吉の生前に計画され、死の直後に刊行された童話集「牛をつないだ椿の木」(1943年)に収載された。\n手袋を買いに人間の町に行く子狐の物語。"
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"book_id": "57105",
"access": 379,
"title": "赤いカブトムシ",
"authors": [
"江戸川 乱歩"
],
"first_sentence": "あるにちよう日のごご、<sub alias=\"たんげ\">丹下</sub>サト子ちゃんと、<sub alias=\"きむら\">木村</sub>ミドリちゃんと、<sub alias=\"のざき\">野崎</sub>サユリちゃんの三人が、友だちのところへあそびに行ったかえりに、<sub alias=\"せたがや\">世田谷</sub>区のさびしい町を、手をつないで歩いていました。三人とも、小学校三年生のなかよしです。\n「あらっ。」\nサト子ちゃんが、なにを見たのか、ぎょっとしたようにたちどまりました。\nミドリちゃんもサユリちゃんもびっくりして、サト子ちゃんの見つめている方をながめました。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/33/Rampo_Edogawa_02.jpg/250px-Rampo_Edogawa_02.jpg",
"summary": ""
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"book_id": "1669",
"access": 379,
"title": "蒲団",
"authors": [
"田山 花袋"
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"first_sentence": "小石川の<sub alias=\"きりしたんざか\">切支丹坂</sub>から<sub alias=\"ごくらくすい\">極楽水</sub>に出る道のだらだら坂を下りようとして<sub alias=\"かれ\">渠</sub>は考えた。「これで自分と彼女との関係は一段落を告げた。三十六にもなって、子供も三人あって、あんなことを考えたかと思うと、馬鹿々々しくなる。けれど……けれど……本当にこれが事実だろうか。あれだけの愛情を自身に注いだのは単に愛情としてのみで、恋ではなかったろうか」\n数多い感情ずくめの手紙——二人の関係はどうしても尋常ではなかった。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/0/0a/Tayama_Katai.jpg",
"summary": "『蒲団』(ふとん)は、田山花袋の中編小説。日本の自然主義文学を代表する作品の一つで、また私小説の出発点に位置する作品とされる。「新小説」1907年(明治40年)9月号に掲載され、のち易風社から刊行された『花袋集』(1908年)に収録された。末尾において主人公が女弟子の使っていた夜着の匂いをかぐ場面など、性を露悪的なまでに描き出した内容が当時の文壇とジャーナリズムに大きな反響を巻き起こした。"
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"book_id": "57181",
"access": 378,
"title": "赤い部屋",
"authors": [
"江戸川 乱歩"
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"first_sentence": "異常な興奮を求めて集った、七人のしかつめらしい男が(私もその中の一人だった)<sub alias=\"わざわざ\">態々</sub><sub alias=\"そのため\">其為</sub>にしつらえた「赤い部屋」の、<sub alias=\"ひいろ\">緋色</sub>の<sub alias=\"びろうど\">天鵞絨</sub>で張った深い肘掛椅子に<sub alias=\"もた\">凭</sub>れ込んで、今晩の話手が何事か怪異な物語を話し出すのを、今か今かと<sub alias=\"まちかま\">待構</sub>えていた。\n七人の真中には、これも緋色の天鵞絨で<sub alias=\"おお\">覆</sub>われた一つの大きな<sub alias=\"まるテーブル\">円卓子</sub>の上に、古風な彫刻のある<sub alias=\"しょくだい\">燭台</sub>にさされた、<sub alias=\"さんちょう\">三挺</sub>の太い<sub alias=\"ろうそく\">蝋燭</sub>がユラユラと<sub alias=\"かす\">幽</sub>かに揺れながら燃えていた。\n部屋の四周には、窓や入口のドアさえ残さないで、天井から床まで、<sub alias=\"まっか\">真紅</sub>な重々しい<sub alias=\"たれぎぬ\">垂絹</sub>が豊かな<sub alias=\"ひだ\">襞</sub>を作って懸けられていた。ロマンチックな蝋燭の光が、その静脈から流れ出したばかりの血の様にも、ドス黒い色をした垂絹の表に、我々七人の異様に大きな<sub alias=\"かげぼうし\">影法師</sub>を投げていた。そして、その影法師は、蝋燭の焔につれて、幾つかの巨大な昆虫でもあるかの様に、垂絹の襞の曲線の上を、伸びたり縮んだりしながら這い歩いていた。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/33/Rampo_Edogawa_02.jpg/250px-Rampo_Edogawa_02.jpg",
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"book_id": "56041",
"access": 377,
"title": "たけくらべ",
"authors": [
"樋口 一葉"
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"first_sentence": "廻れば<sub alias=\"おほもん\">大門</sub>の見返り柳いと長けれど、お歯ぐろ<sub alias=\"どぶ\">溝</sub>に<sub alias=\"ともしび\">燈火</sub>うつる三階の騒ぎも手に取る如く、明けくれなしの車の<sub alias=\"ゆきき\">行来</sub>にはかり知られぬ全盛をうらなひて、<sub alias=\"だいおんじまへ\">大音寺前</sub>と名は仏くさけれど、さりとは陽気の町と住みたる人の申き、<sub alias=\"みしまさま\">三嶋神社</sub>の角をまがりてよりこれぞと見ゆる<sub alias=\"いゑ\">大厦</sub>もなく、かたぶく<sub alias=\"のきば\">軒端</sub>の十軒長屋二十軒長や、商ひはかつふつ<sub alias=\"き\">利</sub>かぬ<sub alias=\"ところ\">処</sub>とて<sub alias=\"なかば\">半</sub>さしたる雨戸の外に、あやしき<sub alias=\"なり\">形</sub>に紙を切りなして、<sub alias=\"ごふん\">胡粉</sub>ぬりくり<sub alias=\"さいしき\">彩色</sub>のある田楽みるやう、裏にはりたる<sub alias=\"くし\">串</sub>のさまもをかし、一軒ならず二軒ならず、朝日に干して夕日にしまふ手当ことごとしく、一家内これにかかりてそれは何ぞと問ふに、知らずや<sub alias=\"しもつき\">霜月</sub><sub alias=\"とり\">酉</sub>の日例の神社に<sub alias=\"よくふかさま\">欲深様</sub>のかつぎ<sub alias=\"たま\">給</sub>ふこれぞ熊手の下ごしらへといふ、正月門松とりすつるよりかかりて、一年うち通しのそれは誠の商買人、片手わざにも夏より手足を色どりて、<sub alias=\"はるぎ\">新年着</sub>の支度もこれをば当てぞかし、<sub alias=\"なむ\">南無</sub>や<sub alias=\"おほとりだいめうじん\">大鳥大明神</sub>、買ふ人にさへ大福をあたへ給へば製造もとの我等万倍の利益をと人ごとに言ふめれど、さりとは思ひのほかなるもの、このあたりに大長者のうわさも聞かざりき、住む人の多くは<sub alias=\"くるわもの\">廓者</sub>にて<sub alias=\"おつと\">良人</sub>は<sub alias=\"こがうし\">小格子</sub>の何とやら、下足札そろへてがらんがらんの音もいそがしや夕暮より羽織引かけて<sub alias=\"たちいづ\">立出</sub>れば、うしろに<sub alias=\"きりび\">切火</sub>打かくる女房の顔もこれが見納めか十人ぎりの<sub alias=\"そばづえ\">側杖</sub>無理<sub alias=\"しんぢう\">情死</sub>のしそこね、恨みはかかる身のはて危ふく、すはと言はば命がけの勤めに<sub alias=\"ゆさん\">遊山</sub>らしく見ゆるもをかし、娘は<sub alias=\"おほまがき\">大籬</sub>の<sub alias=\"したしんぞ\">下新造</sub>とやら、七軒の何屋が客廻しとやら、<sub alias=\"かんばん\">提燈</sub>さげてちよこちよこ走りの修業、卒業して何にかなる、とかくは<sub alias=\"ひのきぶたい\">檜舞台</sub>と見たつるもをかしからずや、<sub alias=\"あか\">垢</sub>ぬけのせし三十あまりの<sub alias=\"としま\">年増</sub>、小ざつぱりとせし<sub alias=\"とうざん\">唐桟</sub>ぞろひに<sub alias=\"こんたび\">紺足袋</sub>はきて、<sub alias=\"せつた\">雪駄</sub>ちやらちやら忙がしげに横抱きの小包はとはでもしるし、茶屋が桟橋とんと<sub alias=\"さた\">沙汰</sub>して、廻り<sub alias=\"どほ\">遠</sub>や<sub alias=\"ここ\">此処</sub>からあげまする、<sub alias=\"あつら\">誂</sub>へ<sub alias=\"もの\">物</sub>の仕事やさんとこのあたりには言ふぞかし、一体の風俗よそと変りて、<sub alias=\"おなご\">女子</sub>の<sub alias=\"うしろおび\">後帯</sub>きちんとせし人少なく、がらを好みて<sub alias=\"はばびろ\">巾広</sub>の巻帯、年増はまだよし、十五六の<sub alias=\"こしやく\">小癪</sub>なるが<sub alias=\"ほうづき\">酸漿</sub>ふくんでこの<sub alias=\"なり\">姿</sub>はと目をふさぐ人もあるべし、所がら是非もなや、<sub alias=\"きのふ\">昨日</sub><sub alias=\"かしみせ\">河岸店</sub>に<sub alias=\"なにむらさき\">何紫</sub>の<sub alias=\"げんじな\">源氏名</sub>耳に残れど、けふは地廻りの<sub alias=\"きち\">吉</sub>と手馴れぬ焼鳥の夜店を出して、身代たたき骨になれば再び古巣への<sub alias=\"かみさま\">内儀</sub><sub alias=\"すがた\">姿</sub>、どこやら<sub alias=\"しろうと\">素人</sub>よりは見よげに覚えて、これに染まらぬ子供もなし、秋は九月<sub alias=\"にわか\">仁和賀</sub>の頃の大路を見給へ、さりとは<sub alias=\"よ\">宜</sub>くも学びし<sub alias=\"ろはち\">露八</sub>が物真似、<sub alias=\"ゑいき\">栄喜</sub>が<sub alias=\"しよさ\">処作</sub>、<sub alias=\"もうし\">孟子</sub>の母やおどろかん上達の<sub alias=\"すみ\">速</sub>やかさ、うまいと<sub alias=\"ほ\">褒</sub>められて<sub alias=\"こよひ\">今宵</sub>も一廻りと生意気は七つ八つよりつのりて、やがては肩に置手ぬぐひ、鼻歌のそそり節、十五の少年がませかた恐ろし、学校の唱歌にもぎつちよんちよんと拍子を取りて、運動会に<sub alias=\"き\">木</sub>やり音頭もなしかねまじき<sub alias=\"ふぜい\">風情</sub>、さらでも教育はむづかしきに教師の苦心さこそと思はるる<sub alias=\"いりや\">入谷</sub>ぢかくに育英舎とて、私立なれども生徒の数は千人近く、狭き校舎に目白押の窮屈さも教師が人望いよいよあらはれて、<sub alias=\"ただ\">唯</sub>学校と一ト口にてこのあたりには<sub alias=\"のみこ\">呑込</sub>みのつくほど成るがあり、通ふ子供の数々に<sub