2.3 意義 Sinn と イミ Bedeutung
単称名: refer to の機能. (referent, Träger (bearer))
→ 同一性 (Gleichheit) の問題.
(1) 明けの明星 = 宵の明星
(2) 明けの明星 = 明けの明星
(1) と (2) は異なる認識価値を持つ. (2) は分析的 (analytisch) なのに対し, (1) は認識を拡大するのに役立つ.
→ 同一性はもはや記号の間の関係ではない.
解決法: 「単称名の意味はその指示対象を指すことに尽きる」という前提の否定.
イミ: 単称名の指示対象
意義: 「表示されたものの与えられる様態」→ ?
全てがイミに尽きるという主張 ……以前のフレーゲの著作に見いだせないわけではない.
→ もっとも素朴な例: 「心的イメージ」が心理主義において果たす役割をすべて実在の物に負わせたもの. (明らかに文脈原理に抵触)
(フレーゲの場合は事実や事態についての形而上学的思弁からほとんど無縁だった: 論理的推論の妥当性はほとんどイミの議論で足りる. (truth-value の決定))
(合成B) 文のイミは, それを構成する部分表現のイミと文の構造によって決定される.
真理値 がここでのイミとしての資格を有する.
(文脈B) 語のイミは, それが現れる文のイミ (= 真理値) への寄与である.
フレーゲの取った道: 単称名のイミはその指示対象であるとする. (実在論的)
『算術の基本法則 第1巻』 32節.
ここで採用する伝統的解釈: 文の意義をその真理条件 (truth condition) と同一視する. → 文の真偽さえ前提すれば文の理解の一般的特徴づけが可能という洞察.
あるSを理解するとは, Sの真理条件を知ることである. 意義とはSを理解するときに知られているもの.
指摘されるべき2点:
(1) 意義論はイミ論を前提する.
(2) 意義は理解と相関する.
(文脈S) 語の意義は、それが現れる文の意義 (= 思想, 真理条件) への寄与である.
(合成S) 文の意義はそれを構成する部分表現の意義と文の構造によって決定される.
↓帰結
(合成S') 文の意義の理解はそれを構成する部分表現への理解と文の構造への理解によってなされる.
(S→B) 意義はイミを決定する.
文の場合: 真理条件は (言語外的な要因をまって) 真理値を決定する.
(PB) いかなる文も真または偽のいずれかである. ⇔ (B2) いかなる文もイミをもつ.
→ 古典述語論理の基本的性格. 排中律と切り離せない.
単称名の場合: それが表現する何らかの条件が指示対象を決定する. (ex. "日本最北端の岬" → 宗谷岬)
(EA) いかなる単称名も指示対象をもつ. Fa ┣ ∃xFx
⇔ (B1) いかなる単称名もイミをもつ.
(B1), (B2) ⇒ "適正に形成された名前はつねに何かをイミしなければならない"
問題 : 例えば「現在の日本国大統領」という表現は意義のみを有し、イミを欠くのではないか?
フレーゲはこれをあまり真剣に受け取らなかった.
理由1: フレーゲの意味論は自然言語のために立てられたものではない. (フレーゲはこれをむしろ自然言語の欠陥と考えた)
→ 反駁: 自然言語を意味論の適用対象から除外するのは満足できる結果ではない. (さもなくば, "明けの明星" などを用いた説明は比喩に終わってしまう)
理由2: イミを欠く言語表現は虚構的文脈での出現と同化しうる.
→ 反駁: 必ずしもそうではない. 例えば, 「もっとも遅く収束する数列」はイミを欠くが, これについて論じた数学者は詩人と同じ職業に従事していたのだろうか?
答え : 言語理解の相関者としての意義と, 言語から実在への通路をつけるものとしての意義には分裂がある.