alias=\"あるひ\">或</sub>は<sub alias=\"ひけしとびにんそく\">火消鳶人足</sub>、おとつさんは<sub alias=\"はねばし\">刎橋</sub>の番屋に居るよと習はずして知るその道のかしこさ、<sub alias=\"はしご\">梯子</sub>のりのまねびにアレ忍びがへしを折りましたと訴へのつべこべ、三百といふ代言の子もあるべし、お前の<sub alias=\"とと\">父</sub>さんは馬だねへと言はれて、名のりや<sub alias=\"つ\">愁</sub>らき子心にも顔あからめるしほらしさ、出入りの<sub alias=\"いゑ\">貸座敷</sub>の秘蔵息子<sub alias=\"りようずまゐ\">寮住居</sub>に華族さまを気取りて、ふさ付き帽子<sub alias=\"おも\">面</sub>もちゆたかに洋服かるがると花々しきを、坊ちやん坊ちやんとてこの子の<sub alias=\"ついしよう\">追従</sub>するもをかし、多くの中に<sub alias=\"りうげじ\">龍華寺</sub>の<sub alias=\"しんによ\">信如</sub>とて、<sub alias=\"ちすぢ\">千筋</sub>となづる黒髪も今いく<sub alias=\"とせ\">歳</sub>のさかりにか、やがては<sub alias=\"すみぞめ\">墨染</sub>にかへぬべき<sub alias=\"そで\">袖</sub>の色、<sub alias=\"ほつしん\">発心</sub>は腹からか、坊は親ゆづりの勉強ものあり、<sub alias=\"せいらい\">性来</sub>をとなしきを友達いぶせく思ひて、さまざまの<sub alias=\"いたづら\">悪戯</sub>をしかけ、猫の<sub alias=\"しがい\">死骸</sub>を縄にくくりてお役目なれば引導をたのみますと投げつけし事も有りしが、それは昔、今は校内一の人とて仮にも<sub alias=\"あなど\">侮</sub>りての処業はなかりき、<sub alias=\"とし\">歳</sub>は十五、<sub alias=\"なみぜい\">並背</sub>にていが栗の<sub alias=\"つむり\">頭髪</sub>も思ひなしか俗とは変りて、<sub alias=\"ふぢもとのぶゆき\">藤本信如</sub>と<sub alias=\"よみ\">訓</sub>にてすませど、<sub alias=\"どこ\">何処</sub>やら<sub alias=\"しやく\">釈</sub>といひたげの<sub alias=\"そぶり\">素振</sub>なり。\n八月二十日は<sub alias=\"せんぞく\">千束</sub>神社のまつりとて、<sub alias=\"だしやたい\">山車屋台</sub>に町々の見得をはりて土手をのぼりて<sub alias=\"なか\">廓内</sub>までも<sub alias=\"いりこ\">入込</sub>まんづ勢ひ、若者が気組み思ひやるべし、聞かぢりに子供とて由断のなりがたきこのあたりのなれば、そろひの<sub alias=\"ゆかた\">裕衣</sub>は言はでものこと、銘々に申合せて生意気のありたけ、聞かば<sub alias=\"きも\">胆</sub>もつぶれぬべし、<sub alias=\"よこてう\">横町</sub>組と自らゆるしたる乱暴の子供大将に<sub alias=\"かしら\">頭</sub>の<sub alias=\"ちよう\">長</sub>とて歳も十六、<sub alias=\"にわか\">仁和賀</sub>の<sub alias=\"かなぼう\">金棒</sub>に親父の代理をつとめしより気位ゑらく成りて、帯は腰の先に、返事は鼻の先にていふ物と定め、にくらしき風俗、あれが頭の子でなくばと<sub alias=\"とびにんそく\">鳶人足</sub>が女房の<sub alias=\"かげぐち\">蔭口</sub>に聞えぬ、心一ぱいに我がままを<sub alias=\"とほ\">徹</sub>して身に合はぬ<sub alias=\"はば\">巾</sub>をも広げしが、<sub alias=\"おもてまち\">表町</sub>に田中屋の<sub alias=\"しようたらう\">正太郎</sub>とて歳は我れに三つ劣れど、家に金あり身に<sub alias=\"あいけう\">愛敬</sub>あれば人も憎くまぬ当の<sub alias=\"かたき\">敵</sub>あり、我れは私立の学校へ通ひしを、<sub alias=\"さき\">先方</sub>は公立なりとて同じ唱歌も本家のやうな顔をしおる、<sub alias=\"こぞ\">去年</sub>も<sub alias=\"おととし\">一昨年</sub>も<sub alias=\"さき\">先方</sub>には大人の<sub alias=\"まつしや\">末社</sub>がつきて、まつりの趣向も我れよりは花を咲かせ、<sub alias=\"けんくわ\">喧嘩</sub>に手出しのなりがたき仕組みも有りき、今年又もや負けにならば、誰れだと思ふ横町の<sub alias=\"ちようきち\">長吉</sub>だぞと<sub alias=\"つね\">平常</sub>の力だては<sub alias=\"から\">空</sub>いばりとけなされて、弁天ぼりに水およぎの折も我が組に成る人は多かるまじ、力を言はば我が方がつよけれど、田中屋が<sub alias=\"おとなし\">柔和</sub>ぶりにごまかされて、一つは学問が出来おるを恐れ、我が横町組の<sub alias=\"たろきち\">太郎吉</sub>、三五郎など、内々は<sub alias=\"あちら\">彼方</sub>がたに成たるも<sub alias=\"くちを\">口惜</sub>し、まつりは<sub alias=\"あさつて\">明後日</sub>、いよいよ我が<sub alias=\"かた\">方</sub>が負け色と見えたらば、破れかぶれに暴れて暴れて、正太郎が<sub alias=\"つら\">面</sub>に<sub alias=\"きず\"><img src=\"http://www.aozora.gr.jp/cards/../gaiji/2-81/2-81-42.png\" alt=\"※(「やまいだれ+低のつくり」、第4水準2-81-42)\" class=\"gaiji\" /></sub>一つ、我れも片眼片足なきものと思へば<sub alias=\"し\">為</sub>やすし、<sub alias=\"かたうど\">加担人</sub>は車屋の<sub alias=\"うし\">丑</sub>に<sub alias=\"もとゆひ\">元結</sub>よりの<sub alias=\"ぶん\">文</sub>、<sub alias=\"おもちやや\">手遊屋</sub>の<sub alias=\"やすけ\">弥助</sub>などあらば引けは取るまじ、おおそれよりはあの人の事あの人の事、藤本のならば<sub alias=\"よ\">宜</sub>き智恵も貸してくれんと、十八日の暮れちかく、物いへば眼口にうるさき蚊を払ひて竹村しげき龍華寺の庭先から信如が部屋へのそりのそりと、<sub alias=\"のぶ\">信</sub>さん居るかと顔を出しぬ。\n<sub alias=\"お\">己</sub>れの<sub alias=\"す\">為</sub>る事は乱暴だと人がいふ、乱暴かも知れないが<sub alias=\"くや\">口惜</sub>しい事は口惜しいや、なあ聞いとくれ信さん、去年も己れが処の<sub alias=\"すゑ\">末弟</sub>の奴と正太郎組の<sub alias=\"ちびやらう\">短小野郎</sub>と<sub alias=\"まんどう\">万燈</sub>のたたき合ひから始まつて、それといふと奴の<sub alias=\"なかま\">中間</sub>がばらばらと飛出しやあがつて、どうだらう小さな者の万燈を<sub alias=\"ぶち\">打</sub>こわしちまつて、<sub alias=\"どうあげ\">胴揚</sub>にしやがつて、見やがれ横町のざまをと一人がいふと、間抜に背のたかい大人のやうな面をしてゐる団子屋の<sub alias=\"とんま\">頓馬</sub>が、<sub alias=\"かしら\">頭</sub>もあるものか<sub alias=\"しつぽ\">尻尾</sub>だ尻尾だ、豚の尻尾だなんて<sub alias=\"あくこう\">悪口</sub>を言つたとさ、己らあその時<sub alias=\"せんぞくさま\">千束様</sub>へねり込んでゐたもんだから、あとで聞いた時に<sub alias=\"じきさま\">直様</sub>仕かへしに<sub alias=\"ゆ\">行</sub>かうと言つたら、<sub alias=\"とつ\">親父</sub>さんに頭から<sub alias=\"こごと\">小言</sub>を<sub alias=\"く\">喰</sub>つてその時も<sub alias=\"なきねいり\">泣寐入</sub>、<sub alias=\"おととし\">一昨年</sub>はそらね、お前も知つてる通り筆屋の店へ表町の<sub alias=\"わかいしゆ\">若衆</sub>が<sub alias=\"よりあつ\">寄合</sub>て茶番か何かやつたらう、あの時己れが見に行つたら、横町は横町の趣向がありませうなんて、おつな事を言ひやがつて、正太ばかり客にしたのも胸にあるわな、いくら金が有るとつて質屋のくづれの高利貸が何たら様だ、あんな奴を生して置くより<sub alias=\"たた\">擲</sub>きころす方が世間のためだ、<sub alias=\"おい\">己</sub>らあ今度のまつりにはどうしても乱暴に仕掛て取かへしを付けようと思ふよ、だから信さん友達がひに、それはお前が嫌やだといふのも知れてるけれども<sub alias=\"どうぞ\">何卒</sub><sub alias=\"お\">我</sub>れの肩を持つて、横町組の<sub alias=\"はぢ\">耻</sub>をすすぐのだから、ね、おい、本家本元の唱歌だなんて威張りおる正太郎を<sub alias=\"とつ\">取</sub>ちめてくれないか、<sub alias=\"お\">我</sub>れが私立の寐ぼけ生徒といはれればお前の事も同然だから、後生だ、どうぞ、助けると思つて<sub alias=\"おほまんどう\">大万燈</sub>を振廻しておくれ、己れは<sub alias=\"しん\">心</sub>から底から口惜しくつて、今度負けたら長吉の<sub alias=\"たちば\">立端</sub>は無いと無茶にくやしがつて大幅の肩をゆすりぬ。だつて僕は弱いもの。弱くても<sub alias=\"い\">宜</sub>いよ。万燈は振廻せないよ。振廻さなくても宜いよ。僕が<sub alias=\"はい\">這入</sub>ると負けるが宜いかへ。負けても宜いのさ、それは仕方が無いと<sub alias=\"あきら\">諦</sub>めるから、お前は何も<sub alias=\"し\">為</sub>ないで宜いから唯横町の組だといふ名で、威張つてさへくれると<sub alias=\"がうぎ\">豪気</sub>に<sub alias=\"じんき\">人気</sub>がつくからね、己れはこんな<sub alias=\"わからずや\">無学漢</sub>だのにお前は<sub alias=\"もの\">学</sub>が出来るからね、向ふの奴が漢語か何かで<sub alias=\"ひやかし\">冷語</sub>でも言つたら、<sub alias=\"こつち\">此方</sub>も漢語で仕かへしておくれ、ああ<sub alias=\"い\">好</sub>い心持ださつぱりしたお前が承知をしてくれればもう千人力だ、信さん有がたうと常に無い優しき言葉も<sub alias=\"いづ\">出</sub>るものなり。\n一人は三尺帯に<sub alias=\"つッ\">突</sub>かけ草履の仕事師の息子、一人はかわ色<sub alias=\"がなきん\">金巾</sub>の羽織に紫の<sub alias=\"へこおび\">兵子帯</sub>といふ坊様<sub alias=\"じたて\">仕立</sub>、思ふ事はうらはらに、話しは常に喰ひ違ひがちなれど、長吉は我が門前に<sub alias=\"うぶごゑ\">産声</sub>を揚げしものと<sub alias=\"だいおしよう\">大和尚</sub>夫婦が<sub alias=\"ひいき\">贔負</sub>もあり、同じ学校へかよへば私立私立とけなされるも心わるきに、元来愛敬のなき長吉なれば心から味方につく者もなき<sub alias=\"あは\">憐</sub>れさ、<sub alias=\"さき\">先方</sub>は町内の<sub alias=\"わかいしゆ\">若衆</sub>どもまで<sub alias=\"しりおし\">尻押</sub>をして、ひがみでは無し長吉が負けを取る事罪は田中屋がたに少なからず、見かけて頼まれし義理としても嫌やとは言ひかねて信如、それではお前の組に成るさ、成るといつたら<sub alias=\"うそ\">嘘</sub>は無いが、なるべく喧嘩は<sub alias=\"せ\">為</sub>ぬ方が勝だよ、いよいよ<sub alias=\"さき\">先方</sub>が売りに出たら仕方が無い、何いざと言へば田中の正太郎位小指の先さと、我が力の無いは忘れて、信如は机の引出しから京都みやげに<sub alias=\"もら\">貰</sub>ひたる、<sub alias=\"こかぢ\">小鍛冶</sub>の<sub alias=\"こがたな\">小刀</sub>を取出して見すれば、よく利れそうだねへと<sub alias=\"のぞ\">覗</sub>き込む長吉が顔、あぶなし<sub alias=\"これ\">此物</sub>を振廻してなる事か。\n解かば足にもとどくべき<sub alias=\"かみ\">毛髪</sub>を、根あがりに堅くつめて前髪大きく<sub alias=\"まげ\">髷</sub>おもたげの、<sub alias=\"しやぐま\">赭熊</sub>といふ名は恐ろしけれど、<sub alias=\"これ\">此髷</sub>をこの頃の<sub alias=\"はやり\">流行</sub>とて<sub alias=\"よきしゆ\">良家</sub>の<sub alias=\"むすめご\">令嬢</sub>も遊ばさるるぞかし、色白に鼻筋とほりて、口もとは小さからねど締りたれば醜くからず、一つ一つに取たてては美人の<sub alias=\"かがみ\">鑑</sub>に遠けれど、物いふ声の細く<sub alias=\"すず\">清</sub>しき、人を見る目の愛敬あふれて、身のこなしの<sub alias=\"いきいき\">活々</sub>したるは快き物なり、柿色に<sub alias=\"てふとり\">蝶鳥</sub>を染めたる大形の<sub alias=\"ゆかた\">裕衣</sub>きて、<sub alias=\"くろじゆす\">黒襦子</sub>と<sub alias=\"そめわけ\">染分</sub>絞りの<sub alias=\"ちうやおび\">昼夜帯</sub>胸だかに、足にはぬり<sub alias=\"ぼくり\">木履</sub>ここらあたりにも多くは見かけぬ高きをはきて、朝湯の帰りに首筋白々と<sub alias=\"てぬぐひ\">手拭</sub>さげたる立姿を、今三年の<sub alias=\"のち\">後</sub>に見たしと<sub alias=\"くるわ\">廓</sub>がへりの若者は申き、<sub alias=\"だいこくや\">大黒屋</sub>の<sub alias=\"みどり\">美登利</sub>とて<sub alias=\"せうこく\">生国</sub>は紀州、言葉のいささか<sub alias=\"なま\">訛</sub>れるも<sub alias=\"かわゆ\">可愛</sub>く、第一は切れ離れよき気象を喜ばぬ人なし、子供に似合ぬ銀貨入れの重きも道理、姉なる人が全盛の<sub alias=\"なごり\">余波</sub>、<sub alias=\"ひ\">延</sub>いては<sub alias=\"やりて\">遣手</sub><sub alias=\"しんぞ\">新造</sub>が姉への世辞にも、美いちやん人形をお買ひなされ、これはほんの<sub alias=\"てまりだい\">手鞠代</sub>と、くれるに恩を着せねば貰ふ身の有がたくも覚えず、まくはまくは、同級の女生徒二十人に<sub alias=\"そろ\">揃</sub>ひのごむ鞠を与へしはおろかの事、<sub alias=\"なじみ\">馴染</sub>の筆やに<sub alias=\"たな\">店</sub>ざらしの<sub alias=\"てあそび\">手遊</sub>を買しめて喜ばせし事もあり、さりとは<sub alias=\"にちにちやや\">日々夜々</sub>の散財この<sub alias=\"とし\">歳</sub>この身分にて<sub alias=\"かな\">叶</sub>ふべきにあらず、末は何となる身ぞ、両親ありながら大目に見てあらき<sub alias=\"ことば\">詞</sub>をかけたる事も無く、楼の<sub alias=\"あるじ\">主</sub>が大切がる<sub alias=\"さま\">様子</sub>も怪しきに、聞けば養女にもあらず<sub alias=\"しんせき\">親戚</sub>にてはもとより無く、姉なる人が身売りの当時、<sub alias=\"めきき\">鑑定</sub>に来たりし楼の主が誘ひにまかせ、この地に<sub alias=\"たつき\">活計</sub>もとむとて親子<sub alias=\"みたり\">三人</sub>が旅衣、たち<sub alias=\"いで\">出</sub>しはこの訳、それより奥は何なれや、今は寮のあづかりをして母は遊女の仕立物、父は小格子の書記に成りぬ、この身は遊芸手芸学校にも通はせられて、そのほかは心のまま、半日は姉の部屋、半日は町に遊んで見聞くは<sub alias=\"さみ\">三味</sub>に太鼓にあけ紫のなり形、はじめ藤色絞りの<sub alias=\"はんゑり\">半襟</sub>を<sub alias=\"あはせ\">袷</sub>にかけて着て歩るきしに、田舎者いなか者と町内の娘どもに笑はれしを<sub alias=\"くや\">口惜</sub>しがりて、三日三夜泣きつづけし事も有しが、今は我れより人々を<sub alias=\"あざけ\">嘲</sub>りて、野暮な姿と<sub alias=\"うち\">打</sub>つけの<sub alias=\"にく\">悪</sub>まれ口を、言ひ返すものも無く成りぬ。二十日はお祭りなれば心一ぱい面白い事をしてと友達のせがむに、趣向は何なりと<sub alias=\"めいめい\">各自</sub>に工夫して大勢の好い事が好いでは無いか、<sub alias=\"いくら\">幾金</sub>でもいい私が出すからとて例の通り勘定なしの引受けに、子供中間の<sub alias=\"によわうさま\">女王様</sub>又とあるまじき恵みは大人よりも利きが早く、茶番にしよう、<sub alias=\"どこ\">何処</sub>のか店を借りて<sub alias=\"わうらい\">徃来</sub>から見えるやうにしてと一人が言へば、馬鹿を言へ、それよりはお<sub alias=\"みこし\">神輿</sub>をこしらへておくれな、<sub alias=\"かばたや\">蒲田屋</sub>の奥に飾つてあるやうな本当のを、重くても<sub alias=\"かまい\">搆</sub>はしない、やつちよいやつちよい訳なしだと<sub alias=\"ね\">捩</sub>ぢ鉢巻をする<sub alias=\"おとこ\">男子</sub>のそばから、それでは私たちがつまらない、<sub alias=\"みんな\">皆</sub>が騒ぐを見るばかりでは美登利さんだとて面白くはあるまい、何でもお前の好い物におしよと、女の一むれは祭りを抜きに<sub alias=\"ときはざ\">常盤座</sub>をと、言ひたげの<sub alias=\"くちぶり\">口振</sub>をかし、田中の正太は可愛らしい眼をぐるぐると動かして、幻燈にしないか、幻燈に、己れの処にも少しは有るし、足りないのを美登利さんに買つて貰つて、筆やの店で<sub alias=\"や\">行</sub>らうでは無いか、己れが映し<sub alias=\"て\">人</sub>で横町の三五郎に口上を言はせよう、美登利さんそれにしないかと言へば、ああそれは面白からう、三ちやんの口上ならば誰れも笑はずにはゐられまい、<sub alias=\"ついで\">序</sub>にあの顔がうつると<sub alias=\"なほ\">猶</sub>おもしろいと相談はととのひて、不足の品を正太が買物役、汗に成りて飛び廻るもをかしく、いよいよ<sub alias=\"あす\">明日</sub>と成りては横町までもその<sub alias=\"さた\">沙汰</sub>聞えぬ。\n",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/6/6e/Higuchi_Ichiyou.png/235px-Higuchi_Ichiyou.png",
"summary": "『たけくらべ』とは、明治の小説家、樋口一葉の短編小説。1895年(明治28年)から翌年まで「文学界」に断続的に連載(文学界雑誌社、第25 - 27号、32号、35号 - 37号)。1896年(明治29年)4月10日、「文芸倶楽部」(博文館、第二巻第5号)に一括掲載された。題名は伊勢物語23段の和歌に因む。 \n吉原の廓に住む14歳の少女美登利 (みどり) と僧侶の息子藤本信如 (ふじもとのぶゆき、しんにょ) との淡い恋を中心に、東京の子供たちの生活を吉原を背景に描き出した作品。"
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{
"book_id": "52421",
"access": 376,
"title": "私本太平記",
"authors": [
"吉川 英治"
],
"first_sentence": "まだ除夜の鐘には、すこし間がある。\nとまれ、ことしも<sub alias=\"おおつごもり\">大晦日</sub>まで無事に暮れた。だが、あしたからの来る年は。\n洛中の耳も、<sub alias=\"だいごくでん\">大極殿</sub>のたたずまいも、やがての鐘を、偉大な予言者の声にでも<sub alias=\"ふ\">触</sub>れるように、霜白々と、待ち冴えている。\n洛内四十八ヵ所の<sub alias=\"かがりや\">篝屋</sub>の火も、つねより明々と辻を照らし、淡い<sub alias=\"よもや\">夜靄</sub>をこめた<sub alias=\"たつみ\">巽</sub>の空には、羅生門の<sub alias=\"いらか\">甍</sub>が、夢のように浮いて見えた。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d9/Eiji_Yoshikawa.jpg/228px-Eiji_Yoshikawa.jpg",
"summary": "『私本太平記』(しほんたいへいき)は、吉川英治晩年の歴史小説。1958年(昭和33年)1月から『毎日新聞』に連載された。『新・平家物語』に続く大作の長編小説である。初版単行本は毎日新聞社から刊行された。現行は吉川英治歴史時代文庫(全8巻の講談社文庫版)の他、インターネットサイト青空文庫では無料で読める(外部リンクを参照)。"
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{
"book_id": "59879",
"access": 375,
"title": "甘い野辺",
"authors": [
"浜本 浩"
],
"first_sentence": "子供の頃、私は菓子を食べたことがなかった。家が貧しかったし、また私の郷里の土佐の国では、その頃まで勤倹質素を旨とする風習が残っていたので、菓子はぜいたくなもののように考えられていたからである。\n菓子を禁じられた子供たちは、いろいろと代用になるものを探して食べた。それは私たちだけではなく、どこでも田舎の子供なら同じことかもしれない。\n早春には、まず芝の地下茎を<sub alias=\"か\">噛</sub>んだ。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/2/20/Hamamoto_Hiroshi.JPG/288px-Hamamoto_Hiroshi.JPG",
"summary": ""
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{
"book_id": "59948",
"access": 375,
"title": "昼の花火",
"authors": [
"山川 方夫"
],
"first_sentence": "野球場の暗い階段を上りきると、別世界のような明るい大きなグラウンドが、目の前にひらけた。\n<sub alias=\"はんらん\">氾濫</sub>する白いシャツの群が、目に痛い。すでに観客は、内野スタンドの八分を埋めてしまっている。\nグラウンドには、真新らしいユニホームの大学の選手たちが、快音を<sub alias=\"こだま\">谺</sub>するシート・ノックの白球を追って、きびきびと走り廻っている。日焼けした顔に、真上からの初夏の光が当って、青年たちは、野獣のように健康な感じだ。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/ja/thumb/6/68/Masao_Yamakawa_in_Asahi_Joournal_1964.10.4.JPG/224px-Masao_Yamakawa_in_Asahi_Joournal_1964.10.4.JPG",
"summary": ""
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{
"book_id": "1317",
"access": 375,
"title": "黒死館殺人事件",
"authors": [
"小栗 虫太郎"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"セント\">聖</sub>アレキセイ寺院の殺人事件に<sub alias=\"のりみず\">法水</sub>が解決を公表しなかったので、そろそろ迷宮入りの<sub alias=\"うわさ\">噂</sub>が立ちはじめた十日目のこと、その日から捜査関係の主脳部は、ラザレフ殺害者の追求を放棄しなければならなくなった。と云うのは、四百年の昔から<sub alias=\"てんめん\">纏綿</sub>としていて、<sub alias=\"うすきジェスイットセミナリオ\">臼杵耶蘇会神学林</sub>以来の神聖家族と云われる<sub alias=\"ふりやぎ\">降矢木</sub>の館に、突如真黒い風みたいな毒殺者の<sub alias=\"ほうこう\">彷徨</sub>が始まったからであった。その、通称黒死館と呼ばれる降矢木の館には、いつか必ずこういう不思議な恐怖が起らずにはいまいと噂されていた。勿論そういう臆測を生むについては、ボスフォラス以東にただ一つしかないと云われる降矢木家の建物が、明らかに重大な理由の一つとなっているのだった。その豪壮を極めたケルト・ルネサンス式の<sub alias=\"シャトウ\">城館</sub>を見慣れた今日でさえも、尖塔や櫓楼の量線からくる<sub alias=\"ふしぎ\">奇異</sub>な感覚——まるでマッケイの古めかしい地理本の插画でも見るような感じは、いつになっても変らないのである。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/2/2e/Mushitaro_Oguri.jpg",
"summary": "『黒死館殺人事件』(こくしかんさつじんじけん)は、小栗虫太郎の長編探偵小説。\n全編、膨大な衒学趣味(ペダントリー)に彩られており、夢野久作『ドグラ・マグラ』、中井英夫(筆名:塔晶夫)『虚無への供物』とともに、日本探偵小説史上の「三大奇書」、三大アンチミステリーに数えられている。"
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{
"book_id": "47432",
"access": 373,
"title": "木乃伊の耳飾",
"authors": [
"国枝 史郎"
],
"first_sentence": "まだ若い英国の考古学者の、ドイルス博士は<sub alias=\"その\">其</sub>日の午後に、目的地のギゼーへ到着した。そして予め通知して置いた「ナイル旅館」の一室に当分の<sub alias=\"やどり\">宿</sub>を定めたのであった。\n博士は、ギゼーの<sub alias=\"この\">此</sub>附近で、<sub alias=\"ピラミット\">金字塔</sub>に関する考古資料を、発掘蒐集するために、地中海を通って<sub alias=\"はるばる\">杳々</sub>と、英国から渡って来たのであって、篤学の博士はその途中でも、モーソラスの霊廟や、ローズ島の立像や、アレキサンドリアの<sub alias=\"ファロス\">燈台</sub>などで、多少の発掘はしたものの、その本当の目的はギゼーの金字塔にあるのであった。\n発掘用の道具などを、<sub alias=\"しつ\">室</sub>の片隅へ片付けてから、博士は静かに旅装を解き、それから室を見廻わした。非常に高いその天井。",
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"authorImageUrl": "",
"summary": ""
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{
"book_id": "1504",
"access": 373,
"title": "夜明け前",
"authors": [
"島崎 藤村"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"きそじ\">木曾路</sub>はすべて山の中である。あるところは<sub alias=\"そば\">岨</sub>づたいに行く<sub alias=\"がけ\">崖</sub>の道であり、あるところは数十間の深さに臨む木曾川の岸であり、あるところは山の尾をめぐる谷の入り口である。一筋の<sub alias=\"かいどう\">街道</sub>はこの深い森林地帯を貫いていた。\n東ざかいの桜沢から、西の<sub alias=\"じっきょくとうげ\">十曲峠</sub>まで、木曾十一<sub alias=\"しゅく\">宿</sub>はこの街道に添うて、二十二里余にわたる長い<sub alias=\"けいこく\">谿谷</sub>の間に散在していた。道路の位置も幾たびか改まったもので、古道はいつのまにか深い<sub alias=\"やまあい\">山間</sub>に<sub alias=\"うず\">埋</sub>もれた。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/6/6f/Shimazaki_Toson2.jpg/219px-Shimazaki_Toson2.jpg",
"summary": "『夜明け前』(よあけまえ)は、島崎藤村によって書かれた長編小説。2部構成。「木曾路はすべて山の中である」の書き出しで知られる。\n\n"
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{
"book_id": "4872",
"access": 373,
"title": "愛読書の印象",
"authors": [
"芥川 竜之介"
],
"first_sentence": "子供の時の愛読書は「西遊記」が第一である。これ等は今日でも僕の愛読書である。比喩談としてこれほどの傑作は、西洋には一つもないであらうと思ふ。名高いバンヤンの「天路歴程」なども到底この「西遊記」の敵ではない。それから「水滸伝」も愛読書の一つである。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/34/Akutagawa.ryunosuke.jpg/320px-Akutagawa.ryunosuke.jpg",
"summary": ""
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{
"book_id": "42601",
"access": 369,
"title": "レ・ミゼラブル",
"authors": [
"ユゴー ヴィクトル"
],
"first_sentence": "一八六一年五月のある麗しい朝、一人の旅人、すなわちこの物語の著者は、ニヴェルからやってきてラ・ユルプの方へ向かっていた。彼は徒歩で、両側に並み木の並んでる石畳の広い街道を進んでいった。街道は立ち並んで大波のようになってる丘の上を曲がりくねって、あるいは高くあるいは低く続いていた。彼はもうリロアおよびボア・センニュール・イザアクを通り過ぎていた。西の方に、ブレーヌ・ラルーの花びんを逆さにしたような<sub alias=\"スレート\">石盤</sub>屋根の鐘楼をながめた。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/e6/Victor_Hugo_by_%C3%89tienne_Carjat_1876_-_full.jpg/260px-Victor_Hugo_by_%C3%89tienne_Carjat_1876_-_full.jpg",
"summary": "『レ・ミゼラブル』(フランス語: Les Misérables)は、ヴィクトル・ユーゴーが1862年に執筆したロマン主義フランス文学の大河小説。\n\n"
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"book_id": "772",
"access": 369,
"title": "私の個人主義",
"authors": [
"夏目 漱石"
],
"first_sentence": "——大正三年十一月二十五日学習院輔仁会において述——\n私は今日初めてこの学習院というものの中に<sub alias=\"はい\">這入</sub>りました。もっとも以前から学習院は多分この見当だろうぐらいに考えていたには<sub alias=\"そうい\">相違</sub>ありませんが、はっきりとは存じませんでした。中へ這入ったのは無論今日が初めてでございます。\nさきほど岡田さんが<sub alias=\"しょうかい\">紹介</sub>かたがたちょっとお話になった通りこの春何か講演をというご注文でありましたが、その当時は何か<sub alias=\"さしつかえ\">差支</sub>があって、——岡田さんの方が当人の私よりよくご<sub alias=\"きおく\">記憶</sub>と見えてあなたがたにご納得のできるようにただいまご説明がありましたが、とにかくひとまずお断りを<sub alias=\"いた\">致</sub>さなければならん事になりました。しかしただお断りを致すのもあまり失礼と存じまして、この次には参りますからという条件をつけ加えておきました。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/17/Natsume_Soseki_photo.jpg/234px-Natsume_Soseki_photo.jpg",
"summary": ""
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{
"book_id": "5017",
"access": 366,
"title": "源氏物語",
"authors": [
"紫式部 "
],
"first_sentence": "<sub alias=\"ひかるげんじ\">光源氏</sub>、すばらしい名で、青春を盛り上げてできたような人が思われる。自然奔放な好色生活が想像される。しかし実際はそれよりずっと<sub alias=\"じみ\">質素</sub>な心持ちの青年であった。その上恋愛という一つのことで後世へ自分が誤って伝えられるようになってはと、異性との交渉をずいぶん内輪にしていたのであるが、ここに書く話のような事が伝わっているのは世間がおしゃべりであるからなのだ。自重してまじめなふうの源氏は恋愛風流などには遠かった。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/a6/Tosa_Mitsuoki_001.jpg",
"summary": "『源氏物語』(げんじものがたり)は、平安時代中期に成立した日本の長編物語、小説。文献初出は1008年(寛弘五年)。作者の紫式部にとって生涯で唯一の物語作品である。主人公の光源氏を通して、恋愛、栄光と没落、政治的欲望と権力闘争など、平安時代の貴族社会を描いた。\n下級貴族出身の紫式部は、20代後半で藤原宣孝と結婚し一女をもうけたが、結婚後3年ほどで夫と死別し、その現実を忘れるために物語を書き始めた。これが『源氏物語』の始まりである。当時は紙が貴重だったため、紙の提供者がいればその都度書き、仲間内で批評し合うなどして楽しんでいたが、その物語の評判から藤原道長が娘の中宮彰子の家庭教師として紫式部を呼んだ。それを機に宮中に上がった紫式部は、宮仕えをしながら藤原道長の支援の下で物語を書き続け、54帖からなる『源氏物語』を完成させた。\nなお、源氏物語は文献初出からおよそ150年後の平安時代末期に「源氏物語絵巻」として絵画化された。現存する絵巻物のうち、徳川美術館と五島美術館所蔵のものは国宝となっている。また現在、『源氏物語』は日本のみならず20か国語を超える翻訳を通じて世界各国で読まれている。"
},
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"book_id": "57206",
"access": 366,
"title": "銭形平次捕物控",
"authors": [
"野村 胡堂"
],
"first_sentence": "「あれを聴いたでしょうね、親分」\nガラッ八の八五郎は、この薄寒い日に、鼻の頭に汗を掻いて飛込んで来たのです。\n「聴いたよ、新造に<sub alias=\"たてひ\">達引</sub>かしちゃよくねえな。二三日前瀧ノ川の<sub alias=\"もみじ\">紅葉</sub>を見に行って、財布を<sub alias=\"す\">掏</sub>られて、<sub alias=\"つれ\">伴</sub>の女達にお茶屋の払いまでして貰ったという話だろう」\n銭形平次は立て続けに煙管を叩いて、ニヤリニヤリとして居るのです。\n「そんなつまらねえ話じゃありませんよ。親分も聴いたでしょう、近頃大騒ぎになって居る、<sub alias=\"どて\">土手</sub>の<sub alias=\"まげ\">髷</sub>切り」\n「そうだってね、新吉原の土手で、遊びに行く武家がポンポン髷を切られるんだってね、——大きい声じゃ言えねえが、『人は武士なぜ<sub alias=\"けいせい\">傾城</sub>に嫌がられ』とはよく言ったものさ。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/11/Kodo_Nomura_01.jpg/265px-Kodo_Nomura_01.jpg",
"summary": "『銭形平次捕物控』(ぜにがたへいじ とりものひかえ)は、野村胡堂による小説、またこの小説を基にした映画、テレビ時代劇、舞台作品。翻案作品ではタイトルを単に『銭形平次』とするものもある。\n神田明神下に住む岡っ引の平次(通称 銭形平次)が、子分の八五郎(通称:ガラッ八-ガラッパチ)と共に卓越した推理力と寛永通宝による「投げ銭」(重さ3.5グラムで、小石を投げつけるのと同じ)を駆使し、事件を鮮やかに解決していく。岡本綺堂『半七捕物帳』と共に最も有名な捕物帳(犯罪事件を題材とした時代物の推理小説)であり、代表的な時代劇作品の一つでもある。\n作品の舞台が江戸時代のいつ頃かははっきりしない。原作の最初の頃は寛永期(1624年 - 1645年、江戸初期)を舞台にしていたが、第30話から文化文政期(1804年 - 1830年、江戸後期)に移っている。\n平次は架空の人物であるが、小説の設定から神田明神境内に銭形平次の碑が建立されており、銭形平次の顔出し看板も設置されている。"
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"book_id": "56641",
"access": 365,
"title": "刺青",
"authors": [
"谷崎 潤一郎"
],
"first_sentence": "其れはまだ人々が「<sub alias=\"おろか\">愚</sub>」と云う貴い徳を持って居て、世の中が今のように激しく<sub alias=\"きし\">軋</sub>み合わない時分であった。殿様や若旦那の<sub alias=\"のどか\">長閑</sub>な顔が曇らぬように、御殿女中や<sub alias=\"おいらん\">華魁</sub>の笑いの種が盡きぬようにと、<sub alias=\"じょうぜつ\">饒舌</sub>を売るお茶坊主だの幇間だのと云う職業が、立派に存在して行けた程、世間がのんびりして居た時分であった。女定九郎、女自雷也、女鳴神、———当時の芝居でも草双紙でも、すべて美しい者は強者であり、醜い者は弱者であった。誰も彼も<sub alias=\"こぞ\">挙</sub>って美しからんと努めた揚句は、<sub alias=\"てんぴん\">天稟</sub>の体へ絵の具を注ぎ込む迄になった。芳烈な、或は絢爛な、線と色とが其の頃の人々の肌に躍った。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/34/Junichiro_Tanizaki_01.jpg/224px-Junichiro_Tanizaki_01.jpg",
"summary": "『刺青』(しせい)は、谷崎潤一郎の短編小説。谷崎本人が処女作だとしている短編で、皮膚や足に対するフェティシズムと、それに溺れる男の性的倒錯など、その後の谷崎作品に共通するモチーフが見られる初期の作品である。1910年(明治43年)11月、同人誌の第二次『新思潮』第3号に掲載された。単行本は、翌1911年(明治44年)12月に籾山書店より刊行された。"
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"book_id": "57405",
"access": 365,
"title": "黒蜥蜴",
"authors": [
"江戸川 乱歩"
],
"first_sentence": "この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。\n帝都最大の<sub alias=\"いんしん\">殷賑</sub>地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。\nG街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。\n今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。\nナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの<sub alias=\"とんが\">尖</sub>り帽子を横っちょにして踊りくるい、或る者はにげまどう小女をゴリラの<sub alias=\"かっこう\">恰好</sub>で追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる<sub alias=\"たばこ\">煙草</sub>のけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/33/Rampo_Edogawa_02.jpg/250px-Rampo_Edogawa_02.jpg",
"summary": "『黒蜥蜴』(くろとかげ)は、江戸川乱歩の長編探偵小説。および、作中に登場する女性盗賊の俗称。小説は1934年(昭和9年)、月刊誌『日の出』1月号から12月号に連載された。宝石等「美しいもの」を狙う美貌の女賊・黒蜥蜴と名探偵・明智小五郎が対決するトリッキイでアクロバティックな冒険物語である 。"
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"book_id": "59532",
"access": 364,
"title": "夏の葬列",
"authors": [
"山川 方夫"
],
"first_sentence": "海岸の小さな町の駅に下りて、彼は、しばらくはものめずらしげにあたりを眺めていた。駅前の風景はすっかり変っていた。アーケードのついた明るいマーケットふうの通りができ、その道路も、固く<sub alias=\"ほそう\">鋪装</sub>されてしまっている。はだしのまま、<sub alias=\"じゃり\">砂利</sub>の多いこの道を<sub alias=\"か\">駈</sub>けて通学させられた小学生の<sub alias=\"ころ\">頃</sub>の自分を、急になまなましく彼は思い出した。あれは、戦争の末期だった。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/ja/thumb/6/68/Masao_Yamakawa_in_Asahi_Joournal_1964.10.4.JPG/224px-Masao_Yamakawa_in_Asahi_Joournal_1964.10.4.JPG",
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"book_id": "308",
"access": 363,
"title": "桜桃",
"authors": [
"太宰 治"
],
"first_sentence": "子供より親が大事、と思いたい。子供のために、などと古風な道学者みたいな事を殊勝らしく考えてみても、何、子供よりも、その親のほうが弱いのだ。少くとも、私の家庭においては、そうである。まさか、自分が老人になってから、子供に助けられ、世話になろうなどという図々しい<sub alias=\"むし\">虫</sub>のよい下心は、まったく持ち合わせてはいないけれども、この親は、その家庭において、常に子供たちのご<sub alias=\"きげん\">機嫌</sub>ばかり伺っている。子供、といっても、私のところの子供たちは、皆まだひどく幼い。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/77/Osamu_Dazai.jpg/214px-Osamu_Dazai.jpg",
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"book_id": "42941",
"access": 363,
"title": "イワンの馬鹿",
"authors": [
"トルストイ レオ"
],
"first_sentence": "一\nむかしある国の田舎にお金持の百姓が住んでいました。百姓には兵隊のシモン、<sub alias=\"ふとっちょ\">肥満</sub>のタラスに馬鹿のイワンという三人の息子と、<strong class=\"SESAME_DOT\">つんぼ</strong>で<strong class=\"SESAME_DOT\">おし</strong>のマルタという娘がありました。兵隊のシモンは王様の家来になって戦争に行きました。<sub alias=\"ふとっちょ\">肥満</sub>のタラスは町へ出て商人になりました。馬鹿のイワンと妹のマルタは、<sub alias=\"うち\">家</sub>に残って背中がまがるほどせい出して働きました。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/1/11/LNTolstoy.jpg",
"summary": "イワンのばか(イワンの馬鹿)はロシアの民話にしばしば登場する男性キャラクター。極めて純朴愚直な男ではあるが最後には幸運を手にすることが多い。ロシア語では「Иван-дурак」 もしくは「Иванушка-дурачок」(指小形)。\n日本では帝政ロシア時代の小説家レフ・トルストイによる彼を主人公とした作品で特によく知られ、長谷川天渓 訳『大悪魔と小悪魔』(『1902年・雑誌『少年世界』に連載)や内田魯庵訳『馬鹿者イワン』(1902年・雑誌『学鐙』に連載)などをはじめ多くの和訳がある。以下はこの作品についての説明である。"
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{
"book_id": "51674",
"access": 363,
"title": "僕が大きくなるまで",
"authors": [
"小川 未明"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"しょうがっこう\">小学校</sub>にいる<sub alias=\"じぶん\">時分</sub>のことでした。ある<sub alias=\"あさ\">朝</sub>の<sub alias=\"じかん\">時間</sub>は、<sub alias=\"さんじゅつ\">算術</sub>であったが、<sub alias=\"ともきち\">友吉</sub>は、この<sub alias=\"ひ\">日</sub>もまたおくれてきたのであります。\n「<sub alias=\"やまもと\">山本</sub>、そう<sub alias=\"まいにち\">毎日</sub>おくれてきて、どうするんだね。」と、<sub alias=\"せんせい\">先生</sub>は、きびしい<sub alias=\"め\">目</sub>つきで、<sub alias=\"ともきち\">友吉</sub>をにらみました。そして、その<sub alias=\"じかん\">時間</sub>の<sub alias=\"お\">終</sub>わるまで、<sub alias=\"きょうだん\">教壇</sub>のそばに<sub alias=\"た\">立</sub>たせられたのです。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/9/90/Ogawa_Mimei.JPG/216px-Ogawa_Mimei.JPG",
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{
"book_id": "894",
"access": 362,
"title": "山羊の歌",
"authors": [
"中原 中也"
],
"first_sentence": "春の日の夕暮\r\nトタンがセンベイ食べて\r\n春の日の夕暮は穏かです\r\nアンダースローされた灰が蒼ざめて\r\n春の日の夕暮は静かです",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/41/Nakahara_Chuya.jpg",
"summary": ""
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"book_id": "47433",
"access": 362,
"title": "目撃者",
"authors": [
"国枝 史郎"
],
"first_sentence": "ミラは<sub alias=\"ど\">何</sub>うしても眠れなかった。\n夜も<sub alias=\"ふ\">更</sub>けて真夜中を少し廻った頃だったが、二階では彼女の息子のウィリアムと嫁のエフィが<sub alias=\"さっき\">先刻</sub>から喧嘩を続けているので、ミラは一時間余りも床の中で眼をぱちくりさせていた。彼女はウィリアムが腹を立てたが最後、手に負えぬことを知っているだけに余計心配でならなかった。彼女の耳にはウィリアムが床をばたばたさせながら、<sub alias=\"しき\">切</sub>りに喚いている声や、エフィの途切れ途切れに言う言葉が遠慮なく聞えて来た。エフィの急所を<sub alias=\"つ\">衝</sub>く言葉は相手を、益々苛立たせるばかりで到底ウィルを<sub alias=\"なだ\">宥</sub>める所ではなかった。",
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"authorImageUrl": "",
"summary": "目撃(もくげき)は、現場(事故・事件)などで実際にその目で見ること。自らが目撃した人物を目撃者(もくげきしゃ)といい、警察の集団語では丸目(まるもく)という。\n\n目撃(もくげき)\n目撃 (映画) - 1997年公開のアメリカ映画。クリント・イーストウッド主演、監督作。\n目撃者(もくげきしゃ)\n目撃者 (1936年の映画)\n目撃者 (1951年の映画) - リチャード・ブルックスが脚本を手がけた1951年の映画。\n目撃者 (1964年のテレビドラマ) - 近鉄金曜劇場で1964年11月27日に放送されたテレビドラマ。\n目撃者 (1981年の映画) - ピーター・イェーツが監督した1981年の映画。\n刑事ジョン・ブック 目撃者 - 1985年ピーター・ウィアー監督、ハリソン・フォードケリー・マクギリス主演映画。\nチームA 6th Stage「目撃者」 - AKB48の劇場公演。"
},
{
"book_id": "42604",
"access": 359,
"title": "レ・ミゼラブル",
"authors": [
"ユゴー ヴィクトル"
],
"first_sentence": "社会の病根を観察する者がまずあげ得る最も顕著な二つの防寨は、本書の事件と同時代のものではない。その二つの防寨は、異なった二つの局面においていずれも恐るべき情況を象徴するものであって、有史以来の最も大なる市街戦たる一八四八年六月の宿命的な反乱のおり、地上に現われ出たのである。\n時として、主義に反し、自由と平等と友愛とに反し、一般投票に反し、万人が万人を統べる政府に反してまでも、その苦悩と落胆と欠乏と激昂と困窮と毒気と無知と暗黒との底から、絶望せる偉人ともいうべき<sub alias=\"せんみん\">賤民</sub>は抗議を持ち出すことがあり、下層民は民衆に戦いをいどむことがある。\n無頼の徒は公衆の権利を攻撃し、愚衆は良民に反抗する。\nそれこそ痛むべき争闘である。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001094/card42604.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/e6/Victor_Hugo_by_%C3%89tienne_Carjat_1876_-_full.jpg/260px-Victor_Hugo_by_%C3%89tienne_Carjat_1876_-_full.jpg",
"summary": "『レ・ミゼラブル』(フランス語: Les Misérables)は、ヴィクトル・ユーゴーが1862年に執筆したロマン主義フランス文学の大河小説。\n\n"
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{
"book_id": "58960",
"access": 358,
"title": "編集者今昔",
"authors": [
"正宗 白鳥"
],
"first_sentence": "この頃は回顧談が流行してゐる。昔の有名人の噂などはことに雜誌の讀者に喜ばれてゐるらしくも思はれる。讀者の喜ぶか喜ばぬかは別として、筆者自身いい氣持で書いてゐるらしい。芥川に關する回顧談、回顧的作品など、私の目に觸れただけでも幾つあつたことか。芥川龍之介といふ大正期の作家が、どれほど傑かつたにしろ、どれほど人間的妙味に富んでゐたにしろ、その噂はもう澤山だと云つた感じがしてゐる。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d9/Masamune_Hakucho.jpg/224px-Masamune_Hakucho.jpg",
"summary": ""
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{
"book_id": "48729",
"access": 358,
"title": "踏査",
"authors": [
"田山 花袋",
"田山 録弥"
],
"first_sentence": "街道がある。其處に日が照る。人が通つて居る。向うには山の翠が見える。それは年々歳々同じである。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/0/0a/Tayama_Katai.jpg",
"summary": ""
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{
"book_id": "466",
"access": 355,
"title": "オツベルと象",
"authors": [
"宮沢 賢治"
],
"first_sentence": "……ある<sub alias=\"うしか\">牛飼</sub>いがものがたる\nオツベルときたら大したもんだ。<sub alias=\"いねこき\">稲扱</sub>器械の六台も<sub alias=\"す\">据</sub>えつけて、のんのんのんのんのんのんと、大そろしない音をたててやっている。\n十六人の<sub alias=\"ひゃくしょう\">百姓</sub>どもが、顔をまるっきりまっ赤にして足で<sub alias=\"ふ\">踏</sub>んで器械をまわし、小山のように積まれた稲を片っぱしから<sub alias=\"こ\">扱</sub>いて行く。<sub alias=\"わら\">藁</sub>はどんどんうしろの方へ投げられて、また新らしい山になる。そこらは、<sub alias=\"もみ\">籾</sub>や藁から<sub alias=\"た\">発</sub>ったこまかな<sub alias=\"ちり\">塵</sub>で、変にぼうっと黄いろになり、まるで<sub alias=\"さばく\">沙漠</sub>のけむりのようだ。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/4d/Miyazawa_Kenji.jpg/225px-Miyazawa_Kenji.jpg",
"summary": "「オツベルと象」(オツベルとぞう)は、宮沢賢治の短編童話である。詩人尾形亀之助主催の雑誌『月曜』創刊号(1926年1月3日発行)に掲載された。賢治の数少ない生前発表童話の一つ。教科書にも広く収録されているほか、公文式の教材にもなっている。"
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{
"book_id": "782",
"access": 350,
"title": "明暗",
"authors": [
"夏目 漱石"
],
"first_sentence": "医者は<sub alias=\"さぐ\">探</sub>りを入れた<sub alias=\"あと\">後</sub>で、手術台の上から<sub alias=\"つだ\">津田</sub>を<sub alias=\"おろ\">下</sub>した。\n「やっぱり穴が腸まで続いているんでした。この<sub alias=\"まえ\">前</sub><sub alias=\"さぐ\">探</sub>った時は、途中に<sub alias=\"はんこん\">瘢痕</sub>の<sub alias=\"りゅうき\">隆起</sub>があったので、ついそこが<sub alias=\"い\">行</sub>きどまりだとばかり思って、ああ云ったんですが、<sub alias=\"きょう\">今日</sub>疎通を好くするために、そいつをがりがり<sub alias=\"か\">掻</sub>き落して見ると、まだ奥があるんです」\n「そうしてそれが腸まで続いているんですか」\n「そうです。五分ぐらいだと思っていたのが約一寸ほどあるんです」\n津田の顔には苦笑の<sub alias=\"うち\">裡</sub>に淡く盛り上げられた失望の色が見えた。医者は白いだぶだぶした上着の前に両手を組み合わせたまま、ちょっと首を傾けた。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/17/Natsume_Soseki_photo.jpg/234px-Natsume_Soseki_photo.jpg",
"summary": "『明暗』(めいあん)は夏目漱石の長編小説。「朝日新聞」に大正5年(1916年)5月26日から同年12月14日まで連載されたが、作者病没のため188回までで未完となった。大正6年(1917年)に岩波書店から刊行。\n円満とはいえない夫婦関係を軸に、人間の利己(エゴイズム)を追った近代小説。漱石の小説中最長の作品である。また則天去私の境地を描こうとした作品とも解されている。本作品が他の漱石作品にない特徴として、さまざまな人の視点から書かれている点、特に女性の視点から書かれているという点がある。"
},
{
"book_id": "783",
"access": 345,
"title": "道草",
"authors": [
"夏目 漱石"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"けんぞう\">健三</sub>が遠い所から帰って来て<sub alias=\"こまごめ\">駒込</sub>の奥に<sub alias=\"しょたい\">世帯</sub>を持ったのは東京を出てから何年目になるだろう。彼は故郷の土を踏む珍らしさのうちに一種の<sub alias=\"さび\">淋</sub>し<sub alias=\"み\">味</sub>さえ感じた。\n彼の<sub alias=\"からだ\">身体</sub>には新らしく<sub alias=\"あと\">後</sub>に見捨てた遠い国の<sub alias=\"におい\">臭</sub>がまだ付着していた。彼はそれを<sub alias=\"い\">忌</sub>んだ。一日も早くその臭を<sub alias=\"ふる\">振</sub>い落さなければならないと思った。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/17/Natsume_Soseki_photo.jpg/234px-Natsume_Soseki_photo.jpg",
"summary": "『道草』(みちくさ)は、夏目漱石の長編小説。「朝日新聞」に、1915年6月3日から9月14日まで掲載された。\n「吾輩は猫である」執筆時の生活をもとにした漱石自身の自伝であるとされる。主人公の健三は漱石、金をせびりに来る島田は漱石の養父である塩原昌之助であるという。\n私小説風のため、小宮豊隆らからはあまり勧められないなどと書かれ、不評であった。しかし、これまで漱石のことを余裕派と呼び、その作風・作品に批判的であった、いわゆる自然主義と呼ばれる作家達からは高く評価された。"
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{
"book_id": "919",
"access": 345,
"title": "いなか、の、じけん",
"authors": [
"夢野 久作"
],
"first_sentence": "村長さんの処の米倉から、白米を四<sub alias=\"ひょう\">俵</sub>盗んで行ったものがある。\nあくる朝早く駐在の<sub alias=\"おまわり\">巡査</sub>さんが来て調べたら、<sub alias=\"たわら\">俵</sub>を積んで行ったらしい車の輪のあとが、雨あがりの土にハッキリついていた。そのあとをつけて行くと、町へ出る途中の、とある村<sub alias=\"はず\">外</sub>れの一軒屋の軒下に、その米俵を積んだ車が置いてあって、その横の縁台の上に、<sub alias=\"ほおかぶ\">頬冠</sub>りをした男が大の字になって、グウグウとイビキをかいていた。引っ捕えてみるとそれは、その界隈で持てあまし者の<sub alias=\"ばくちう\">博奕打</sub>ちであった。\n博奕打ちは盗んだ米を町へ売りに行く途中、久し振りに<sub alias=\"からだ\">身体</sub>を使ってクタビレたので、チョットのつもりで休んだのが、思わず寝過ごしたのであった。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000096/card919.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/6/6d/Kyusaku_Yumeno.jpg/206px-Kyusaku_Yumeno.jpg",
"summary": "『いなか、の、じけん』は、探偵小説作家夢野久作が書いたショートショート集。探偵趣味の会の機関誌『探偵趣味』に15篇が掲載され、同誌の休刊後、雑誌『猟奇』に5篇が掲載された。\n作者の故郷・九州各地の農村や漁村で実際に起こった出来事をモチーフに取材した、20編のショートショート集。軽い小話風のものから、因習に囚われた陰残な事件まであらゆる農村の形態が表されている。"
},
{
"book_id": "59878",
"access": 344,
"title": "ブイヨン・ドンゾール",
"authors": [
"滝沢 敬一"
],
"first_sentence": "昔々もその昔、妹が赤十字病院にはいっていた時分、外来の見舞客には特別の食堂があり、切符で注文すれば同じ値段で洋食か和食があり、こっちのほうがおいしかったのを思い出す。\nフランスの病院では食事などできる制度は全くない。大学病院の訪問時間は、病人の世話がやけず、一ばん医者や看護婦の邪魔にならない正午から午後三時までに限られる。もっとも産科では昼間働いていて、そんな暇のないあわれな亭主にだけ六時半から一時間訪問を許すことになったのは、ごく近年のことで、これを公立病院の「人道化」と呼んだ。\n入院料は恐ろしく値上げされて、よいホテル並だが、食事はいかにもまずい。",
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"authorImageUrl": "",
"summary": ""
},
{
"book_id": "52395",
"access": 344,
"title": "宮本武蔵",
"authors": [
"吉川 英治"
],
"first_sentence": "初版が出たのさえ十数年前だった。<sub alias=\"きこう\">起稿</sub>を思い立った日からでは、もう、二十年ちかい歳月がながれている。\nこの書が、装幀を新たに、版をかさねて出るとなると、いつも私は過去<sub alias=\"ぼうぼう\">茫々</sub>の想いにたえない。じつに世のなかはその間にすら<sub alias=\"いくかわ\">幾変</sub>りも<sub alias=\"へんせん\">変遷</sub>してきた。\nさる人が私にいった。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d9/Eiji_Yoshikawa.jpg/228px-Eiji_Yoshikawa.jpg",
"summary": "『宮本武蔵』(みやもとむさし)は、吉川英治の新聞小説。朝日新聞に連載されたこの作品は、1935年の8月23日から、4年後の1939年7月11日まで続いた。\n二天一流の開祖でもある剣豪・宮本武蔵の成長を描き、剣禅一如を目指す求道者・宮本武蔵を描いたこの作品は、日中戦争から太平洋戦争へと向かう戦時下で人気を得た。\nしかし、小説の多くの部分、特に冒頭は殆どが吉川英治の創作であり、お通や又八などの存在をはじめ、沢庵との出会いも創作である。小説では武蔵は関が原の戦いで西軍に加わったことになっているが、剣豪として有名であった父の新免無二が関ヶ原の東軍の黒田家に仕官していたことを証明する黒田家の文書 があり、父とともに東軍として九州で参戦していた可能性が高いことなど、小説の前提が完全に史実に反している。\nこの小説による誤った宮本武蔵像がその後一般大衆にあたかも真実であるかのように広まったことに対し、吉川自身は、古橋広之進、升田幸三も本書のどこかを自身の精進に生かし得たということを「人づてに聞かされもした」「(よろこびとか張り合い以上に)苦痛にも似た自責をおぼえないではいられない」と述べている。"
},
{
"book_id": "4618",
"access": 344,
"title": "神曲",
"authors": [
"ダンテ アリギエリ"
],
"first_sentence": "第一曲\nわれ正路を失ひ、人生の覊旅半にあたりてとある暗き林のなかにありき 一—三\nあゝ荒れあらびわけ入りがたきこの林のさま語ることいかに難いかな、恐れを追思にあらたにし 四—六\nいたみをあたふること死に劣らじ、されどわがかしこに享けし<sub alias=\"さいはひ\">幸</sub>をあげつらはんため、わがかしこにみし凡ての事を語らん 七—九\nわれ何によりてかしこに入りしや、善く説きがたし、<sub alias=\"まこと\">眞</sub>の路を棄てし時、睡りはわが身にみち/\たりき 一〇—一二\n",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/6/6f/Portrait_de_Dante.jpg/210px-Portrait_de_Dante.jpg",
"summary": "『神曲』(しんきょく、伊: La Divina Commedia)は、13世紀から14世紀にかけてのイタリアの詩人・政治家、ダンテ・アリギエーリの代表作である。\n地獄篇、煉獄篇、天国篇の3部から成る、全14,233行の韻文による長編叙事詩であり、聖なる数「3」を基調とした極めて均整のとれた構成から、しばしばゴシック様式の大聖堂にたとえられる。イタリア文学最大の古典とされ、世界文学史上でも極めて重きをなしている。当時の作品としては珍しく、ラテン語ではなくトスカーナ方言で書かれていることが特徴である。"
},
{
"book_id": "1578",
"access": 343,
"title": "愛と美について",
"authors": [
"太宰 治"
],
"first_sentence": "兄妹、五人あって、みんなロマンスが好きだった。長男は二十九歳。法学士である。ひとに接するとき、少し尊大ぶる悪癖があるけれども、これは彼自身の弱さを<sub alias=\"かば\">庇</sub>う鬼の<sub alias=\"めん\">面</sub>であって、まことは弱く、とても優しい。弟妹たちと映画を見にいって、これは駄作だ、愚劣だと言いながら、その映画のさむらいの義理人情にまいって、まず、まっさきに泣いてしまうのは、いつも、この長兄である。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/77/Osamu_Dazai.jpg/214px-Osamu_Dazai.jpg",
"summary": ""
},
{
"book_id": "100",
"access": 341,
"title": "桃太郎",
"authors": [
"芥川 竜之介"
],
"first_sentence": "むかし、むかし、大むかし、ある深い山の奥に大きい<sub alias=\"もも\">桃</sub>の木が一本あった。大きいとだけではいい足りないかも知れない。この桃の枝は雲の上にひろがり、この桃の根は<sub alias=\"だいち\">大地</sub>の底の<sub alias=\"よみ\">黄泉</sub>の国にさえ及んでいた。何でも天地<sub alias=\"かいびゃく\">開闢</sub>の<sub alias=\"ころ\">頃</sub>おい、<sub alias=\"いざなぎ\">伊弉諾</sub>の<sub alias=\"みこと\">尊</sub>は<sub alias=\"よもつひらさか\">黄最津平阪</sub>に<sub alias=\"やっ\">八</sub>つの<sub alias=\"いかずち\">雷</sub>を<sub alias=\"しりぞ\">却</sub>けるため、桃の<sub alias=\"み\">実</sub>を<sub alias=\"つぶて\">礫</sub>に打ったという、——その<sub alias=\"かみよ\">神代</sub>の桃の実はこの木の枝になっていたのである。\nこの木は世界の夜明以来、一万年に一度花を開き、一万年に一度実をつけていた。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/34/Akutagawa.ryunosuke.jpg/320px-Akutagawa.ryunosuke.jpg",
"summary": ""
},
{
"book_id": "43014",
"access": 340,
"title": "アグニの神",
"authors": [
"芥川 竜之介"
],
"first_sentence": "一\n<sub alias=\"シナ\">支那</sub>の<sub alias=\"シャンハイ\">上海</sub>の<sub alias=\"ある\">或</sub>町です。昼でも薄暗い或家の二階に、人相の悪い<sub alias=\"インド\">印度</sub>人の婆さんが一人、商人らしい一人の<sub alias=\"アメリカ\">亜米利加</sub>人と何か<sub alias=\"しきり\">頻</sub>に話し合っていました。\n「実は今度もお婆さんに、占いを頼みに来たのだがね、——」\n亜米利加人はそう言いながら、新しい<sub alias=\"まきたばこ\">巻煙草</sub>へ火をつけました。\n「占いですか? 占いは当分見ないことにしましたよ」\n婆さんは<sub alias=\"あざけ\">嘲</sub>るように、じろりと相手の顔を見ました。\n「この頃は折角見て上げても、御礼さえ<sub alias=\"ろく\">碌</sub>にしない人が、多くなって来ましたからね」\n「そりゃ<sub alias=\"もちろん\">勿論</sub>御礼をするよ」\n亜米利加人は惜しげもなく、三百<sub alias=\"ドル\">弗</sub>の小切手を一枚、婆さんの前へ投げてやりました。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/34/Akutagawa.ryunosuke.jpg/320px-Akutagawa.ryunosuke.jpg",
"summary": "『アグニの神』(アグニのかみ)は、芥川龍之介の短編小説。1921年(大正10年)に雑誌『赤い鳥』にて発表された。タイトルの「アグニの神」とは、ヒンドゥー教の火の神「アグニ」のことである。"
},
{
"book_id": "682",
"access": 337,
"title": "舞姫",
"authors": [
"森 鴎外"
],
"first_sentence": "石炭をば早や積み果てつ。中等室の卓のほとりはいと靜にて、<sub alias=\"しねつとう\">熾熱燈</sub>の光の晴れがましきも徒なり。今宵は夜毎にこゝに集ひ來る<sub alias=\"かるた\">骨牌</sub>仲間も「ホテル」に宿りて、舟に殘れるは余一人のみなれば。\n五年前の事なりしが、<sub alias=\"ひごろ\">平生</sub>の望足りて、洋行の官命を蒙り、このセイゴンの港まで來し頃は、目に見るもの、耳に聞くもの、一つとして新ならぬはなく、筆に任せて書き記しつる紀行文日ごとに幾千言をかなしけむ、當時の新聞に載せられて、世の人にもてはやされしかど、今日になりておもへば、<sub alias=\"をさな\">穉</sub>き思想、身の程知らぬ放言、さらぬも<sub alias=\"よのつね\">尋常</sub>の動植金石、さては風俗などをさへ珍しげにしるしゝを、心ある人はいかにか見けむ。こたびは途に上りしとき、<sub alias=\"にき\">日記</sub>ものせむとて買ひし册子もまだ白紙のまゝなるは、獨逸にて物學びせし間に、一種の「ニル、アドミラリイ」の氣象をや養ひ得たりけむ、あらず、これには別に故あり。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/71/Mori_Ogai_in_the_atelier_of_Sculptor_Takeishi_Kozaburo_in_1916.jpg/207px-Mori_Ogai_in_the_atelier_of_Sculptor_Takeishi_Kozaburo_in_1916.jpg",
"summary": "『舞姫』(まいひめ)は、森鴎外の短編小説。1890年(明治23年)、民友社社長の徳富蘇峰の依頼を受け執筆し『国民之友』に発表。\n森鴎外が1884年から4年間ドイツへ医学を学ぶために留学した時に執筆された。主人公の手記の形をとり、その体験を綴る。高雅な文体と浪漫的な内容で、初期の代表作。本作、『うたかたの記』、『文づかひ』の三作品を独逸三部作あるいは浪漫三部作と呼ぶことがある。この作品を巡り石橋忍月との間で論争(舞姫論争)が起こった。なお、主人公には作者森鴎外といくつかの類似点がある。「#太田豊太郎のモデル」も参照。\nなお、1910年発表の短編「普請中」も同じ事件を題材にしている。"
},
{
"book_id": "2381",
"access": 335,
"title": "瓶詰地獄",
"authors": [
"夢野 久作"
],
"first_sentence": "拝呈 時下益々御清栄、<sub alias=\"けいがたてまつりそうろう\">奉慶賀候</sub>。<sub alias=\"のぶれば\">陳者</sub>、<sub alias=\"かね\">予</sub>てより御通達の、潮流研究用と<sub alias=\"おぼ\">覚</sub>しき、赤<sub alias=\"ふうろう\">封蝋</sub>附きの<sub alias=\"ビール\">麦酒</sub>瓶、拾得次第<sub alias=\"とどけつげ\">届告</sub>仕る様、島民一般に<sub alias=\"もうしわたしおきそうろうところ\">申渡置候処</sub>、此程、本島南岸に、別小包の如き、樹脂封蝋附きの<sub alias=\"ビール\">麦酒</sub>瓶が三個漂着致し居るを発見、<sub alias=\"とどけいでもうしそうろう\">届出申候</sub>。右は<sub alias=\"いず\">何</sub>れも約半里、<sub alias=\"ないし\">乃至</sub>、一里余を隔てたる個所に、或は砂に埋もれ、又は岩の隙間に固く挟まれ居りたるものにて、よほど以前に漂着致したるものらしく、中味も、御高示の如き、官製<sub alias=\"はがき\">端書</sub>とは相見えず、雑記帳の破片様のものらしく候為め、御下命の如き漂着の時日等の記入は不可能と<sub alias=\"ぞんぜられそうろう\">被為存候</sub>。然れ共、<sub alias=\"なお\">尚</sub>何かの御参考と存じ、三個とも封瓶のまま、村費にて御送附<sub alias=\"もうしあげそうろうあいだ\">申上候間</sub>、<sub alias=\"なにとぞ\">何卒</sub>御落手<sub alias=\"あいねがいたく\">相願度</sub>、此段<sub alias=\"きいをえそうろう\">得貴意候</sub> 敬具\n月   日\n海洋研究所 御中\nああ………この離れ島に、救いの舟がとうとう来ました。\n大きな二本のエントツの舟から、ボートが二艘、荒浪の上におろされました。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000096/card2381.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/6/6d/Kyusaku_Yumeno.jpg/206px-Kyusaku_Yumeno.jpg",
"summary": "『瓶詰の地獄』(びんづめのじごく)は、探偵小説作家夢野久作の小説。雑誌『猟奇』の昭和3年(1928年)10月号に掲載された。掌編ともいうべき短い作品。"
},
{
"book_id": "56078",
"access": 335,
"title": "駅伝馬車",
"authors": [
"アーヴィング ワシントン"
],
"first_sentence": "前章で述べたのは、イギリスに於けるクリスマス祝祭に就ての幾つかの一般的な觀察であつたが、今わたしは誘惑を感ずるままに、その具體的な例證として田舍で過したクリスマスの逸話を記してみたいと思ふ。讀者が之を讀まれる際に、わたしから辭を低くして切に願ふのは、いかめしい叡知はしばらく忘れて純一な休日氣分にひたり、愚かしきことをも寛き心を以て許し、ひたすら愉樂をのみ求められんことである。\n十二月のこと、ヨークシャを旅行の途上、長い道程をわたしは驛傳馬車の御厄介になつたが、それはクリスマスの前日であつた。馬車は内も外も乘客が混みあつてゐた。その語りあふところから見ると、行先は主に親戚友人の家でクリスマスの御馳走になりに行くのらしかつた。",
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"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/bf/Irving-Washington-LOC.jpg/225px-Irving-Washington-LOC.jpg",
"summary": ""
},
{
"book_id": "689",
"access": 334,
"title": "山椒大夫",
"authors": [
"森 鴎外"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"えちご\">越後</sub>の<sub alias=\"かすが\">春日</sub>を経て今津へ出る道を、珍らしい旅人の一群れが歩いている。母は三十歳を<sub alias=\"こ\">踰</sub>えたばかりの女で、二人の子供を連れている。姉は十四、弟は十二である。それに四十ぐらいの女中が一人ついて、くたびれた<sub alias=\"はらから\">同胞</sub>二人を、「もうじきにお宿にお着きなさいます」と言って励まして歩かせようとする。二人の中で、姉娘は足を引きずるようにして歩いているが、それでも気が勝っていて、疲れたのを母や弟に知らせまいとして、折り折り思い出したように弾力のある歩きつきをして見せる。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000129/card689.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/71/Mori_Ogai_in_the_atelier_of_Sculptor_Takeishi_Kozaburo_in_1916.jpg/207px-Mori_Ogai_in_the_atelier_of_Sculptor_Takeishi_Kozaburo_in_1916.jpg",
"summary": "「山椒大夫」(さんしょうだゆう)は、説話「さんせう太夫」をもとにした森鴎外による小説で、鴎外の代表作の一つである。"
},
{
"book_id": "46322",
"access": 334,
"title": "銀河鉄道の夜",
"authors": [
"宮沢 賢治"
],
"first_sentence": "「ではみなさん、さういふふうに川だと云はれたり、乳の流れたあとだと云はれたりしてゐた、このぼんやりと白いものが何かご承知ですか。」\n先生は、黒板に吊した大きな黒い星座の圖の、上から下へ白くけぶつた銀河帶のやうなところを指しながら、みんなに問ひをかけました。\nカムパネルラが手をあげました。それから四五人手をあげました。ジヨバンニも手をあげようとして、急いでそのままやめました。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/card46322.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/4d/Miyazawa_Kenji.jpg/225px-Miyazawa_Kenji.jpg",
"summary": "『銀河鉄道の夜』(ぎんがてつどうのよる)は、宮沢賢治の童話作品。孤独な少年ジョバンニが、友人カムパネルラと銀河鉄道の旅をする物語で、宮沢賢治童話の代表作のひとつとされている。\n作者の死により未定稿のまま遺されたこと、多くの造語が使われていることなどもあって、研究家の間でも様々な解釈が行われている。この作品から生まれた派生作品は数多く、これまで数度にわたり映画化やアニメーション化、演劇化された他、プラネタリウム番組が作られている。\n\n"
},
{
"book_id": "49862",
"access": 334,
"title": "城",
"authors": [
"カフカ フランツ"
],
"first_sentence": "Kが到着したのは、晩遅くであった。村は深い雪のなかに横たわっていた。城の山は全然見えず、霧と<sub alias=\"やみ\">闇</sub>とが山を取り巻いていて、大きな城のありかを示すほんの微かな光さえも射していなかった。Kは長いあいだ、国道から村へ通じる木橋の上にたたずみ、うつろに見える高みを見上げていた。\nそれから彼は、宿を探して歩いた。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001235/card49862.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/b4/Kafka.jpg/240px-Kafka.jpg",
"summary": "『城』(しろ、Das Schloss)は、フランツ・カフカによる未完の長編小説。1922年執筆。とある寒村の城に雇われた測量師Kが、しかしいつまで経っても城の中に入ることができずに翻弄される様子を描いている。生前は発表されず、死後1926年にマックス・ブロートによって編集・公刊された。カフカの3つの長編小説『失踪者』『審判』『城』の中では最も成立時期が遅く、また最も長い作品である。"
},
{
"book_id": "1737",
"access": 334,
"title": "李陵",
"authors": [
"中島 敦"
],
"first_sentence": "<sub alias=\"かん\">漢</sub>の<sub alias=\"ぶてい\">武帝</sub>の<sub alias=\"てんかん\">天漢</sub>二年秋九月、<sub alias=\"きとい\">騎都尉</sub>・<sub alias=\"りりょう\">李陵</sub>は歩卒五千を率い、<sub alias=\"へんさいしゃりょしょう\">辺塞遮虜<img src=\"http://www.aozora.gr.jp/cards/../gaiji/1-92/1-92-79.png\" alt=\"※(「章+おおざと」、第3水準1-92-79)\" class=\"gaiji\" /></sub>を発して北へ向かった。<sub alias=\"アルタイ\">阿爾泰</sub>山脈の東南端が<sub alias=\"ゴビさばく\">戈壁沙漠</sub>に没せんとする辺の<sub alias=\"こうかく\">磽<img src=\"http://www.aozora.gr.jp/cards/../gaiji/1-89/1-89-06.png\" alt=\"※(「石+角」、第3水準1-89-6)\" class=\"gaiji\" /></sub>たる丘陵地帯を縫って北行すること三十日。<sub alias=\"さくふう\">朔風</sub>は<sub alias=\"じゅうい\">戎衣</sub>を吹いて寒く、いかにも万里孤軍来たるの感が深い。<sub alias=\"ばくほく\">漠北</sub>・<sub alias=\"しゅんけいざん\">浚稽山</sub>の<sub alias=\"ふもと\">麓</sub>に至って軍はようやく止営した。すでに敵<sub alias=\"きょうど\">匈奴</sub>の勢力圏に深く進み入っているのである。",
"url": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000119/card1737.html",
"authorImageUrl": "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/45/AtsushiNakajima.jpg/214px-AtsushiNakajima.jpg",
"summary": "『李陵』(りりょう)は、『漢書』(「李広蘇建伝」「匈奴伝」「司馬遷伝」)、『史記』(「李将軍列傳」「太史公自序」)、『文選』(「答蘇武書」「任少卿報書」)等を典拠とした、中島敦の短編小説である。中島没後の昭和18年(1943年)7月、『文學界』に発表された(脱稿は前年10月)。『李陵』という題名は、深い交友のあった深田久弥が、遺稿に最も無難な題名を選び命名したもので、中島自身は「漠北悲歌」などいくつかの題を記したメモを遺していた。"
}
]
}
@takatama
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takatama commented May 2, 2020

青空文庫で人気の200作品分のデータです。2020年3月のアクセスに基づいています。

@takatama
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takatama commented May 3, 2020

青空文庫の情報は https://github.com/aozorahack/pubserver2 から取得しました。
authorImageUrl と summary は Wikipedia から取得しました。
どうもありがとうございます🙇‍♂️

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